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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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805 どうしたものか




 さて。

 こう見えて私はかしこい。

 最近は、うん。

 実は私は、かしこくないのではないか、なんて思うことも多かったけど、やはり私はかしこい。

 何故ならば、私はハッキリと理解してしまったのだ。

 トルイドさんが送ってきた、この手紙の真意を。

 間違いなく、そこにはエカテリーナさんとのお見合い話が関わっている。


 エカテリーナさんは、ハッキリ断ったと言っていたけど……。

 実は水面下で話は進んでいるのだ。

 東のハラヘール、西のサンネイラ。

 帝国を代表する食の都が、婚姻によってつながる。

 それは冷静に考えて意味のあることだ。

 利益にもつながるだろう。

 きっと、いや、間違いなく――。

 ハラヘールの領主たるハラデル男爵だけではなく、サンネイラの領主たるトルイドさんのお父さんもこの話には乗り気なのだ。

 ただ、当事者たちは拒否している。

 トルイドさんも、間違いなく断ったことだろう。

 だって、うん。

 アリーシャお姉さまがいるしね。

 2人は、たった1日を過ごしただけの仲と言えば、そうなんだけど……。

 男女の仲に時間はいらない。

 私にはわかるのだ。

 2人は、たった1日で、すでに運命の糸で繋がれたのだ。

 たぶん。


 ただ、とはいえ……。

 トルイドさんは、サンネイラの次期当主。

 エカテリーナさんのように、嫌なものは嫌と言ったところで、その現実から逃れることはできない。

 感情を抜きにすれば、エカテリーナさんとのお話が決して悪いものでないことは理解できるはずだ。

 お父さんからも説得されていることだろう。

 ハラデル男爵からも、ガンガン迫られているに違いない。

 そして、トルイドさんは……。

 ついに、押し切られようとしているのだ。

 感情よりも利益を選んで、大人になろうとしている。

 でも、やっぱり捨てきれない感情はあるから、その想いを込めてお姉さまに手紙を書いたのだ。



「それで、クウちゃん。わたくしは、どう返事を書けばいいのかしら?」


 お姉さまは今のところ、東西の食の都を結ぶトルイドさんとエカテリーナさんのお見合い話を知らない。

 なので、うん。

 トルイドさんからの手紙は、ただ純粋に、自分に会いたい気持ちを抑えきれないで書いたものだと思っている。

 本当に、お姉さまの表情は、ウッキウキだ。


「えっと。……それって、ク・ウチャンのことですよね」

「ええ。そうです」

「んー。そうだなぁ……。できれば明言は避けて、ク・ウチャンは謎の存在ということにしておいてほしいかなぁ」

「クウちゃんではなく、老人でもなく、ということですか?」

「その方が融通が利きますよね。なので聞かれても、それに答えることはできないと明言を避けてほしいかなぁと」

「わかりましたわ。手紙には、そう書いておきます」


 話がまとまったところで、ドアが開いた。


 からんからん。


 鈴の音と共に現れたのは、姫様ドッグ店の制服を着た、やけに鍛えた体つきの若い店員さんだった。


「よう! クウ! 生きてるかー!」


 まあ、うん。

 ロックさんだ。


「新作クウバーガーの差し入れだぜー! くえくえー、クウだけになー! わはははははは!」


 ロックさんは上機嫌に、私に紙袋を掲げて笑ったところで――。

 お姉さまたちに気づいた。


「おっと。これは失礼。クウのダチも一緒だったか」

「Sランク冒険者のロック・バロットですね。先日の御前試合以来です。疲れもないようで何よりですね」

「え。あ?」


 ロックさんは、すぐには、お姉さまが誰かを理解できなかったようだ。


「アリーシャ・エルド・グレイア・バスティールです。お会いするのは、これで何度目かですね」


 完全お嬢様モードのお姉さまが優雅に挨拶する。

 それでやっと気づいたようだ。


「これは、失礼しました……! ご無沙汰しております、皇女殿下!」

「ふふ。ご無沙汰という程ではないでしょう。ほんの数日ぶりですよ」

「そ、そうですね。失礼しました」


 ロックさんが恐縮して、ペコペコと頭を下げた。


「同じく数日ぶりですね、バロット様。ローゼント家のメイヴィスです」

「モルド家のブレンダ。最強の冒険者にまた会えて嬉しいよ」

「これはどうも……! 公爵家と辺境伯家のお方でしたよね、確か」


 ロックさんがさらにペコペコする。

 お嬢様には弱いようだ。


 私は笑った。


「あはははは! ロックさん、ぺっこぺっこ! クウバーガーでも食べてお腹を膨らませたらー!」

「おまえなっ! 時と場合を考えてものを言え!」

「ねえ、ロックさん」

「んだよ?」

「私も一応、お嬢様なんですけど? ほら、挨拶させてあげますよ」

「うるせー! この馬鹿が!」


 優雅に一礼したのに、頭の上に紙袋を置かれた。


「なにすんのさー!」

「いいからくえ。オッサンの自信作、改良クウバーガーだ。あ、皇女殿下方もよろしければ……。数はありますので……」

「そうですね。せっかくですし、いただこうかしら」


 お姉さまがうなずいて、みんなで食べることになった。

 もちろん、エミリーちゃんも一緒だ。

 クウバーガーの匂いに釣られて、呼ぶ前に奥からフラウも出てきた。


 ぱくぱく。


 クウバーガーは絶品だった。

 前回の上品すぎる味わいが消えて、辛味子を使ったミートソースはワイルドに生まれ変わっていた。

 クウバーガーを食べた後は、ブレンダさんとメイヴィスさんがロックさんに剣の稽古をせがんだ。

 ロックさんは断りきれず、中庭に出て軽く指導することになった。

 トルイドさんの話をする空気ではなくなってしまった。

 私も無理にしようとは思わなかった。

 その話をするのは、お姉さまと2人だけの時――。

 いや、ううん。

 先に、トルイドさんに会いに行ってみてもいいのかも知れない。

 なにしろ私はク・ウチャン。

 いろいろと力になってあげることは、できる気もする。


 かくして。


 2学期の初日は、騒がしくおわっていった。






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