816 第3回シルエラさんを笑わそうの会
さあ、というわけで、始まりました。
シルエラさんにはベッドの縁に座ってもらって、いざ!
「1番、セラフィーヌ! いきますっ!」
最初はセラからだ。
シルエラさんの前に立って、いつものように宣言してからの――。
お。
セラが、カッと目を見開いた!
そして、力を込めて――。
目を閉じて、叫んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「クウちゃんだけに、くう!
クウちゃんだけに、くう!
クウちゃんだけに――。
くうううううううううううううううううううううううううう!」
…………。
……。
私にはわかる。
セラは本気なのだろう。
なにしろ、本気でやりきった顔をしている。
シルエラさんが無言で拍手をした。
私も拍手をした。
さあ、次は私の番だ。
セラに代わって、シルエラさんの前に立った。
セラの専属メイドのシルエラさんは、いつもクールで大人びていているけどブリジットさんと同年代。
正確な年齢は聞いていないけど、たぶん、18歳くらいだ。
私は冷静に作戦を組み立てる。
シルエラさんは、ブリジットさんと同様の感性を持っている可能性が高い。
なにしろ同年代なのだから。
つまり……。
いくか……。
「2番、クウ! いきます!」
私の芸は、これだ。
まずは、姿勢を正し、直立する。
腕は伸ばして腰につける。
そして物静かな表情。
ここではまだ、微笑んではいけない。
「私はチューリップ。まだつぼみの、小さなチューリップなの」
まさに一本の、野に生えた、幼いお花と化すわけだ。
その上で……。
「あ、風が、吹いてきたの」
直立して背筋を伸ばしたまま、体をゆっくりと左右に揺らす。
ブリジットさんの得意技、振り子のマネだ。
さあ、どうだ!
駄目か!
シルエラさんは、ぴくりとも頬を動かさない!
クールだ!
ならば!
私にはここからのとっておきがある!
「びゅー! あああ、突風だぁぁぁ!」
あまりに強い風に、かわいいお花の私、根っこから吹き飛ばされたぁぁぁぁ!
直立したまま空中でくるくるくるくる。
まわるううううう!
「クウちゃーーーん!」
セラが悲鳴をあげる。
私、両腕を広げて、すたっと華麗に着地。
そして、ここで満面の笑顔。
「開花!」
ふ。
決まった。
チューリップがね、咲いたよ!
どやぁ!
駄目かぁ!
シルエラさんが無表情で拍手を始めたぁぁぁぁ!
「クウちゃん! 最高でした! わたくし、お花の咲く瞬間を、生まれて初めて見てしまった気持ちです!」
セラは大いに気に入ってくれたようだ。
まあ、うむ。
今回はセラの笑顔で満足しておこう。
私は一礼して、横に下がった。
再びセラが出る。
「3番! セラフィーヌ! いきますっ!」
さあ、セラには休まず、次の芸をする準備があったようだ。
見せてもらおうか!
皇女様の笑いの力とやらを!
と思ったら。
「クウちゃんだけに、くう!
クウちゃんだけに、くう!
クウちゃんだけに――。
くうううううううううううううううううううううううううう!」
…………。
……。
私にはわかる。
セラは本気なのだろう。
なにしろ、本気でやりきった顔をしている。
シルエラさんが無言で拍手をした。
私も拍手をした。
「4番! クウ! いきます!」
私は、負けない。
こうして――。
私たちの戦いは続いた。
セラのクウちゃんだけには、実に5回に渡って続いた。
厳しい戦いだった。
そして、ついに、その時は来た。
「姫様、帰宅の時間です」
シルエラさんが言う。
「あうううう。もうですかぁぁぁぁ」
今日の放課後はおわった。
私たちはお店の外に出た。
夕暮れ空の下――。
お店のとなりの駐車場には、セラを大宮殿に送る馬車が止まっていた。
「セラ、またねー」
「またです、クウちゃん。今日は楽しかったですね!」
「うん。そだねー」
結果は出せなかったけど、楽しかった。
それは確かだ。
私は道に出て、セラとシルエラさんの乗った馬車を見送った。
その後、私は背伸びをした。
「んー」
お腹が空いてきた。
今夜の食事は、何にしようかなー。
おっと、その前に。
そろそろエミリーちゃんをおうちに帰さないとね。
最近、エミリーちゃんの仕事時間が、伸びるばかりで申し訳ない。
今日は私が送っていこう。




