848 ボンバージャスティス
お店に戻ると、ボンバーズのメンバーがカウンターに集まっていた。
みんなでファーを見ているようだ。
「あー。こらこらー。ファーは見世物じゃないんだからねー」
手を叩いて近づくと、みんな離れてくれた。
「……店長さん、この子ってもしかして、人間じゃないんですか?」
メンバーの1人が聞いてきた。
「ゴーレムだよ」
ここは素直に認めておこう。
ファーは、いくら綺麗でも、ちゃんと見ればロボとわかる子だ。
誤魔化してもしょうがないだろう。
「ゴーレムって……。こんなのあるんですね……」
「貴重なものでねー。うちで預かって仕事を教えているんだー」
「覚えるんですか?」
「うん。優秀だよー」
「すげー……」
「ファー。みんなに挨拶して」
「ニクキュウニャーン」
くるっと回って肉球ポーズを取ると、拍手が起きた。
「自己紹介もお願い」
「私ハ、自動反応型ゴーレム、MR01ファー、デス」
またも拍手が起きた。
そんなことをしていると、フラウが帰ってきた。
「クウちゃん、ただいまなのである! ファーもただいまなのである! にくきゅうにゃ~んなのである!」
「ニクキュウニャーン」
私はフラウに、しばらくファーの育成を任せることにした。
私は仕方がないのでボンバーを起こす。
嫌だけど回復魔法もかけた。
「うう……」
椅子に座らせたボンバーが目覚める。
私は反対側の席に座って、腕組みして足も組んでたずねた。
「で?」
「あああ! ハニーが真のお金持ちを見つけてしまったようです! 私の運命はこれまでなのでしょうかぁぁぁ!」
「いやアレ、お嬢様的な歩き方の勉強だったよね?」
「そんなわけがありますかぁぁぁぁ! ハニーは、ただひたすらにお金の匂いに敏感な子なのですぞおおお! あんな紳士と親しくなって、手も出さずに指導だけ受ける訳がないでしょうがぁぁぁぁぁ!」
「……ホントにさ、よくそれで付き合ってたね」
「可愛いは正義です」
急に真顔になってボンバーは言った。
「なるほど」
それは確かに。
「どう見ても、ただ金づるにされていただけっすよね」
脇にいたタタくんが呆れた顔で肩をすくめた。
「それがハニーの愛のカタチなのですぞ」
「いい加減に目覚めるっす」
「安心しなさい、タタ。このボンバーは常に目覚めておりますぞ! 私は進化を続ける男なのですからな!」
意味はわからないけど、この自信だけはすごい。
正直、感心するね。
「まあ、でも、さっきの紳士――モッサって名前なんだけど、彼のことは気にしなくていいと思うよー」
「クウちゃんさんは、あの男のことを知っているのですかっ!?」
「うん。少しね」
「ぜひ教え――!!」
「近づいたら蹴る!」
「……ぜひ教えていただけると嬉しいですぞ」
うむ。
少しは学んでくれたようでよろしい。
「彼、田舎から出てきて、帝都で一山当てようとしている人でね。帝都に道場を開く費用で私財の大半は消えたみたいだよー。女の子にブランド物を買ってあげるような余裕はないからさー」
「ほほう。洗練された印象でしたが、田舎から出てきた男なのですか」
「チンピラみたいな弟子を引き連れてさ、本人もタチが悪かったよー」
最初は。
「その男が帝都で礼儀を教える、と?」
「うん。すごいよね」
今はもう別人で、ただの紳士だけど。
トリスティンに感謝だ。
「それは……。ハニーの身に危険があるのではぁぁぁぁ!!! その男の道場とやらはどこにあるのですかぁぁぁぁ!!!」
「あーもう、うっさい!」
「教えてください! 様子を見に行かねばなりません! というか、夕方の時間に2人で歩くなど、今が危険ではありませんかぁぁぁぁ!」
あ。
立ち上がったボンバーが……。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
奇声を上げながら、まさに爆弾野郎の勢いで――。
お店から走って出ていってしまった。
オルデとモッサの2人を追いかけるのだろう。
ふむ。
「タタくん、武具の受け取りは明日の放課後でお願い」
「わかったっす。よろしくお願いするっす」
よいしょっと。
私も椅子から身を起こした。
「もしかして……。店長さん、ボンバーの後を追うっすか?」
「うん。面白そうだしね」
ボンバー対モッサ。
なかなかすごいことになりそうだ。
「仕方がないっす。自分も付き合うっす。考えてみたら、通りで暴行なんてされたらボンバーズ解散の危機っす」
というわけで、お店とファーのことはフラウにお任せして――。
みんなには帰ってもらって――。
大勢でいくと目立つし、大事になりかねないからね。
私はタタくんと2人で通りに出た。
夕暮れの帝都。
ボンバーミッションのスタートだ。




