787 乱闘の行方
「クウちゃん、さっきはありがとね。スッキリしたわ。もう大丈夫だから魔術は解いてもらっていい?」
「え。でも、これからですよね?」
「ええ。こいつらには練習相手になってもらうわ」
ネスカ先輩、強気だ。
「わかりました」
私は強化魔法を解除した。
乱闘が始まる。
ネスカ先輩、マウンテン先輩、マンティス先輩。
VS――。
チンピラ門下生20名。
それは、まるでカンフー映画のワンシーンだった。
戦いは大激闘となった。
チンピラ門下生も、伊達に拳法をやっているわけではない。
簡単に倒せる相手ではなかった。
とはいえ、先輩たちはその上を行っている。
「いっけーっ! ネスカせんぱーい! 超加速だー! かまかまかまー! 世界のヤマちゃん、カッコいいー!」
私は門の脇まで下がって声援を送った。
乱闘は続き、次第に趨勢は明らかになってきた。
先輩たちは適度に緩急を付けつつ、疲れ切らないように巧みに戦う。
チンピラ門下生たちは数にものを言わせた全力攻撃だ。
一気に押し潰せればよかったけど、先輩たちは立ち回りも上手だった。
お互いに背を預けたり、敵を盾にしたり。
「何をしておるかー! さっさとやってしまわんかー!」
ダメージが回復してきたモッサが怒号を上げる。
だけど残念ながら、チンピラ門下生たちは1人また1人と地面に倒されて立ち上がれなくなっていく。
倒れる仲間が増えるに連れて、チンピラ門下生たちの士気は下がって、あとは体力的にも限界なのか、及び腰になっていく。
中には、膝をついて降参するヤツもいた。
結果は見えたね。
先輩たちの勝利は目前だ。
「ぐぬぬ……! おのれぇ……!」
モッサが拳を握りしめる。
そろそろ彼も乱闘に加わるかな。
と、そこで不意に、私はモッサと目が合った。
私は門の脇にいる。
モッサは、門のすぐ外にいた。
近い。
モッサが私を見て、ニヤリと笑った。
まさか。
はい。
まさか、でした。
私はモッサに、うしろから首を掴まれてしまいました。
「貴様らぁぁぁぁぁ! 静まれぇぇぇぇぇ!」
モッサが叫んだ。
みんなの視線がこちらに集まる。
「なっ! クウちゃん!」
ネスカ先輩が驚愕に顔を染めた。
乱闘が止む。
「くくく。小娘ども、動くな! 動いたら、このガキの首をへし折るぞ!」
「なんと卑怯な。貴方は武闘家ではないのですか?」
マウンテン先輩が問う。
「カマ!」
マンティス先輩が抗議の声を上げた。
「黙れ! 勝てば良いのだ! おい、立ち上がれ弟子共! 早くその3人をボコボコにしてやれ!」
「さすがは先生……! やることがえげつないぜ……!」
「ふんっ! これが実戦流ということよ!」
「へへっ。わりぃな。ボコらせてもらうぜ」
立ち上がったチンピラ門下生たちが、先輩たちを取り囲んだ。
先輩たちは――。
動けない。
私の心配をしてくれているのだろう。
「先輩たち、私には構わず、そいつらボコボコにしてくれていいですよ。あと門下生のヒト、そろそろ衛兵さんを呼んできてください」
「あ、ああ、そうだな……」
脇でじっとしていた門下生の人たちが外に走っていく。
「クウちゃん、相手を刺激しちゃ駄目。――その子は無関係よ。手を出すのはやめてもらえないかしら」
「くくく。安心しろ。貴様らがボコられれば、このガキは解放してやる」
「わかったわ。ホント、ごめんね、ヤマちゃん、カマ」
ネスカ先輩が肩をすくめる。
「お気になさらず。我々が自分で来たのです」
「かま」
マウンテン先輩とマンティス先輩も抵抗しないようだ。
「先輩たち、ホント、ボコっていいですからね? 私、ちょっとこいつをいいところにご招待しますので。では」
「な、ななな! なんだこれは! 体が勝手に!」
ぺこりとお辞儀して、私は首を掴まれたまま門の外に出た。
モッサも付いてくる。
というか、こっそり腕を回して逃げられないように固めた。
門の外に出て、脇に隠れて。
転移。
行き先はもちろん、いつもの場所。
トリスティン近郊のダンジョンの転移陣だ。
モッサを眠らせてっと。
私は仮面を付けて、古代の神子衣装を着て、ソード様になってっと。
ダンジョンの外に出て。
飛行して。
トリスティンの王城に到着っと。
姿を消してっと。
そう。
久々のトリスティン送り。
最近はやっていなかったから久しぶりだ。
やっぱり、たまにはやっておかないとね。
なにしろ私の中で、トリスティン送りはそれなりにホットなのだ。
お楽しみなのだ。
さーて。
今日はどこに置こうかなー。
玉座もいいけど、今日は上階のベランダかなー。
よし、ベランダにしよう!
というわけでベランダに来て、透明化を解いて、モッサを置いて、手紙を書こうとしていると――。
窓が開いた。
現れたのは、いかにも偉そうな顔立ちの、いかにも権力者な男性――。
私はそれが誰かを知っている。
長い髭をたくわえたトリスティンのラムス王だった。
目が合ってしまった。
「き、き、貴様……! ソードか……! また誰かを連れて――」
「あ、どうも」
見られてしまったか。
やむなし。
かくなる上は、眠らせて退散――。
と思ったら――。
「うわあああああああああああ! 頼むうううううう! このワシを、どうか助けてくれぇぇぇぇ! なんでもするからぁぁぁぁぁぁ!」
ラムス王に泣き付かれた。
なんだこれは。




