800 閑話・皇帝ハイセルは娘たちの夏の記録を鑑賞する
ランチの後、俺達は小ホールに移動する。
クウが作った異国料理のカレーライスは実に新鮮で美味だった。
俺ハイセルは、帝国の皇帝。
日々、最高のものを食べている自覚はあるが、異国料理がテーブルに並ぶことは滅多にない。
今後は色々と食べてみたいものだ。
娘のアリーシャたちも大いに満足したようで、移動しながらの会話は異国料理の話題で持ち切りだった。
アリーシャの場合は、興味を持ち過ぎのきらいもあるが。
食べ過ぎには注意して欲しいところだ。
小ホールについた。
小ホールでは、すでに映像の鑑賞会の準備が整っていた。
正面に大きくスクリーンが張られて、その前に映像機が置かれていた。
楽師が優雅に曲を奏でている。
俺達はそれぞれ、案内された席に着席する。
俺の席は後列。
低い場所にある前列には、娘達がズラリと並んだ。
今日の参加者は以下の通り。
俺、アイネーシア、カイスト、アリーシャ、セラフィーヌ、ナルタス。
俺の義父であるローゼント公爵と孫のメイヴィス。
モルド辺境伯家の娘ブレンダ。
アロド公爵夫妻とその娘ディレーナ。
アロド家の庇護下にある娘スオナ。
ハロ準男爵家の一家。
フォーン大司教とその孫のアンジェリカ。
エミリーとその両親。
闇の大精霊ゼノリナータ、賢者ヒオリ、古代竜フラウニール。
そして、クウ。
加えて、俺の盟友にして公爵たるバルター、騎士団長グラバム、魔術師団長アルビオの3名も、鑑賞会には参加する。
まさに、帝国の重鎮、勢ぞろいと言ったところだ。
今日の鑑賞会には、ただ娘達の旅の記録を楽しむだけではなく、我々の良好な関係を内外にアピールする目的もある。
特にアロド家とは、つい最近まで舌戦を繰り広げていただけに、現在の関係は大いに知らしめたいところだ。
「……クウちゃんには感謝しかありませんね」
「ああ、そうだな」
アイネーシアのつぶやきに、俺は小さく同意した。
見下ろせば、セラフィーヌの輝く金色の髪が楽しげに揺れていた。
隣に座るクウが何か言ったのだろう。
笑っていた。
本当に、元気になったものだ。
クウが帝国の地に降り立たなければ、あるいはセラフィーヌは今も呪いに苦しんでいたのかも知れない。
アロド家との関係改善もなかったことだろう。
クウには感謝しかない。
まさに、その通りだ。
故に大げさにはせず、今の生活を守ってやらねばなるまい。
クウは、どれだけの力を持とうとも、あくまで人として、普通に暮らしていくことを望んでいるのだ。
もっとも、そう望みつつ――。
それをぶち壊そうとするのは、いつも本人だが。
「まったく。困ったものだ」
俺はつい、口に出して苦笑した。
「どうしたのですか」
アイネーシアに笑われる。
「いや――。なんでもない。それより、始まるようだ」
ハロ家のマリエがスクリーンの前に出てきた。
映像を録画した本人だ。
彼女が、今回の鑑賞会の司会を務める。
「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。
これより私たちの夏の旅の思い出を、上映させていただきます。
上映時間は10分となります。
私たちが帝国の遥か南――。
遠い異国の島で遊んだ時の記録です。
一般向けの記録水晶だったので音声はありませんが、全力で映像の録画はさせていただきました。
楽しんでいただければ幸いです」
一礼して、マリエが映像機の横にまで下がる。
さあ、いよいよか。
いったい、遥か南洋の島とは、どのようなところなのか。
どのような景色が映し出されるのだろうか。
実に好奇心を刺激される。
セラフィーヌの話では、エルフとリザードマンが暮らす楽園のように美しい世界とのことだったが。
楽師の奏でる柔らかな音色の中、映像が始まる。
最初にスクリーンに写ったのは、青空の下、砂浜の上――。
水着姿で勢ぞろいした――。
娘達の健康美溢れる、あられもない姿だった。
特に、セラフィーヌにクウ、アンジェリカにスオナは、腹部をもさらけ出した下着同然の姿だった。
もちろん、それは下着ではなく、水着なのだが――。
少女たちが波打ち際で遊び始める。
躍動する瑞々しい肢体が、弾ける水のきらめきと共に色々な角度から詳細に映し出されていく。
撮影者マリエは、単調に一定の距離から映像を撮るだけではなく、より少女たちの魅力を引き出すために全力を尽くしたようだ。
それは芸術的であり、確かに美しくはあった。
映る笑顔からして、本当に皆、楽しんでいるのもわかる。
わかるが――。
俺はいったい、この映像を、どのような顔をして見れば良いのだろうか。
笑顔だろうか。
真顔だろうか。
それが、わからない。
考える内、娘達のたわむれる場面はおわったが。
次に映るのは、夜の砂浜だった。
リザードマンとエルフが集い、共に立食パーティーを楽しんでいる。
そして……。
こんな場面が映った。
娘のセラフィーヌがリザードマンたちの前に立っている。
リザードマンたちが、セラフィーヌの号令に合わせて何かを叫び始めた。
残念だが、映像に音はない。
なので身振り手振りでしか、その様子はわからないが。
最後には、くるっと回って、一斉に爪を立てた。
次にはエルフたちが並んで、一斉に腕を揺らした。
どちらも、不思議な光景だった。
とはいえ、すでに旅の話は聞いているので、内容を理解することはできた。
セラフィーヌは、リザードマンに布教活動を行った。
その内容は――。
精霊を讃えるものであるとのことだったが――。
実質的にはクウを讃える内容で、自ら騒動を起こすことには定評のあるクウが珍しく頭を抱えていた。
映像は、その時の様子を映したものだ。
エルフについては、純粋に芸だ。
波を表現している。
こうして、10分の上映会はおわった。
俺は拍手をした。
他の者達も拍手をした。
「よかったよー、マリエ! バッチリ綺麗に撮れてたねー!」
「まさにです! クウちゃんの可愛らしさ全開で、わたくし、感動のあまり時の流れを忘れましたっ!」
「セラも可愛かったよー!」
「ありがとうございます、クウちゃんっ!」
クウとセラフィーヌの2人は、手放しで喜んでいた。
「はは……。まあ、うん……。綺麗に撮れていたね……。ちょっと恥ずかしかったけど僕としては……」
「楽しい夏の旅を思い出せて良かったわ」
スオナとアンジェリカの2人は、恥ずかしそうに肩を小さくしている。
無理もあるまい。
映像の前半には、触れてやらない方がいいだろう。
ついに区切りの800話です\(^o^)/
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!
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ありがとうございました!
609話から始まった夏休みも、ついにもうすぐおわります。
長い夏休みでした……。
2学期になっても書き続けていきますので、
よかったら今後ともお付き合いくださいm(_ _)m
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書籍化については、900話前後でご報告させていただけるかなーと思います。
まだ先ですが、こちらもよろしくお願いします\(^o^)/




