795 ボンバーのカノジョ
ワゴン2台分の発注品は、セラとアンジェがテキパキと受け渡しをしてくれた。
今回は、Bランクダンジョンを本気で攻略するための注文だ。
たくさんの予備の武器。
汎用性のある胸当てや肩当てなどの鎧。
各種ツール。
大量のポーションも、まとめ買い価格で売ってあげた。
うちは錬金術店ではないのだけど、なんと、ポーション類の販売許可証も普通に取得済みなのだ。
さすがは、なんでも工房。
まあ、うん。
私は知らなかったけど、最初からそうだったらしいです。
ちなみにタタくんたちは、3パーティーでダンジョンに挑むそうだ。
ボンバー・チーム。
タタ・チーム。
他に1チーム。
ただ、突入するのはパーティーごとに単独らしい。
昇格を目指すなら各自の踏破が必要なのだそうだ。
「ちなみに1回クリアすればオーケーなの?」
「僕達の場合は3回だそうっす」
「うわ。大変だね」
「ダンジョン踏破の実績があまりないから仕方ないっす。でも、実力には自信があるので宿に拠点を作って短期集中で攻略するっす。全員で情報を共有して無駄なく行動して、突入にはローテーションを組んで事故に備えて、脱落者ゼロで全員Bランクになって帰ってくるっす」
「そういうことができるのはクランのメリットだね」
「そうっすね。あと、店長さんの存在も心強いっす。大量のポーション、本当にありがたく使わせてもらうっす」
「命を大事に、で頑張ってね」
私としても、知っている人間の死亡報告は聞きたくない。
彼等は今、セラとアンジェをひたすらチヤホヤしている。
みんな、実に楽しそうだ。
できれはずっと、楽しく生きてほしい。
まあ、うん。
私のことは、チヤホヤしてくれないの?
かな?
という気はしなくもないけど……。
私の場合は、ボンバーにしつこくされていたこともあって、みんな、遠慮してくれているのだ仕方ないね。
と。
そのボンバーは、いったい、どうしたのかな?
未だに道路で伸びているけど。
いつもなら、ぬいぐるみを食らった程度のダメージなんて、なかったも同然で元気に戻ってくるのに。
「ねえ、タタくん。ボンバー、どうしたの? なんか元気なくない?」
「それが実は……」
ふむ。
昨日も感じたけど、何かあるのかな。
と思った時だった。
「ダーリン!? どうしたの、ダーリン! しっかりしてぇぇぇ!」
お店の外から、若い女の子の悲鳴みたいな声が聞こえた。
その声を聞いたタタくんが額に手を当てる。
それは、うん。
明らかに良い印象ではなかった。
なんだろうかと、私はお店の外に出た。
すると、そこには――。
倒れたままのボンバーを介抱する、花柄のワンピース姿の、なんかこう可憐な女の子の姿があった。
誰だろうか……。
私が近づくと、女の子が私のことに気づいて顔を上げた。
「あら、貴女……。その空色の髪……」
ふむ。
どうやら女の子は、私のことを知っているようだ。
どんな風に知っているかと思ったら……。
「貴女、ダーリンの元カノね!」
と、言われた。
その後で、ニヤリと勝ち誇ったように女の子は微笑んだ。
「あー。そういうこと。貴女、今更、成功したダーリンのことが惜しくなって、よりを戻そうと、また暴力を振るったのね。聞いているわよ。貴女、ダーリンの気を引きたいが為だけに、殴る蹴るの酷いことをしていたって。貴女がいいところのお嬢様だってことは知っているけど……。あっ! 申し訳ありません! 大変に失礼な口を利いてしまって……!」
心から怯えたと言わんばかりの勢いで、女の子が頭を下げる。
もうね、はい。
私は、このほんの1分で理解していた。
この子は駄目だ。
うん。
絶対に関わってはいけない、ひたすらに面倒なタイプだ!
「この子は花屋の娘でオルデ。ボンバーが口説き落として付き合いを始めた僕やボンバーと同い年の女の子っす」
タタくんが言う。
すると女の子――オルデが立ち上がって一礼した。
「初めまして、オルデです。見ての通り庶民の娘なので難しいことはわからなくてごめんなさい。お会いできて光栄です、お嬢様」
「えっと……。クウです。この工房をやっています。初めまして」
私は仕方なく挨拶を返した。
「うう……」
そこにタイミングよく――、悪くかな?
ボンバーが意識を取り戻す。
「ダーリン! 大丈夫!?」
すかさずオルデが介抱する。
「おお……、マイ・ネオ・エンジェル、オルデではありませんか」
「ええ。ダーリンの天使よ。大丈夫?」
「はい、なんとか……」
「よかったぁ! ダーリンがふわふわ工房に行くっていうから、私、急いで追いかけて来たの。ねえダーリン、お願いっ! この工房のアクセサリーって、今やみんなの憧れの的なのっ! 私もほしいの」
「はは……。そんなことですか、お安い御用ですよ」
「やったあっ! 嬉しいっ! 大好きだよ、ダーリンっ!」
そのやりとりを聞きつつ、タタくんが小声で言った。
「……ボンバーは、ただの財布っす。悲しい現実っす」
「そかー」
生返事しつつ、私は本気で思った。
タタくんには申し訳ないけど……。
ボンバーとオルデは、このまま帰ってくれないかな、と。




