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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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835 クウちゃんさまは見た!




「美味しいですわ。美味しいですわ。さすがはトルイドさんですの。どれも美味しくて頬が落ちまくりですわ」


 今、私の目の前で、お姉さまは食事を取っていた。

 パクパク。

 パクパク。

 本当に幸せそうに食べている。


 トルイドさんは、コックとしての仕事に戻った。


 私、思う。


 これはいったい、どういう状況なのか。

 お姉さまの正義は、どこに行ったのか。

 正義とは、なんだったのか。

 食べることだったのか。

 うん。

 そうだったのかも知れないね。

 そんな気がしてきた。


 トルイドさんは、夏の帝都で会った時と変わらない自然体だった。

 お姉さまの正義を気にする様子はなかった。

 あるいは、すでに、お姉さまの正義なんて理解しているのか。

 そうなのかも知れないね。

 すなわち……。

 それは、食べることだと。

 それならそれで、まあ、いいのか。

 私は気にしないことにした。


 そもそも今は、ガーデン・パーティーの最中。

 思うところがあったとしても、澄まし顔をして、平然と振る舞うのが紳士淑女というものなのだ。

 オハナシは、パーティーの後でいいよね。


 ちなみに料理は、すべてをトルイドさんが作ったわけではない。

 ハラデル男爵も作っているし、エカテリーナさんの家の料理人や臨時で雇われた人も頑張っている。


 だけど私は、あえてツッコミはしなかった。


 だって、うん。


 お姉さまは幸せそうなのだ。


 パクパク。

 パクパク。


 口元を汚すことなく、服も汚すことなく、実に器用に食べている。

 さすがのご令嬢なのだ。

 帝国を代表する筆頭淑女は伊達ではないのだ。


 ちなみに少量ではある。


 メイドさんはキチンと私の言葉を守って、少しずつお皿に乗せているのだ。

 全種類を。

 繰り返して。

 大変だけど頑張ってほしい。


 私にはもう、言える言葉はほとんどない。


「太りますよ」


 と。


 一応、忠告はするけど――。


 ワゴンに新しい料理を乗せたトルイドさんが戻ってきて……。

 優雅に食べ続けるお姉さまの姿を見て言うのだ。


「やっぱりアリーシャさんは、食べている時が1番に素敵ですね。本当に正直、見惚れてしまいます」


 なんていう、口説き文句みたいな言葉を。

 するとお姉さまは口元を拭って、不機嫌そうにこう答える。


「もう、トルイドさん。食べる姿なんて、じろじろ見るものではありませんわよ」

「そうですね。すみません。嬉しくって、つい」

「……まあ、いいですけれど。特別に許して差し上げますわ」

「ありがとうございます」


 手際よく料理を盛り付けて、トルイドさんが新しいお皿をアリーシャお姉さまの前に置いた。

 もう何度目かだけど、まだ食べさせる気のようだ。


「クウちゃんさんは、どうですか?」

「私はもう十分です」

「はい。わかりました」


 トルイドさんがワゴンの料理を、お姉さまの前に置いていく。

 料理を置いて、トルイドさんは再び仕事に戻っていった。


「ふふ。美味しそうです」

「太りますよ」


 私は再び、一応、義務として言った。

 残念ながらその言葉は、お姉さまの耳に届いていなかったけど。

 まあ、うん。

 お姉さまのことは、もういいかな。

 幸せそうだし。

 幸せの邪魔をするほど、私は無粋ではないのだ。

 私は空気の読める子なのだ。


 私はパーティー会場の様子を、のんびりと眺めることにした。


 会場には明るい音楽が流れる。

 空は快晴。

 そんな中、みんな、食べたりおしゃべりしたりしていた。

 庭園には大道芸人も来ていた。

 あれやこれやと技を披露しては拍手をもらっていた。

 けっこう自由な雰囲気だ。


 お。


 ラハ君、発見。

 ラハ君は、一般の参加者さんと談笑している。

 ラハ君は、シャルレーン商会の跡取りだしね。

 こういう場での知り合いは多いのだろう。


