815 クウとセラの放課後
お姉さまがお店に来た翌日――。
放課後、1日の授業をおえてお店に帰ると――。
今度は、制服姿のセラがメイドのシルエラさんと共に待ち構えていた。
「クウちゃんっ!」
「はい。なにかなー」
「わたくし、セラフィーヌですっ!」
「うん。そだねー」
会話が止まった。
昨日のお姉さまと違って、切実な用件はないのかな。
遊びに来ただけなら歓迎するけど。
と思ったら、違った。
「実は、クウちゃんに折り入ってご相談したいことがあって来ました」
「うん。なぁに?」
「実は、なぜか不思議なことに、お姉さまがあの女に興味を持たれて、パーティーに来ると言い出しまして……」
「ねえ、セラ」
「はい。クウちゃん」
「あの女って、もしかしてエカテリーナさんのこと?」
聞くまでもないことだけど、一応、確認した。
まあ、セラにはスルーされたけど。
「正義が正義がと言って様子が変なんです……」
「そかー」
「昨日、何かあったんですか? お姉さま、昨日はクウちゃんのところに来ていたんですよね?」
「来てはいたけど……。えっと。うん。なんにもなかったよー。あはは」
お姉さまの恋バナですとは、さすがに言えない。
「真面目におうかがいしますけど……。あの女は悪なのですね?」
「真面目に言うけど、違うからね!」
いや、ホントに。
「わかりました」
セラは深くうなずいた。
私はほっとした。
よかった。
これでエカテリーナさんも晴れて無実に!
と思ったらセラが叫んだ。
「あの女! 許しません!」
ここでエミリーちゃんが、本当に申し訳無さそうに言った。
「……あのお、店長、お姉さま。他のお客さまのご迷惑になりますので、できれば奥でお話はしてもらえますか?」
見ればお店には、お客さんが3人もいた。
いきなりセラだったので気づかなかった。
「セラ、よかったら私の部屋に来る?」
エミリーちゃんとお客さんに謝ってから、私は言った。
「いいんですかっ!?」
「うん。いいよー」
「うれしいですー! クウちゃんのお部屋に行くのは久しぶりです!」
「さあ、どうぞー」
私はセラの手を取って、カウンターから家の奥に向かった。
「もちろん、シルエラさんもどうぞー」
「ありがとうございます」
「そうだ! 久しぶりにあれやる? シルエラさんを笑わせようの会!」
「懐かしいですねー、それ! ぜひやりましょう!」
「ご遠慮しておきます」
なんてやり取りをしつつ――。
階段を上がって、3階にある私の部屋に入った。
私とセラはベッドの縁に並んで座った。
落ち着いたところで――。
もちろん最初にするのは、エカテリーナさんの誤解を解くことだ。
ホントに、ね。
皇女様2人がいちいちエカテリーナさんを悪役にする。
これさ……。
私がいるからまだいいけど……。
いなかったら、大変なことになっているよね。
もうしょうがない。
セラには、ちゃんと本当の事情をしゃべることにした。
誤魔化してばかりだから誤解されるのだし。
「――と、いうわけなんだよ。つまりは全部、アリーシャお姉さまとトルイドさんの物語というわけでね」
「なるほど、です……。よくわかりました……」
「わかってくれてよかったよ」
「お姉さまも水臭いですね。言ってくれればよかったのに」
「それはさー。言えないよー」
恥ずかしいし。
わかってあげないとね。
「でも、安心しました。これでわたくしは心置きなく、あの女と真面目にオハナシができるわけですね」
「あの、セラ……?」
わかってくれた割には、エカテリーナさんに対しての心証がまるで変化していない感じなのですけど。
「あ、失礼しました。大丈夫です。わかっています、クウちゃん」
「ホントに?」
「エカテリーナさん、ですよね」
「うん。そうそうっ!」
よかった。
セラはちゃんと、わかってくれているねっ!
「セラっ!」
「クウちゃんっ!」
私たちは手を取り合って、喜びを分かち合った。
すっきりしたところで。
「じゃあ、やろうか。今日は、私とセラの2人だけだけど。第3回シルエラさんを笑わせようの会を」
「はいっ! やりましょうっ!」
「……あの。勘弁していただけると嬉しいのですが」
シルエラさんは謙遜してくるけど。
私たちは気にしない!
何故ならば!
私たちには、今年の夏の旅で磨いた芸がある!
進化しているのだ!
きっちり笑わせる自信があるのだ!
「セラ、やろう」
「もちろんです、クウちゃん」
「2人で新しい扉を開こう!」
「はい! わたくし、どこまでもクウちゃんと一緒に行きます!」
ふふー。
シルエラさん、覚悟してくださいよー!




