79 朝から始める帝都防衛隊
さあ、朝だ。
「さて、諸君。というわけで、陛下の演説会を無事に済ますため、我ら帝都防衛隊は週末までキビキビと働かねばならない。そこでだ。まずは週末までの事前計画を立てようと思うのだがどうだろうか」
「おー!」
テーブルを囲んで朝食のパンをかじりつつ、ゼノが腕を振り上げた。
うむ。
やる気があってよろしい。
「あの、店長……?」
「なんだね、ヒオリくん」
こちらのハイエルフな和風装束の隊員は、朝から憔悴している。
うむ。
やる気がなくていかんですぞ。
とはいえ、うん、きっと昨夜は苦労したんだね。
許してあげよう。
「週末までの事前計画とおっしゃいましたが……。
今日がその週末で、今日が演説会の当日なのですが……」
「む?」
なん、だと……。
隊長モードな私の威厳に、早くも亀裂が入りそうだぞ。
「誤解ということは?」
「ないかと……」
申し訳無さそうにヒオリさんが首を横に振った。
ふむ。
考えてみよう。
まず、先週末のこと。
アリーシャ様が2人のお友達を連れてお店に来てくれた。
学院祭の招待状をもらったよね。
これは覚えている。
週が明けて1日目は、朝から冒険者ギルドに行って、午後はエミリーちゃんに魔術書を届けた。
2日目は、ヒオリさんが店に来たんだよね。
夜にはゾンビ騒ぎだった。
3日目は、ゾンビ騒ぎの報告をしたり、布団を作ったりしておわった。
4日目は、家のことをアレやコレやしている内におわった。
5日目はアンジェと一緒だったね。
夜にはゼノと精霊界に行って、鉱石を掘ってきた。
で。
今日は6日目か。
「なるほど。そのようだね」
まだずっと先に思えていたけど、それは錯覚だったようだ。
時が過ぎるのは早い。
ていうか、この世界の1週間は6日だったね。
まあ、1週間を7日で考えても、あと1日しかなかったわけだけども。
「こほん」
隊長の威厳を守るべく、私は重々しく息をついた。
「つまりは当日です。今日です。作戦です」
「作戦って、ボクが邪悪な力を観測するだけのことだよね?」
「……まあ、そうですが」
こほん。
「あるよ」
あっさりとゼノが感知を告げる。
「あるんだ?」
「あるね」
「よろしい! ならば殲滅だ!」
「お待ちください……。よ、よくわからないのですが……」
「ふむ……。続けたまえ?」
「何か事件なら、まずは衛士に報告したほうがいいような気もするのですが……」
ヒオリさんには生気がない。
本気で辛そうだ。
ただ、怪我や病気というわけではなさそうだ。
こんな感じの人、思い返してみればゲームでも見たことがある。
たぶん、魔力の枯渇かな?
「リフレッシュ」
白魔法のMP継続回復をかけてあげる。
「店長、これは? あふぅ……」
「魔力回復の魔法。どう?」
「気持ちいいです……。ありがとうございます……」
気持ちよさそうに目を細めて、ヒオリさんが魔法の効果に浸る。
効果はあったようだ。
みるみるヒオリさんの顔色はよくなった。
「ゼノー、やりすぎちゃダメだからね」
「やりすぎてなんてないよ。ひおりん、ちゃんと気持ちよくなったよね?」
「疲れ切ってたでしょー」
「気持ちよくなりすぎたからだよー」
「そなの?」
ヒオリさんに聞いてみた。
「む、無理やりですっ!」
ふむ。
顔を赤くして、否定だか肯定だかをされた。
よくわからないけど、まあ、いいか。
「おかげでボクも、ニンゲンへの遊び加減がよくわかった。勉強になったよ。お互いによい時間を過ごせたね」
「某で遊ぶのは勘弁してくださいっ!」
「えー。またやろうよー。ひおりんの反応、ボク、気に入ったし」
「ひぃぃぃ!」
うん。
平和だね!
