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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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83 皇帝陛下の演説会



 地上に出ると、まばゆい太陽が私を出迎えてくれた。

 時刻は昼くらいかな?

 陛下の演説会は午後1時からってことだから、もう時間に余裕がないかも。

 でもいったん、お店に戻った。

 戸締まり確認しないと。


 と思ったらお店にヒオリさんがいた。


「あれ、演説会は?」

「店長っ! よくぞご無事でっ! 心配していましたっ!」

「うん。無事に帝都防衛は成功したよ。それより待ってなくても演説会に行ってくれればよかったのに」

「そういうわけにはいきませんっ!」

「今からで間に合う? 私は空の上から見学するから平気だけど」

「大丈夫です。現地は人混みで疲れそうですし、某は広場に置かれた受信鏡で生放送を見るつもりです」

「生放送なんてあるんだ?」


 そういう便利な魔道具があるらしい。

 水晶球に映像を録画することもできるという。


 発信用の魔道具が超絶に高価なので、国事でしか使われないそうだけど……。

 なんにしても、すごい。

 異世界、侮りがたしだ。


 戸締まりを確認して、ヒオリさんとはお店の前でお別れ。

 私は『透化』して『浮遊』。


 ふわふわ~っと演説会の会場に向かった。


 ひと仕事した後だし、ふわふわ飛んでいると眠くなる。

 アクビが出る。

 いかんいかんっ!

 さすがにここで眠って演説会を見逃したというのは後悔が残る。


 今日の演説会は、最初の夜に私が引き起こしてしまった精霊の祝福ことアシス様の祝福について語るのだ。

 内容は聞かされていないけど、私にも関係はある。

 というか当事者か。


 演説会は、大宮殿と市街地をつないだ、大きくて美しい広場が会場だった。

 大宮殿の上階に立派なテラスがあって、そこから陛下は演説を行うようだ。


 広場には何万人がいるのだろう。

 すごい人混みだった。


 会場には、スピーカーのような魔道具が設置されている。

 今は勇壮な音楽が流れている。

 国歌かな?

 そんな印象の曲だった。


 私は広場の隅に立つ巨大な樹木の枝に腰掛けた。

 茂る緑に隠れていて、誰かに見られる心配はなさそうなよい場所だった。


 まずは慎重に確認……。

 うん。

 虫はいないね。


 『透化』を解いて自然の息吹を感じる。

 葉々の匂い。

 青空には、光と風。

 『透化』しているとホント、何も感じられないのが残念だ。


「アンジェはどこにいるんだろうねえ……」


 テラスの左右に貴賓席があるから、たぶんそこかな?

 少なくとも広場ではなさそうだ。


 敵感知に反応はない。

 一応、安全。

 ただ、あくまで私に危険がないというだけの話なので完全ではない。

 油断はしすぎないように気をつけよう。


 あ、そうだ。

 ソウルスロットを変えておくか。

 小剣武技を黒魔法に。

 何かあれば、遠距離からの魔法攻撃がいいよね。

 白魔法と敵感知はそのまま。


 いよいよ始まるようだ。

 国歌の演奏がおわり、文官の男性が皇帝陛下の登場を伝える。

 一気に会場が静まる。


 真紅のマントを翻し、陛下が登場する。

 テラスの縁で両腕を広げる。

 大きなジェスチャーは離れた場所からでもしっかりと見て取ることができた。


「臣民の諸君、本日はよくぞ集まってくれた!」


 鮮明に聞き取れる重厚な声がスピーカーごしに大きく響いた。


「本日は諸君らに、とあるひとつの重大な出来事についてを語るため、この演説会を開かせてもらった。

 その出来事は、この場にいる多くの者が経験しているだろう。

 あらゆる傷を癒やし、あらゆる病を打ち消す、我らに降り注いだ聖なる光――。

 すなわち、この大宮殿にて起きた1000年ぶりの奇跡――。

 精霊の祝福――。

 精霊の帰還についてである」


 私のことだよね。

 わかってはいたけど、なんだか緊張する。


「今より1000年の昔、かつてこの大陸に在った古代ギザス王国は、高慢にも万物の源を支配せんとし、滅びた。

 以来、我らは精霊との絆を失い、懺悔と共に祈りを捧げる日々を過ごしてきた。

 それは精霊神教の伝える通りである。

 奇跡は、神官を始めとする多くの信徒たちの祈りの結晶とも言えるのだろう」


 テラスの貴賓席には神官の姿がそれなりにあった。

 帝国と精霊神教の関係は悪いものではないようだ。


 ここからしばらくは帝国の歴史が語られた。

 支配ではない調和の歴史。

 そもそも帝国は周辺の小国や多種族を征服して生まれた覇権国家ってリリアさんに聞いた気もするけど、種族に関わりなく暮らしている町の様子は、確かに調和といって差し支えないものだと思う。