 レオは、大柄な男性に肩を組まれて、死んだ顔をしていた。

 その大柄な男性が、騎士をやっているという叔父さんなのだろう。

 結局、見つかったようだ。

 頑張って鍛え直してもらってね。


 アヤは、クラスの女の子たちと一緒に大道芸を見ていた。


 エカテリーナさんは……。

 どこだろ。

 あ、いた。

 すでにセラからは解放されたようで、貴族の人とテーブルを囲んでいた。

 気のせいか疲れ切っているけど……。

 うん。

 気のせいだろう。

 私は、細かいことは気にしない子なのだ。


 セラの姿は見えなかったけど、どこにいるのかは魔力でわかる。

 1番に人の集まっている場所の真ん中だ。

 なんといってもセラは、聖女ユイリア様にも認められた光の魔力の保有者で世直し旅の主人公なのだ。

 大人気になるのは、当然だろう。

 セラにはお姉さまの分も頑張って愛想を振りまいてもらおう。

 お姉さまは、うん……。

 今日は社交なんて、まるでする気もなさそうだし。


 まあ、でも。


 お姉さまについては、本当に――。

 きぃぃぃぃぃぃぃ!

 って、ならなくてよかった。


 だって、考えてみると……。

 エカテリーナさんの家で、いきなりトルイドさんが現れたわけだ。

 下手をすれば、うん。

 大惨事だったね……。

 でも、まあ、幸いにもそうはならなかった。

 よかったよかった。

 私は安心した。

 安心すると、あと少しだけ軽くなにかを食べたい気持ちになった。


「お姉さま、私、見学ついでに、自分で取ってきますね」

「ええ。いってらっしゃい」


 私は席を立って、ビュッフェテーブルに行った。

 テーブルには、スイーツから肉類やサラダまで、本当にたくさんの料理がこれでもかと並べられている。

 どれも美味しそうだ。

 なにを食べようか迷ってしまうね。

 そんな中、同じく料理を選ぶ人たちの向こう側から、知っている2つの声が私の耳に届いた。


「ねえ、貴方ってサンネイラの料理人なのよね?」

「はい。そうですよ」

「さっき、男爵様と一緒にいたよね?」

「はい。そうですね」

「仲いいんだ?」

「はい。一緒に料理を作る程度には」

「男爵様って、帝国でも最高の料理人なんだよね? 賢人って名前のある。そんな人と一緒に料理なんて、まだ若いのにすごいのね!」


 料理を並べていたトルイドさんに、若い女の子が話しかけていた。

 私はその子を知っている。

 ボンバーの彼女として、うちのお店に来ていた子だ。

 名前はたしか――。


「あ、私、オルデって言うの。よろしくね」

「はい。僕はトルイドと言います」

「トルイド! 見た目通り、優しそうで素敵な名前ね!」


 ふむ。


 これは……。


 オルデはたしか、このパーティーに参加してボンバーよりもいい男を見つけると言っていた。

 それ自体を否定するつもりはない。

 彼氏がいるのにさらに上の彼氏を探しちゃうタイプの子は、前世の大学にも普通にそれなりにいた。

 私に関わってこなければ、好きにすれば、というヤツだ。

 そう――。

 私に関わってさえこなければ――。


 はい。


 残念ながら、思いっきり関わっているのだ。

 今回は……。


「クウちゃん」


 え。


 いつの間にかお姉さまがうしろに来ていたぁぁぁぁぁ!


「どうしたのですか、そんなに驚いた顔をして」

「いえ、あの」

「ふふ。わたくしも選びに来ましたわ。こうして自分で選んで取るのも楽しみというものですわよね」


 私は――。


 ――パワーワード発動。

 ――我、クウ・マイヤが世界に願う。我に力を。


「どうしたのですか、クウちゃん?」


 まだ何も知らないお姉さまが首を傾げて――。

 ちらりと視線を移して――。


「あ」


 と、声を上げて、トルイドさんの姿に気づいた瞬間――。


 もはやこれまでなのだ。

 かくなる上はなのだ。


「スリープクラウド」


 私は範囲拡大した睡眠魔法を使った。





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― 新着の感想 ―
全員眠らせた!?
[良い点] スリープクラウドとかいうほぼ反則めいた呪文好き
[一言] オルデの存在をすっかり忘れてました。
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