814 お姉さまがしつこい
「さあ、クウちゃん。作戦会議ですわよ」
「えー」
授業がおわって家に帰ると、お姉さまが待ち構えていた。
「なんですか、その嫌そうな顔と声は」
「いや、だって私、やっと1日の長い勉強がおわって、これからのんびりとするところなんですよ?」
お疲れなんですよ?
「わたくしだってそうですわ。でも人には、やらねばならない使命というものがあるのです。頑張りますわよ」
「作戦会議もなにも、この間のバーガー勝負で解決しましたよね?」
なんとなく、ふわっと。
「何もしていませんっ!」
腕組みして、お姉さまが頬を膨らませる。
「店長、お姉さま、お飲み物を用意しますので、奥の応接室にどうぞ」
エミリーちゃんがやんわりと、他のお客さんの迷惑だから、ちょっとすっこんでてくれますか、と言ってくる。
見ればお店には2人のお客さんがいた。
いきなりお姉さまで気づかなかったよ。
ごめんね。
私たちは応接室に入った。
温かい紅茶をもらって、ほっと一息。
「……で、どんなことを会議するんですか?」
「決まっていますわ。いかに勝手な婚約話をさせないようにするかです」
「陛下にお願いしてくださいよー」
「わたくし、考えたのですけど……」
「はい。なんですか?」
「いきなりわたくしがそんなことを言うのは変じゃありませんか? まるで他に意図することがあるみたいで」
思いっきりありますよね、意図。
とは思ったけど、私は余計なことは言わなかった。
「クウちゃんが言ってくれるとありがたいのですけれど……」
「お断りします。私こそ、完全に関係ないですよね」
「では、聖女様に……」
「絶対に駄目です。とんでもない騒ぎになりますよ。今婚約している人たちが悪人扱いされたらどうする気ですか」
「ならわたくしは、どうすればいいのですかぁぁ!」
お姉さまが叫んだ。
知りませんよ。
と、私はかなり言いかけたけど、ぐっと我慢した。
「お姉さま、今は2人だけだからハッキリと言いますけどね」
「ええ。どうぞ」
「結局、お姉さまは、トルイドさんの婚約話が許せないだけですよね?」
「え」
「え、とかはいいです」
「そ、そ、そんなことはありませんわ……! わたくしは別に、そんな感情で動いているわけでは……。わたくしは、そう、正義……。ただひたすらの正義のために動いているだけです!」
「ふーん。なら、その話は横に置きますか」
「え」
「え、とかはいいです」
「いえ、あの……。正義のために……」
「だから、正義のためですよね」
「わかりました」
お姉さまはうなだれた。
と、思ったら、とんでもないことを言った。
「こうなれば、あの悪女を成敗して正義を!」
「あーもうわかりましたからー。じゃあ、こういうのはどうですか。バーガー大会を利用するんです」
「……どうするんですか?」
「サンネイラとハラヘールを焚きつけるんです。果たしてどちらのバーガーが最高なのかって。そうすれば、もともとライバル都市ですし、婚約話なんて消し飛ぶに違いありませんよ」
特にハラデル男爵は、ちょっと煽れば業火になるだろう。
「それは……。名案ですわね……!」
「代わりに炎は巻き上がりますけど、まあ、いいですよね」
「ええ。正義のためならば、炎で都市のひとつやふたつが燃え尽きても、なんの問題もありませんわ!」
「それは大問題ですけどね」
「ふふ。クウちゃんに相談してよかったですわ」
「あとは、本人たちの問題ですからね」
「そうですわね。これでわたくしもすっきりとした気持ちで、エカテリーナという女とオハナシできますわね」
「え」
「え、とは? どうしたのですか、クウちゃん」
「いえ、あの、そこに話が戻るんですね」
オハナシをさせないために、私、知恵を絞ったつもりでしたが。
「大丈夫ですわ。わたくしの心は晴れやかです。強引なことや乱暴なことなどいたしませんわ。一応、本人の口からも、今回の婚約話に迷惑しているということを聞いておきたいだけですの」
「ならいいですけど……」
迷惑しているのは、確かなんだし。
「そういえば近々、パーティーがあるのでしたよね。どうでしょう、わたくしも参加させていただくのは」
「そうですね。学校で呼び出すよりはいいかと」
「決まりですわね」
パーティーに向けてはセラも張り切っていた。
エカテリーナさんと私の教育方針についてオハナシするのだとか。
加えて、お姉さまか。
あと、オルデって子もなんか張り切っていたね。
エカテリーナさん、がんばれー。
私は心の中で無責任に応援した。
うん。
楽しいパーティーになりそうだ。




