840 ナリユキで求婚!?
結局、トリスティンには夕方まで滞在するハメになった。
私としてはエカテリーナさんの家のパーティーが気になるので、さっさと帰りたかったのだけど……。
王都にまで魔物が来てしまっている現状は、さすがに放置できなかった。
今まで魔物退治をしていた冒険者や騎士がいなくなって、どんどん活動範囲を広げた結果のようだ。
特にゴブリン族が集まっていた。
私は見つけた集団から順番にお願いしていって――。
最終的にはボスにたどり着いて――。
ボスと幹部は、ほんの少しだけ暴力的な子たちだったので――。
申し訳ないけど、ほんの少しだけオハナシさせてもらって――。
結果として、元の住処である山奥に帰ってくれることになった。
みんな、ちゃんとオハナシすれば、いい子なのだ。
これでとりあえず、急場は凌げるだろう。
しかし、現状だと……。
自警団を組織して柵や堀で守りを固めた地方の村の方が、ゴブリンにとっては面倒な場所のようだ。
ゴブリンたちは、外壁の割れ目や下水道、それに運河沿いに作られた地下道から王都に入り放題だったようだ。
夜間にちまちまと盗みを繰り返していたという。
そして、ついに、昨日の夜、初めてニンゲンを襲ってみたそうだ。
結果は大成功。
勢いづいて、大襲撃をかけようとしていた。
危ないところだったよ。
まあ、ともかく。
王都に猶予はあげることができた。
別の魔物に目を付けられる前に、警備体制は整えてもらおう。
さすがに今後も面倒を見てあげるつもりはないし。
で、結局。
そんなこんなで夕方になってしまったわけだ。
私はオルデと王城の小ホールで合流して、魔法で帰還することにした。
ドラン氏とナリユ卿が見送りしてくれる。
「怪我人の治療とゴブリンの件は面倒をかけた。警備体制は、難しい部分もあるが出来るだけ見直してみよう」
「市民の人たちが襲われるのは可哀想だし、頑張ってね」
私はドラン氏と言葉を交わした。
「あと、センセイには、くれぐれもよろしく頼む。トリスティン王国はセンセイのご意向に従う、と」
「了解」
私は、白仮面の神子戦士ソードとしてうなずいたけど……。
センセイって、ホント、誰だろうね。
本気でわからなくなるね。
「あと、そういえば、もう一点――。前回よろしくお願いされた、モッサという男はどうすれば良い? 指導は完了しているが」
「モッサ……?」
はて。
さて。
誰だっけ。
「君がラムス前国王に預けた武闘家の男だが?」
「あー! あいつかー!」
思い出した!
ネスカ先輩の健康道場に嫌がらせした地方から来た武闘家だ!
完全に存在を忘れていた!
「指導がおわったなら連れて帰るよ。ありがとう」
「わかった。では、連れて来よう。しばらく待たれよ。モッサについては、ラムス前国王が最後の仕事として全力で指導を行った。俺の目から見ても問題ない仕上がりになっている」
「それはどうも」
ドラン氏がホールを出て行く。
「オルデ、今日は本当に勉強になったよ。それに、本当に楽しかった。君は、もう帰ってしまうんだね……」
ナリユ卿が、夕日の差し込む小ホールで、寂しそうに言った。
「そうね。さよならね」
対するオルデは、さっぱりとした態度だ。
ナリユ卿が私に言う。
「……ソード様、オルデを僕にくれませんか?」
は?
と思わず言いそうになってしまった。
いや、うん。
だって、あまりに突然だったから。
「オルデは、どこの家の方なのでしょうか? 正式にご挨拶させていただき、妻に迎えたいのですが」
「えっと。そんな話したの? 口説いて成功しちゃった?」
私はオルデにたずねた。
「してないわよ。いくらなんでも無謀でしょ。最初からそんな気ないって」
「僕が惚れたのです。オルデとなら、きっと、この国を立て直せると。どうか教えていただけないでしょうか」
ナリユ卿は、オルデのことを貴族の娘だと思っているようだ。
ふむ。
どうしようか。
この子は、ただの庶民だよー身分違いだよー。
と言うのは簡単だけど……。
少なくともオルデは、自分の身分は言っていないようだけど、とはいえ嘘をついた様子はない。
誘ったり甘えたりした様子もない。
なので2人の関係は、自然な友人のように見えた。
それを私が壊すのは、なんか嫌だ。
なので私は言った。
「気になるのなら、探してみれば良い」
と。
カッコつけソード様モードで。
「君は、自分の力で何も成したことがないのだろう?」
ナリユ卿だけに、ナリユキばかりで。
「ならば、せめて、惚れた相手くらい、自分で見つけてみせよ。その時には私――いや、センセイがその名において、祝福を与えよう」
「――わかりました」
ソード様の言葉に、ナリユ卿はうなずいた。
「ねえ、ちょっとソード様。そんな勝手なこと言って。私なんて――」
オルデが抗議してくるけど――。
そんなオルデの手を、ナリユ卿が握った。
「オルデ。僕は君を見つける」
「だーかーらー。無理だって」
「いいや。見つけてみせる。僕は確信したんだ。君こそが運命の相手だと。少しだけでいいから待ってくれないか?」
「ソード様ぁ」
困り果てたオルデが私に助けを求めてくる。
「嫌なら振り払えばいい」
「そんなことできるわけないでしょっ! もったいない!」
「ならばうなずけばいい」
「そんなことできるわけないでしょっ! 無謀すぎ!」
どっちなんだ。
まあ、うん。
どっちも本音なんだろうね。
気持ちは、わかる。




