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8 おうちをもらう



「話を戻すが、それでクウちゃん君、君はこれからどうするつもりかな?」

「どうすると言われましても」


 繰り返して聞いてくる陛下に私は困った。


「……うーん。とりあえず、地道に薬草採集でもしていこうかな、と」

「神から与えられた使命等はないということかな?」

「ありますよ」

「ほほう。聞いてもいいかな?」

「ふわふわすることです」

「先程もそう言っていたな」

「はい。精霊はふわふわするのが仕事ですとアシス様に言われたので」

「君は女神と仲がいいのだな」

「たぶんそう思いますけど、聞いていないのでわかりません」


 称号には友人とあったけど。


「あの、クウちゃんは、こちらで暮らすんですよね?」


 セラがおずおずと話に入ってきた。


「うん。そだよ」

「お住まいは決められたのですか?」

「橋の下」

「え?」

「今のところお金もないしね。やむなし」


「はははっ! それは難儀だな。俺が資金援助してやろうか?」

「えーいいですよー。どうせアレですね。そのかわりにアレやれコレやれってこき使う気ですよね?」

「こきは使わないがお願いしたいことはあるな」

「……なんですか?」


 一応、聞いてみる。


「たまにでいいからセラフィーヌと遊んでやってくれ」

「友達だし、ここに来る許可がもらえるなら頼まれなくても遊びます。むしろお金なんていりません」

「よし許可を出そう」

「そんなあっさり」

「俺は皇帝だからな」

「嬉しいですっ! 毎日でも遊びにきてくださいっ!」


 セラが手を叩いて満面の笑みを浮かべる。

 そこまで喜んでもらえると私も嬉しい。


「お金を稼ぎたいから毎日は無理だけど、たまには来るよ」

「でもクウちゃん、橋の下は駄目です。お父さま、なんとかしてあげてください」

「よし、家をやろう」

「ほあ?」


 変な声が出た。


「安心しろ、大袈裟にはしない。適度なものを用意してやる」

「いやいやいや。もらえないです」


 いくらするんだ家なんて。

 薬草何万本分だ。


「しかし、橋の下だと雨の日は辛いぞ。不埒な輩も現れるだろう」

「遠慮しておきます」

「夜を想像してみろ。暗いぞ? 怖いぞ?」

「う……」


 ぞっとする。

 想像してしまったじゃないかっ!


「悪いことは言わん。住処だけは確保しておけ。別に何もせぬ。君に何かしたら俺がセラフィーヌに嫌われる」

「そうですクウちゃん。もらってください」

「うう……」

「ね?」


 セラまでぐいぐい押してくる。


「遠慮するな」

「ううう……」


 結局。


「……じゃあ、よろしくお願いします」


 もらってしまいました。


「決まりだな。今夜は宮殿で泊まっていけ」

「クウちゃん、わたくしの部屋にきてください。一緒に寝ましょう。お父さま、よろしいでしょうか?」

「好きにしていいぞ」

「やったあ!」


「うう……」


 私、弱い。

 いいのかこれで。

 最強はどこへ行ったのか。


「ああ、そうそう。君のことを公にするつもりはないから安心しろ。むしろ隠蔽してやる。君もふわふわしていたいのなら、わざわざ自分から注目を集めるようなことをするんじゃないぞ」

「それはどうも……」


 正直、ありがたいことはありがたい。

 いやむしろ、とてもありがたい。

 だって、うん。

 橋の下なんて、オバケに取り憑かれそうだ。

 しかし、だ。

 これではカゴの鳥だぞ、私。

 家をもらうことになって言うセリフじゃないが、癪に障る。

 でも、前向きに考えてみれば、いろいろ好きにできるようになったわけだ。

 隠蔽してもらえるわけだし。


 ふむ。


 家がある。か。

 少しくらい目立っても平気。か。

 私はお金を稼ぎたい。

 商売、できないかな。


 お店……とか。


 なんとか、私の全系統カンストな生成技能を活用したい。


 依頼を受けて作る。

 というのは、どうだろうか。


 それならば素材は相手に準備してもらえる。

 並べる商品もサンプル程度で済む。


 お店というか、アレだな。


 工房。


 いいかも知れない。


 問題はどこでお客さんを集めるか……。


 冒険者ギルドがいいかな?