「話を戻していいよね? でも、それだと間に合わないかもだよ?」
「しかし勝手に暴れれば、こちらも罪に問われます」
「いいことをしても?」
「それが法治国家というものです」
「ふむ」
それはそうかもしれないけど。
まあ、そうなんだろうけど。
「バレなきゃ平気でしょ? ボクとクウで、闇から闇へ葬ろうよ」
「ふむ」
「後先なんて考えずにパーっとやろうよ。一度きりの人生なんだしさー。やらずに後悔するよりやって後悔したほうが幸せだよー」
なるほどゼノの言葉には一理ある。
私の場合、一度きりの人生ではなくて二度目の人生だけど、だからこそやりたいことは最大限にやりたい。
それに、どう考えてもいいことだよね。
邪悪な力を闇から闇へ。
そもそも私とゼノにしか出来ないことのような気もするし。
「よし。やろう!」
決まりだ。
「ほ、本気ですかっ、店長!」
ヒオリさんが反対してくるけど、ここは納得してもらおう。
商業ギルドで見たセラを真似してみるか。
「ヒオリさん、君は何も聞いていない。だから気にしなくていいんだよ? なんならもう少し寝ていようか?」
「ひおりん、わかるよね? ボクたちの遊びの邪魔は、誰にもできないんだよ?」
「……は、はい」
よかった。
わかってくれたみたいだ。
「ちなみにゼノ。遊びじゃないからね。防衛隊だからね」
「わかってるわかってる。言葉のアヤだよー」
「ならばよしっ!」
「おー!」
「でもそうだね、人殺しはやめておこう。もしも誰かいたら、全員、どこかに運んで後のことはそれから考えよう」
転移の魔法を使うなら竜の里しかないけど。
竜のみんなに迷惑をかけてしまうけど、他に飛ばせる場所がない。
早めに他のダンジョンに潜って行き先を増やさねば。
「それでゼノ、わかっていることを教えて」
私の敵感知には反応がない。
帝都全体にかかるくらい最大限に広げてみたけどダメだった。
「帝都の南の隅で邪悪な力が蠢いているよ。今は小さいけど少しずつ大きくなっている気もする。何かが生まれているのかも」
「悪魔とか?」
「どうだろ……。もう日は昇ってるけど、地下ならアンデッドかもだね」
「行ってみればわかるか」
「だねー」
「私がやるからね。ゼノは案内だけでいいから」
「りょーかい」
ボス戦の予感がする。
ボスなら、きっとグロくはないよね。
悪魔なら人型だし、アンデッドでもきっと吸血鬼とかだろうし。
わくわくだ。
ついに、こっちの世界に来て、初の本格的な戦闘に出会えるかも知れない。
ふふ。
今朝の『アストラル・ルーラー』は血に飢えておるわ……。
いや吸うような血はなさそうだけどね。
悪魔かアンデッドだろうし。
そもそも溢れる血なんて見たら、私、正気度チェックに失敗して発狂するかもだし。
あれ。
「どうしたんですか、店長……?」
「あ、ううん。なんでも。ちょっとね、今、葛藤が。私、何でこんなにもバトルを求めているんだろうね」
「あの……、結局、やってしまわれるわけなのですか?」
「せっかくだし?」
「なにがせっかくなのですかっ!?」
「さて」
なんだろか。
ああ、うん。
アレだ。
実に簡単なことだ。
言うならば、今の私は何故かそういう気分なのだ。
朝から元気なのだ。
表現するとするならば、これだ。
私はポーズを決め、叫んだ。
「帝都の平和を守るためっ! 世界の明日を作るためっ!
クウちゃんたちは行くのですっ!
それこそが、帝都防衛隊!」
「クウちゃんず!」
すさかずゼノが合わせてきて、2人でポーズを取る。
決まった。
よし、やるかっ!




