845 事の顛末
夜。
ライトアップされた庭園で、覗き見していた私たちと、覗き見されていたお姉さまたちが騒いで――。
真っ先にやってきたのは、ハラデル男爵だった。
「これはお揃いで。大きな声を出して、いかがなされたのですかな?」
「あ。いえ、なにも……」
私は誤魔化そうとしたけど――。
「それで、サンネイラの小倅よ。横槍は入ったようだが、しっかりと自分の言葉で伝えるべきことは伝えたのかね?」
「はい……。なんとか……」
「そうか。勇気を出したではないか。見直したぞ」
ハラデル男爵は事情を知っているようだ。
自分から質問して、返答を得て、満足した顔で大いに笑った。
「はははっ! 2人が無事に結ばれることになった暁には、このハラデルが仲人となってやるから安心せい!」
「そうなっても、男爵になど頼みませんわっ!」
お姉さまは、そっぽを向くけど――。
「実は、ハラデル男爵に叱られてしまって。僕がハッキリしないから、まわりが振り回されているのだと。今回のことでは背中を押されたのです」
申し訳無さそうにトルイドさんが言った。
「君は次期当主なのだ。一般人感覚では困るということだな」
「はい……。ご面倒をおかけしました」
「一般人としても覚悟が足りぬがな。殿下、小倅と結婚した暁には、しっかりと手綱を握ってやるのですぞ」
男爵がカラカラと笑う。
言いたい放題だ。
ついでにセラが横から口を挟んだ。
「でも、すみません、お姉さま……。せっかくいい雰囲気で、これからあの……。とか、するところだったんですよね……。わたくしが大きな声を出したせいで台無しにしてしまって……」
「セラフィーヌ! なにを言っているのですか貴女は! 何もするところではありませんでしたわ!」
「ははは! 殿下、それは残念でしたな!」
ふむ。
もしも、からかわれているのが私だったのなら……。
クウちゃんだけに、くうううう。
の場面だね。
間違いなく確実に。
話していると、騒ぎを聞きつけた他の人たちまでもが来てしまった。
ただ、それについては男爵が上手く追い返してくれた。
皇女殿下が急に出てきた虫に驚いただけだ、と。
セラとお姉さまが同意すると――。
みんな、何事もなくてよかったと安心して、お屋敷の方に帰ってくれた。
みんながいなくなってから、お姉さまはため息をついた。
「……すべては男爵の差し金だったのですね」
「差し金とは言葉が悪いですぞ。先達として良き道を示したのです。よもや迷惑とは言われますまい?」
「はぁ……。もう、いいですわ……。わたくしの負けです。参りましたわ」
「はっはっは! 勝ち負けなどありませんぞ、殿下! すべては、このバスティール帝国の平和の為ですぞ!」
「でも、よかったですね、お姉さま! おめでとうございます!」
「セラ、おめでとうはまだ早いよ? ちゃんと満足できるバーガーが作れたらの話なんだからさ」
うん。
まずは、そこからだよね。
「せいぜい努力して、満足できるバーガーを作るが良い。優勝するのは、このハラデルだがな」
「当然、全力で行きます。次こそは男爵に勝ちます」
私の言葉に、ハラデル男爵とトルイドさんは闘争心を燃やしたようだ。
バチバチと火花が散る。
両者とも、頑張ってほしいところだ。
かくして。
一件落着。
いろいろあったけど、收まるべきところに収まって。
めでたしめでたし、だね。
「じゃあ、セラ。私たちは帰ろっか」
「はい。そうですね」
私たちも気持ちよく帰ろうと思ったのだけど――。
「お待ちなさい」
お姉さまに呼び止められた。
私とセラが振り返ると、お姉さまはニッコリと笑う。
「どれだけ話がまとまったとしても、貴女たちが覗き見などという下品な行為をしていた事実は消えませんよ?」
う。
「クウちゃんには本当にお世話になっていますが……。それとこれとは別の話です。さすがにわかりますわよね?」
「は、はい……」
「セラフィーヌもです。覗き見など皇女のすることですか?」
「すみませんでしたぁ」
誤魔化して逃げられるかなーと思ったけど……。
駄目でした。
この後は、いったん応接室に戻って、お姉さまからたっぷりと淑女の有り方についてのご指導を受けた。
お姉さまは、照れ隠しに加えて、気持ちが通じた高揚もあってか――。
もう本当に、しつこいくらいに熱心だった。
私とセラは延々と付き合わされて、とてもとても疲れました。
とてとてでした。
でも、はい。
ごめんなさいでした。
反省して、次に活かしたいと思いますです。