 私の目にすべてが見えているわけはないから、見えないところでどうなっているかまでは知らないけど。

 とりあえず私は見える範囲でいいし。


 話は長い。

 絆を感じる過去のエピソードがあれやこれやと語られていく。


 反乱があったけど、話し合いで解決したとか。

 帝都の城壁を多くの種族の協力で作ったとか。

 魔物の氾濫で町が半壊した時に略奪が起きなかった民度の素晴らしさとか。


「――故に帝国は資格を得た。

 我は確信を以て、それを断言するものである」


 私の意識さんは、穏やかな木漏れ日の中で半分くらい飛んでいた。


 ああ……。

 意識がふわふわする……。

 体もふわふわする……。


 ふわ~。


 学校の先生とかの話を聞いている時も、こんなんだったなぁ、私。

 人間、いくら見た目が変わっても、そうそう本質までは変わらないものだねえ。


「そして、届いたのだ。

 あの祝福の夜、願いの泉のほとりにて――我らが祈りが」

 ――見よ」


 陛下が腰の鞘から剣を引き抜いた。

 天に掲げる。


 私はぽけーっとそれを見ていた。


 陛下が手に持つのは、私があげたミスリルソードだ。

 純ミスリルは美しい。

 陽射しを浴びて、七色の光を広げている。

 幻想的だ。


 なんだっけなぁ……。

 ノリで名前をつけた気もするけど……。

 忘れたねえ……。


 お。


 ミスリルソードがさらにまばゆく、真っ白に輝いた。

 会場がどよめく。


 ふふ。


 あれ、わしがつけた付与の効果なんじゃよ……?

 すごいじゃろう……?


「――これぞ、我が大宮殿にて、

 この世界に顕現せし唯一の精霊より譲り受けし聖剣、

 光の剣。

 この帝国こそが光の担い手たる証である」


 剣を掲げ、堂々と宣言する陛下は、まさに皇帝陛下。

 カッコイねー。

 きっと、たくさん練習したんだろうねえ。

 それとも、練習なんてしなくても自然にできてしまうのが王者なのかなー。


 お。


 そうだ。


 寝ぼけ眼で私は、面白いことを思いついた。

 陛下にはいろいろとお世話になったしね。

 サービスしてあげよう。


 これはきっとウケるよ。


「……ソウルスロットを変更っと」


 アクビしつつ操作。

 黒魔法を古代魔法にする。


 詠唱開始。


「――発現せよ。


 ――集中せよ。


 ――解放せよ」


 ターゲットは陛下っと。

 はい発動。


「エンシェント・ホーリーヒール」


 鉱石探しに旅立つ前、セラにもかけてあげた究極回復魔法。


 天から降り注いだ光が柱となって陛下を包む。


 うん、完璧。


 きっと祝福の光に見えるよね、状況的に考えても。

 正確にはヒールだけど。

 しかしホント、古代魔法はどれもこれも派手で見応えがあって素晴らしい。

 頑張って覚えた甲斐があるというものだ。


 なんにしても、陛下はさすがだね。

 セラじゃなくて、自分の肩に責任を乗せるなんて。


 実は、ちょっと心配していた。

 セラが聖女認定されて、自由に遊べなくなってしまうんじゃないかって。


 セラはむしろ望んでいた気もするけど、まだ11歳なんだし、そこまで責任ある人生を送らなくていいと思うんだよね、私は。

 だって来年からは学校もある。

 呪いで長いこと苦しんで、やっとこれから青春を謳歌するんだし。


 まあ、私のせいでいろいろ噂にはなっていますが。

 そこはうん、フォローだね、フォロー。


 やがて光の柱は消える。

 陛下は無言で、天に掲げていたミスリルソードを鞘に戻した。


 会場は静まり返っていた。


 ただそれは感動の「タメ」だったようで、次の瞬間には、爆発したように会場から歓声が巻き上がった。

 やがてそれは、帝国万歳、皇帝陛下万歳の大コールへと変わる。


 私も木漏れ日の下でパチパチと拍手した。

 いやー、うん。

 私の魔法も、ちゃんとウケてよかった。


 大成功だねー。


 やったぜ。


 私にしては珍しく、何の問題もなくカンペキだったんじゃなかろうか。

 うん。

 すばらしいことだ。


 かくして陛下の演説会は、大いに盛り上がっておわった。


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