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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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822 閑話・青年ラハエルは異国の王女と放課後を過ごす




「さあ、ラハ君。一緒に帰ろっ」


 この差し伸べられた手を、僕はどうすればいいのだろう。

 放課後。

 授業がおわって――。

 マイヤさんは、お昼に約束した通り、僕と一緒に姉さんの経営するハンバーガー屋に行こうと声をかけてきた。


 僕は、ラハエル・シャルレーン。

 帝都中央学院の普通科に通う、地味な一年生。


 マイヤさんはクラスメイト。

 帝室の保護を受けて帝国で暮らす、異国の王女殿下。

 全体的な印象はエルフに似ていて、耳は長くないけど、透明感のある細身で美麗な容姿をしている。

 ただ、エルフではないそうだ。

 実際、クラスでの姿を見ていれば――。

 エルフのように、超然として、僕たちとは別の存在であることを感じさせるような近寄り難い印象はまるでない。

 むしろ逆だ。

 マイヤさんは、だいたいポワッとしている。

 今も、僕に手を伸ばしながら、ニコニコと柔らかく笑っている。


「どしたの?」


 マイヤさんが僕にこてんと首を傾げる。


「あ、うん……」


 もちろん手は取らず、僕はのろのろと椅子から身を起こした。


「お店、久しぶりだから楽しみだねー」


 同じクラスメイトのアヤさんがマイヤさんの横に並んだ。

 僕は少しホッとする。

 どうやらアヤさんも一緒に行くようだ。


「あら。どこかに行くのですか?」


 話を聞いたエカテリーナ様が声をかけてくる。


「うん。ちょっとラハ君のお姉さんのハンバーガー屋さんにね。ハンバーガーを食べに行こうかと」


 聞かれて、マイヤさんが答える。


「学院祭の時に、お世話になったお店ですか?」

「そそ。エカテリーナさんも来る?」

「そうですね……。では、せっかくですし……」


 というわけで――。


 姉さんのお店までは、エカテリーナ様の馬車で行くことになった。


 いつもなら話に入ってきそうなレオ様は、授業がおわるや否や走って教室から出ていったので、もういなかった。

 レオ様は最近、放課後に剣の訓練をしている。

 夏季休暇で魔物の討伐作戦に参加して、冒険者として生きていく確かな手応えを得たのだそうだ。

 レオ様は中央貴族家の跡取り。

 なのに、勉強嫌いで……。

 規律も嫌いで……。

 文官にも騎士にも、なりたくないと言っているのだ。

 逞しいなぁ、と思う。

 僕には出来そうもない。

 僕は、姉のシャルロッテと兄のボンバー――。

 2人の破天荒な人生を近くで見てきたから、さらにそう思う。

 僕は普通に、学院で勉強して、シャルレーン商会に入って、しばらく修行した後にお飾りの当主になる。

 それでいいかな、と、真面目に思っている。

 次期当主という時点で普通ではないのかも知れないけど、シャルレーン商会は合議制で当主の力は弱い。

 当主は、余計なことをしないのが第一。

 現当主である僕の父も、商会の経営にはほとんど関わることなく、趣味の美術品の取引ばかりをしている。

 僕も将来は、そういう感じでいい。

 本音だ。


 馬車が姉さんのバーガー屋に到着した。

 マイヤさんを先頭に、僕たちは馬車から降りてお店に入る。


 すると――。


 1人の老紳士がお店にはいた。

 鷹のように鋭い眼差しで、真剣にバーガーを食べようとしている……。


 何事か口にしかけたエカテリーナさんを――。

 マイヤさんが横に伸ばした腕で制した。


 お店には妙な緊張感があった。


 なんだろうか。


 老紳士がバーガーを食べようとしているだけなのに――。

 まるで真剣勝負が始まるかのようだった。


 老紳士がバーガーを口にする。


 もぐもぐ。


 老紳士が静かにバーガーを食べていき――。

 やがて完食した。


「……このバーガーを作ったのは、誰かね?」


 老紳士が、カウンターの奥で様子を見ていた姉さんに、怖いくらいの静けさで声をかける。


「はい……。私ですが……」

「このバーガーは、クウバーガーだな」

「はい……」


 クウバーガーと聞いて、僕はなんとなくマイヤさんを見た。

 マイヤさんの名前は、クウ。

 みんなからは、クウちゃんと呼ばれている。

 そのクウと同じだった。


「ふむ。クウバーガーの定番であるミートソースの代わりにホワイトソースを使い、その甘さを整えるために、オニオンとトマトではなく、よりさっぱりとしたレタスを幾重にも挟む、か……」

「どうでしたか?」


 カウンターから出て、姉さんがおそるおそるたずねる。


「新鮮な味わいで悪くはなかった。だが、濃厚なホワイトソースに対して、ややレタスでは存在が弱い」

「そうですかぁ……」

「ホワイトソースの味を抑えるか、あるいは、もう少し重い野菜を使うのが良いのではないか? トマトとオニオンも入れるか――。キャベツ。そう、キャベツにするのが良いのではないかね」


 ここでマイヤさんが前に出た。

 ぱちぱちぱち。

 という、拍手と共に。


「さすがだね、男爵。迷わずその答えに行き着くとは」

「これは――! エカテリーナにク・ウチャ――」

「うん。クウちゃんね」

「失礼しました。クウちゃんさんではありませんか! 何故、このような庶民向けのハンバーガーショップに?」

「お祖父様こそ! どうして帝都にいらっしゃるのですか!?」


 エカテリーナさんが大きな声をあげる。


「私のことなどは良い。そんなことよりバーガーだ」


 老紳士は、エカテリーナさんの祖父で、マイヤさんの知己のようだ。


「クウちゃんさんは、この未知とも言えるホワイトソースのクウバーガーにすでに答えを得ているのですか!?」

「答えというか定番で言うなら、クリームコロッケに千切りのキャベツ、それにホワイトソースだね」

「なんと……。パティを外してコロッケ……。その組み合わせは……」


 老紳士は真剣に考えて――。

 カッと目を開いた。


「むうう! それは、まさに! バーガー新時代!」

「クウバーガー・ホワイト。つい先日、大宮殿の料理長が発案したバーガーだよ」

「なんとぉぉぉ! 大宮殿の料理長と言えば、サンネイラ出身のバンザか! あの若造がそれを作ったのですか!」

「うん。見事だったよ」

「くうううううう!」

「あ、男爵。それは駄目です。クウちゃんだけに、なので」

「そんなことよりお祖父様! まさかとは思いますが、私の婚約話を無理やり進めるために来たのではありませんわよね!」


 エカテリーナさんが、マイヤさんと老紳士の間に割って入る。


「うう。どうすればいいのよ……。私は、あのキャベツに勝ちたい……!」


 姉さんが、悔しさを滲ませて壁を叩いた。


「ラハ君のお姉さんのお店、いつも面白いね。それにしても、今日はボンバーズの人たちがいないね」


 アヤさんが言う。


「兄さんたちなら今は帝都にいないよ」

「そうなんだ?」

「次の冒険者ランクを目指して、みんなで遠征に出ているから」

「なんだー。そっかー」







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[一言] バーガーの可能性は無限大な夢
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