794 ぬいぐるみ一発芸大会!
私とセラとアンジェは、一旦、カウンターの中に入った。
芸をする人が外に出るスタイルだ。
「はいっ、クウちゃん! わたくし! わたくしがやります!」
「ではセラ、どうぞ!」
さあ、何が来るかな。
私はドキドキワクワクして一番槍のセラに期待した。
セラはカウンターの外に出ると、迷うことなく、私を模した精霊ちゃんぬいぐるみを手にした。
「1番、セラフィーヌ! 行きます!」
そして――。
精霊ちゃんぬいぐるみの頭を押して、軽くお辞儀させると、次に小さなぬいぐるみの腕を斜め上に動かして、言った。
「クウちゃんだけに、くう」
と。
腕の動きは、食べている動作を表現しているのだろう。
うん。
はい。
やるかなーとは思っていました。
もはやお約束というか、伝統芸だね、これは。
アンジェが拍手する。
私も拍手した。
「ありがとうございましたーっ!」
セラが笑顔でカウンターの席に戻る。
「じゃあ、次は私がやるわ」
今度はアンジェがカウンターの前に出た。
アンジェが手に取るのも、私を模した精霊ちゃんぬいぐるみだ。
「2番、アンジェリカ。行きます」
さあ、何が飛び出すのか。
アンジェが精霊ちゃんぬいぐるみを頭上に掲げた。
そして、大きく円状に動かしていく。
「くううううううううううううううううううううううううう」
「くううううううううううううううううううううううううう」
ぬいぐるみを動かしながらアンジェが言う。
その光景を見たセラが戦慄した。
「こ、これは! クウちゃんが! クウちゃんが空を飛んでいます! なんという速さなのでしょうか!」
なるほど、そういうことのようだ。
「くうううう……。く……うう……。く……。う……」
ただ、しばらくすると、目に見えて速度が落ちた。
アンジェが疲れたのだろうか。
と思ったら。
アンジェが言った。
「くうきていこう。クウちゃんだけに」
と。
「ふふ。ふふふふっ!」
口元を押さえてセラが上品に笑う。
私は拍手した。
「ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて、アンジェがカウンターの中に戻った。
次は私の番か。
私はカウンターの外に出た。
ふむ。
なんか流れ的には、私も精霊ちゃんぬいぐるみで、「クウちゃんだけに」をするべきなのだろうか。
クウちゃんって、実は私のことなんだけど。
自分で自分のギャグをするのか。
我ながらシュールだ。
シュールだけど、ここは流れに乗るのが正道というものだろう。
私はちゃんと空気の読める子なのだ。
私は精霊ちゃんぬいぐるみを手に取った。
するとセラが戦慄して言った。
「クウちゃん……。まさか!? クウちゃんだけに……。クウちゃんがクウちゃんするというのですか!?」
「任せて」
私は笑顔でうなずいた。
さあ。
やろうか。
私が本人だけど、クウちゃんだけに。
しかし。
私は無策だった。
自分でやろうと言っておいて、何も考えていなかった。
ふむ。
くまった。
その時だった。
からんからん。
鈴が鳴って、ドアが開いた。
と、思ったら、筋肉のタキシードがポーズを決めて現れた。
「ふぉぉぉぉぉぉ!
寂しがっていると聞いて参上しましたぞ、クウちゃんさん!
貴女の憧れの爆発野郎、ボンバーここに有りです!
がふっ!」
私は精霊ちゃんぬいぐるみを投げつけた。
顔面にヒット!
ボンバーは道路に倒れた!
ふむ。
「クウちゃんだけに、くうリーンヒット。いえい」
私は、セラとアンジェに勝利のポーズを決めた。
正確にはクリーンヒットだけど。
まあ、うん。
いいよね。
なにしろボンバーだし。
普通のヒトには絶対にやっちゃいけないのは、ちゃんとわかっているのだ。
セラとアンジェは、拍手してくれた。
ボンバーが豪快に倒れた後、少し遅れてタタくんたちが現れた。
「店長さん、こんにちはっす。いきなりボンバーが申し訳ないっす。昨日、お願いした品を取りに来たっす。もう出来ているっすか?」
「はーい、いらっしゃいませー。もう出来ているよー」
バッチリ昨夜の内に生成しておいた。
「店長、持ってきますね」
「わたくしも。あ、ボクも手伝うのだ!」
お仕事モードに切り替えたアンジェとセラが、タタくんたちの注文した武具を奥に取りに行ってくれた。




