846 ボンバーズリターン
「じゃあ、ファー。カウンターのぬいぐるみを棚に並べてー」
「了解シマシタ」
エカテリーナさんの家でのパーティーから数日が過ぎた放課後。
私はお店で仕事をしていた。
まったくね。
学校で勉強して、帰ればお店に出て。
なんで私、こんなに頑張って生活しているんだろう。
私のふわふわライフはどこに行ったのか。
まあ、うん。
楽しいからいいんだけどね。
今日も仕事というか、ファーの育成がメインだし。
ファーは、私が黒魔法『クリエイト・ゴーレム』で生成したアイアンゴーレムのメイドロボだ。
見た目的には、メイド服を着た無表情でボブカットな女の子。
人工の瞳と人工の髪、それに関節部分の形状で、よく見ればちゃんとメイドロボだとわかるけど――。
よく見なければ、普通に可愛い女の子だ。
そして、なんと、AI搭載。
アイテム欄に入れれば「育成型知能個体、レベル2」との記載が出る。
つまりは育つのだ。
レベルが上がれば、それこそ普通にしゃべるのかも知れない。
今はまだ、言われたことに反応するだけだけど。
で、今は、ファーに仕事を教えていた。
棚にぬいぐるみを並べる仕事だ。
すでに、こうするんだよー、というお手本は見せた。
あとはその通りに出来るかどうかだ。
まずはファーが、カウンターに置いた5個のぬいぐるみをカゴに入れる。
そして、カゴを手に持った。
棚の前に移動して、丁寧に置いていく。
ファーはアイアンゴーレム。
その気になれば、鉄の棒でも曲げることはできるけど――。
人形を潰すことなく、きちんと並べることができた。
「完了シマシタ」
横で見ていた私にファーが言った。
「うん。合格。じゃあ、もう一回、やってみようか。最初からね」
「了解シマシタ」
そんなことをやっていると――。
カランカラン。
鈴の音を鳴らして、ドアが開いた。
現れたのは、犬人族の獣人で若手冒険者のタタくんだった。
「あ、タタくん。久しぶりー」
「店長さん、お久しぶりっす。表に看板が出ていなかったっすけど、お店に入っても大丈夫っすか?」
「うん。いいよー」
ファーの研修中だったので、看板はしまっておいたのだ。
とはいえ、来たお客さんは拒まない。
ちなみにエミリーちゃんには、ついさっき、帰ってもらった。
ファーの研修を見たがっていたけど、いつもいつも日が暮れてからの帰宅ではご家族に申し訳ない。
フラウは、エミリーちゃんを送っているところだ。
「ファーは、カウンターの奥で待機していて」
「了解シマシタ」
「また新しい店員さんなんっすね」
「うん。まだ研修中でねー。それで、帰ってきたってことは、ダンジョン攻略作戦はおわったんだ?」
「はい。無事に完了したっす。あとは申請が通ればBランクっす」
「おー。おめでとー」
「ありがとうっす。店長さんの武具のおかげっす」
「あはは。タタくんたちの実力だよー。あ、武具の修復?」
「はい。台車で持ってきたんっすけど……」
「うん。預かるよー」
量が多いので奥の工房まで運んでもらうことにした。
傷ついた武具を抱えて、ボンバーズのメンバーがお店に入ってくる。
「お。新しい子! また可愛いねー! 名前は?」
早速、ファーのことに気づいたメンバーが気さくに声をかける。
ファーの反応はない。
現状では、登録した相手じゃないと反応しないのだ。
「ははは! 無視されてやんの!」
「うっせー!」
まあ、しつこくせず、すぐにあきらめて武具を置きに行くのはボンバーズのメンバーのいいところだ。
ちなみにメンバーの中にボンバーの姿はなかった。
タキシード姿の筋肉野郎は、ハッキリ言って嫌でも死ぬほど目立つ。
いれば絶対にわかる。
なので、いないということだろう。
なにかあったのかな?
怪我をしたとか……。
あ、もしかして。
オルデとなにかあったのかも知れない。
オルデは、私がトリスティン送りにした結果、ナリユキでナリユ卿から告白された数奇な運命の女の子だ。
オルデはボンバーのことをダーリンと呼んで、金づるにしていた。
だけど、ナリユ卿との一件で……。
なにか思うところがあったのかも知れない……。
それで……。
ボンバーはいらなくなった、とか……。
正直、ボンバーのことなんてどうでもいいけど……。
とはいえ、私のせいか。
ふむ。
どうしようか。
考えていると……。
「――お悩みですかな、クウちゃんさん」
「うおわぁぁぁぁぁぁ!?」
「ぐぼぁー!」
あああああ!
しまったぁぁぁぁぁ!
ぽーっとしているところに声をかけられて、反射的に、つい、お店の外まで蹴り飛ばしてしまったぁぁぁぁぁ!
もはやこれは、パブロフの犬だぁぁぁぁぁぁ!
ベルの音で食事がもらえる生活をしていたら、ベルの音を聞いただけでよだれが出るようになっちゃった的なー!
私は、うん!
かわいいだけが取り柄の女の子ですし、よだれなんてしませんけど代わりに蹴るだけですけどぉぉぉぉぉ!
…………。
……。
まあ、いいか。
ボンバーだし。
そう。
メンバーたちに遅れて、筋肉野郎のボンバーがお店に来て――。
今は、外の通りでひっくり返って伸びていた。




