826 お姉さまのお見合い話
「ねえ、エカテリーナさん。結局、ハラデル男爵が帝都にいたのって、流行りのハンバーガーを食べるためだったの?」
朝、登校してきたエカテリーナさんに私はたずねた。
昨日のシャルさんのお店での件だ。
「そうですね。それもあるようでしたが……」
「他にもあったの?」
「ええ……。何やら、陛下と至急のお話があったとかで」
「そかー」
ハンバーガーのことかな。
それとも……。
「もしかして、例の件……?」
私がたずねると、エカテリーナさんは肩をすくめた。
「いいえ。その件については、もうおわったことだと言われました」
「そうなんだ。よかったね」
お姉さまの挑発作戦は、やっぱり大成功だったみたいだね。
「本当によかったです。お祖父様のことですから、てっきり、陛下にまで話を持ち込んだのかと思いました」
「あはは。ハラデル男爵なら、やりかねないよねー」
「本当に強引で困ります。今度のパーティーにも友人を連れて出るというんですよ。皇女様に紹介するとかで」
「でも、なら、何の話だったんだろうね」
「さすがに聞けませんでしたけれど、それこそハンバーガーの話でしょう?」
「陛下に?」
「だって、他には考えられませんもの」
「ふむ。それもそうだね……」
たしカニ。
v(・v・)v
ルールについて言いたいことでもあったのだろう。
たとえば、制限時間とか。
前回のトマト勝負……。
制限時間30分は、明らかに短すぎた。
ただ念の為――。
お昼休み。
ランチの後、私は生徒会室に行った。
お姉さまはいつも、お昼休みは生徒会室にいると言っていた。
トントントン。
「お姉さま、いますか? クウです」
私はドアをノックして呼びかけた。
すると中から、
「どうぞ」
と、お姉さまからの返事がした。
「失礼します」
私はドアを開けて生徒会室に入る。
生徒会室には、すっかり馴染みの顔になった、アリーシャお姉さまとメイヴィスさんとブレンダさん。
それに、ダンジョン訓練に同行した水魔術師のレイリさんがいた。
4人はなにかの事務仕事をしていた。
「よっ! 師匠! 今度は何があったんだ?」
「どんな敵が出ました?」
「あ、まさか! 例のセンセイガがついに帝国にも出たのか!?」
「それは朗報です。詳しく聞かせてください」
ブレンダさんとメイヴィスさんが、そんな風に声をかけてくる。
まあ、うん。
何もなければ来るはずはないので当然か。
ただ残念ながら今回は戦闘関係ではない。
「えっと。実はちょっと、お姉さまに質問がありまして……」
私はお姉さまに目を向けた。
「構いませんわよ。どうぞ」
「実は、ハラデル男爵が陛下のところに行ったと思うのですけど……」
「そうなのですか?」
「はい。聞いていませんか?」
「ええ。何も……」
「そかー」
「でもお父様と言えば、昨日の夜、とんでもない話を持ってきましたのよ」
お姉さまが露骨に不機嫌な顔をして言う。
なんの話かと思ったら……。
「よりにもよって、親の決めた婚約話断固反対派のこのわたくしに、お見合い話を持ち込んで来ましたの」
「あら」
それはなんともタイミングが悪い。
「断ったんですか?」
「もちろんです」
「せっかくなんだし、会うだけ会ってみればいいのにさ」
「そうです。いい人かも知れませんよ」
すでに婚約者のいるブレンダさんとメイヴィスさんが、まさに余裕の上から発言でそう言った。
「断固拒否ですわ! そんなの正義が許しません! わたくしの正義が!」
「お姉さま、まだ正義とか言ってるんですね……」
「当然です。わたくしは、こうと決めたことは、しっかりと守り、最後までやり抜くタイプなのです」
「ちなみに相手はどんな人だったんですか?」
「知りませんわ。聞けば興味を持ったと思われて、勝手に話を進められてしまうかも知れないでしょう」
「そかー」
「アリーシャ。もしかして貴女、意中の相手でもいるのですか?」
メイヴィスさんが鋭い質問をした。
「そんな相手はいません!」
お姉さまは即座に否定して、そっぽを向いた。
しかし顔が赤い。
「わたくしは、正義の話をしているだけです!」
「だけどさぁ……。正義もなにも、貴族の結婚なんて、正直、家のためにあるようなものだと思うぞー」
「そうですね。よほど変な相手なら、もちろん別ですが」
ブレンダさんとメイヴィスさんは、お見合いくらいしとけ派だね。
私も事情を知らなければ、そっち派だったかも知れない。
なにしろ皇女様だ。
普通の出会いなんて簡単にはないだろうし。