 生成技能のデモンストレーションをやれば確実なんだろうけど。

 それはやらない。


 まだ使っていないから違うかも知れないけど、多分、生成技能を使うと素材が光に包まれて5秒ほどで完成品に変化する。

 ゲームではそうだった。


 たぶん、この世界でそんな作られ方はしていない。

 少なくとも料理は手順を踏んで作られていた。

 秘密にしたほうがいい。


 作るのは、あくまで工房、家の中だ。


 最初はタダで、誰かよさそうな人に武器を作ってあげよう。

 それで宣伝かな。

 Aランク冒険者のロックさんに提供したいところだけど、強い人に相応しい武器を作るために必要な素材を集める自信はない。

 初心者狙いでいこう。


 武器を作るために鉱石がほしい。

 ミニマップをオンにしてひたすら岩山を飛んでみるか。


 うん。


 あちこち飛んでみよう。

 考えてみれば、まだまともに探索していない。


 素材、いっぱいあるかも知れない。


 あと冒険者ギルドなら、ポーションの販売もいいかも知れない。

 素材の薬草なら持っているし。


 ん?


 よく考えてみれば、自分でポーションにできるのか。


 メニューを開いてみる。


 レシピ表から下級ポーションを選択。

 必要なのは薬草と水だけという初心者レシピだ。

 レシピに記載された薬草の文字は白。

 つまり、アイテム欄に入っている薬草で生成可能ということだ。


 うん。


 需要と売価によっては、こっちでもいいね。


「見えてきた! なんか見えてきたよ!」

「見えてきたんですねっ! おめでとうございます、クウちゃん!」

「ありがとうっ! セラっ!」

「クウちゃんっ!」


「……おい。仮にも皇帝を前にして長々と自分の世界に入り込み、やっと戻ってきたと思ったら何を叫んでいる?」


「あ、ごめんなさい。いやー、なんか一気に見えてきまして」

「だから何がだ」

「おうち、ありがたくいただきますね。ふわふわ美少女のなんでも工房にします」

「誰が美少女だ?」

「私ですけど?」


 自分で言うのもなんだけど、この私ことクウちゃんさまが美少女じゃなかったら誰が美少女だと言うのだ。

 まあ、となりにいるセラも余裕の美少女だけど。


「クウちゃんは美少女ですよねっ! わたくしなんて、もう本当に何時間でもクウちゃんのことなら見ていられます!」

「ありがとうっ! セラっ!」

「クウちゃんっ!」


「……で、工房とは何だ?」

「既得権益から可愛い精霊さんを守ってくれること、期待しています」


 美少女スマイルで陛下にお願いしておく。

 これは断れまい。


「商売するなら商業ギルドに登録しろよ? ちゃんと帝国の法律を覚えて、それに準じて行動しろよ? 法律違反は許さん」


 断られた!


 でも私は負けないのだ。


「難しいことはわからないので、よしなにお願いします」

「……はあ。家と一緒に紹介状をくれてやるから登録してこい」

「ありがとうございます」


 やったぜ。


「おめでとうございます、クウちゃんっ! わたくしも手伝いますねっ!」

「ありがとうっ! セラっ!」

「クウちゃんっ!」


 私も一気に元気が出てきた!


「ああ、それはいいな。社会見学だ。商業ギルドにはセラフィーヌも同行しなさい」

「はいっ! お父さまっ!」

「護衛もつけるから安心して学んでくるといい」


 陛下が鷹揚に笑う。


「……皇帝陛下って、意外とざっくばらんなんですね。もっと融通の利かない怖いイメージがありました」

「それは褒めているのか?」

「はい」


 本音なので美少女スマイルで答えた。


「俺は学生時代から戴冠するまで、普通に市井で遊び歩いていたからな。酒場で喧嘩しては女将に怒られて――。懐かしい話だ」

「やんちゃだったんですね」

「Dランク止まりだったが、友と冒険者をやったこともあるぞ」

「おお。すごいですね」


 暴れん坊皇帝!

 と、危うく言いかけたのは秘密だ。


「セラフィーヌも多くの経験を積んでくるといい。それは必ず生涯の力になる」

「はいっ! お父さまっ!」



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― 新着の感想 ―
 精霊のいない時代が永く続いて聖職者も一部は堕落しているでしょうし、ましてや若い頃遊び歩いていたような皇帝なら精霊信仰を鵜呑みにはしていないでしょう。  つぶさに情報を集めれば、主人公が非常識な精神性…
ゆるふわで検索してこちらの物語に巡り会えました これはとっても癒されそうなお話……すごく楽しみです✨ まだまだ1308話もありますが、わくわくな気持ちをありがとうございます(*´ω`*)
[一言] 主人公に対する王族の態度に違和感を感じました。 皇帝の信仰対象であるはずの精霊に対する「おまえ」呼び 主人公に終始上からの発言 この世界の人間本当に精霊を信仰しているのか疑ってしまう。
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