830 新たなる戦士!
「酷いです、クウちゃん! 酷いですー!」
「あはは。ごめんね」
考えればファーのことは、セラに言っていなかったよ。
隠していたと思われちゃったかな。
と思ったら――。
「わたくしに内緒で、にゃ~んなんて! 一緒にゃ~んなんてぇぇぇぇ! わたくしだってしたことがないのにー!」
「あ、そっちなのね。ならやる?」
「やります」
というわけで。
来たばかりのセラと、とりあえずにくきゅうにゃ~んをした。
セラは練習なしでも完璧だった。
さすがだ。
その後でファーやゴーレムくんたちのことを紹介する。
「フラウさん、ヒオリさん、エミリーちゃん。おめでとうございます。ついに成功したんですね、すごいです」
「うむ。クウちゃんの指導の賜である」
「わたし、頑張って、次はハトちゃんを飛ばせてみせるよー!」
「某も素晴らしい経験になりました。この経験を生かして、これから更に試行錯誤していくのが楽しみでなりません」
「クウちゃんのゴーレムは、まるでメイドさんですね」
「メイドロボだしねー。ほら、ファー。挨拶して」
「ニクキュウニャーン」
ファーがセラに向けて、くるっと回って肉球ポーズを取る。
「え。あの」
「これがうちのファーの挨拶です」
「そうなんですね……。あ、初めまして。わたくしはセラフィーヌと申します。クウちゃんのお友だちです」
真面目なセラがファーに丁寧にお辞儀をする。
「ファー、この子も登録しておいて」
「了解シマシタ。登録完了」
「……お話もできるんですね。生きているみたいです」
「今のところ、応対だけだけどねー」
「しゃべっているだけでもすごすぎですよー」
セラがそう言うと、フラウたちが同意した。
「ところでセラは、今日は単に遊びに来たの?」
「いえ……。その……」
「どしたの?」
まさかまた、エカテリーナさん?
と思ったら違った。
「ヒオリさんが体調を崩して早退されたと聞いたので……。クウちゃんがいれば心配はないと思ったのですが、念の為、様子を見に……」
「ふむ」
言われてみれば普通にヒオリさんがいるね。
いつもならまだ学院長として、学院で仕事をしている時間なのに。
「はは。お恥ずかしい。2人のゴーレム生成が見たくて、我慢できずに思わず仮病を使ってしまいました」
「元気そうでよかったです」
セラが素直にヒオリさんの無事を喜ぶ。
うん。
良い子だ。
「しかし、サボった甲斐はありました。実は、2人がここまで安定して生成できたのは今回が初めてなのです」
「生成自体は、実は少し前には成功していたのである。しかし、カタチが崩れたり時間が短すぎたり、命令を聞かなかったり……。問題があったのである。ついにここまで来たのである。なのでお披露目なのである」
「クウちゃん、勝手にお店を閉めてごめんなさい」
「いいよー。めでたい話だしねー」
「某、今後も研究を重ねて、このゴーレム生成をしっかりと体系化していきたいと思います。そして、ゆくゆくは、土以外の属性でも、特に水属性での『心核』の利用にも成功したいと思います」
「学院に行っている場合じゃないねー」
私は笑った。
「そうですね。いっそ、辞めますか! ……と、一瞬だけ思いましたが、店長の卒業は見届けさせていただきます」
「ふむ。それなら私も一緒に辞めるとか?」
冗談でそう言ったら――。
「クウちゃん! なにを言っているんですかー!」
セラが怒った。
「ごめんごめん。冗談だよー」
「クウちゃんのいない学院生活なんて有り得ませんからね! クウちゃんが辞めるならわたくしも辞めます!」
「あはは。辞めないからー」
いや、うん。
セラなら本気で辞めかねないから困る。
「ハッ!」
セラが突然、なにかに気づいた。
「エカテリーナさんは関係ないからね?」
私はすかさずブロックした。
「ハッ!!」
セラがさらになにかに気づいた。
今度はなんだろか。
「クウちゃん……。まさか、ハンバーガーですか?」
む。
鋭い。
なにが鋭いかと言われると困るけど、ハンバーガーと問われて否定できない自分が確かにここにはいた。
「わかりました」
セラがなにかを悟ったようだ。
「ハンバーガー、わたくしも考えてみたいと思います」
「新作を?」
思わず私はたずねた。
「はい。――それが、答えならば」
「――うん。わかった」
私はセラにうなずきを返した。
セラの目は真剣だった。
かくしてここに、新たなる戦士が生まれた。
セラフィーヌ・エルド・グレイア・バスティール。
12歳。
帝都中央学院魔術科1年生。
類稀なる光の魔力の保有者。
私は、ク・ウチャンとして――。
彼女の、最強バーガー決定戦への参加を――。
ここに承認した。
のだけど――。
さすがにいくらなんでも無理があるのではとヒオリさんに言われて……。
確かにその通りなので……。
大会への参加は、やめておくことになった。




