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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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785 健康道場




「ここってネスカ先輩のおうちなんですか?」

「ええ。そうよ。遊びに来てくれたの?」

「いえ、たまたま散歩していたら見つけて。私、こういう武術の道場って初めて見ました。すごいですね」

「よかったら見学でもしていく?」

「はいっ! ぜひ!」


 ということで、拳法着姿のネスカ先輩に招待されて、私とマリエは健康道場の敷地の中に入れてもらった。


「……あの、クウちゃん。私はそろそろ」

「大丈夫大丈夫」


 あははー。


「そう言われて大丈夫だったことって、一度でもあったっけ?」

「え」

「え?」


 私は考えてみた。

 しかし、私の小鳥さんブレインには、記録がなかった。

 つまり、大丈夫ということだ。


「平気だってー。ほら、みんな普通の人だよね」

「まあ、それはね……」


 練習場になっている土くれの庭で小休止を取っている門下生の人たちは、全員が普通の人だ。

 おじさん、おばさん、子供、おにいさん、お姉さん。

 体格の良い人もいるけど、無闇に暴力を振るうタイプには見えない。

 健康道場という看板に偽りなしなのだろう。


 私とマリエは奥の建物の縁側に案内された。

 窓のない廊下に腰掛ける。


「ここって、ネスカ先輩が師範代なんですね」

「ええ。そうよ」


 道場主のお父さんは、地方に指導の出張に行っているそうだ。

 地方指導は儲かるらしい。

 健康道場だけでは、経営は厳しいようだ。


 小休止がおわって、再び練習になる。

 私とマリエは見学させてもらう。

 だけど練習は、すぐにまた中断になってしまった。

 来客があったからだ。


「おやおや、楽しそうなダンスだな。道場とは思えない雰囲気だ」


 完全に馬鹿にした口調でそう言って――。

 肩で風を切って門をくぐってきたのは、いかにも暴力を愛していそうな怖い雰囲気の中年男性だった。

 いかにも地位の高そうな、派手な拳法着を着ている。

 長い髪をしばってまとめて、背中に流していた。

 背後には20名ほどの門下生がいた。

 全員、黒い拳法着を着ている。

 態度が悪くて、まるでチンピラみたいだ。


 そのただならぬ雰囲気に、ネスカ先輩が門下生を下がらせて前に出た。


「ねえ、マリエ。道場破りかも」

「やっぱり何かあったよ」

「あはは」

「笑ってる場合じゃないからね、クウちゃん」


 私とマリエは、まずは大人しく様子を見ることにした。

 いきなり出しゃばるのも失礼だろう。


「当道場に、何か御用でしょうか?」


 ネスカ先輩が堂々とした態度でたずねる。


「まさかとは思うが、貴様がここの道場主か?」

「いえ。私は師範代ですが」

「ははははっ! おい、見ろ! この小娘が師範代だと! ここの道場は何を教えているのだ!」


 中年男性が笑うと、チンピラみたいな門下生たちも笑った。


「ここは看板にある通り、健康のための道場ですが」

「ふん。まあ、いい。おい、小娘。この私が誰なのかは、わかるな?」

「いえ。どこのどなたですか?」

「この私を知らぬとは、どこまで武道家失格なのだ。この私こそが、マースゴーイ武闘大会のチャンピオン、モッサ! 今回、こちらの帝都に拳法の道場を作ることになったのでな、同業者に挨拶をしに来たのよ」

「失礼な奴ね。挨拶はわかったから、さっさと帰ってくれる? あと二度とうちには来ないでね」


 腰に手を当てて、ネスカ先輩が睨みつけた。


「礼儀も知らぬ小娘が! 痛い目を見たいようだな!」

「恥をかかない内に帰った方がいいわよ」


 ここで、健康道場の門下生たちが声を上げた。


「そうだそうだ」

「田舎者は帰れ」

「ここは帝都だぞ、田舎とは違うんだぞ」

「そうよ! 帝都で乱暴なんてすれば、すぐに逮捕で追放よ! これだから田舎者はイヤなのよ!」


 この声にモッサが激怒した。


「貴様らぁぁぁぁぁぁ! 雑魚共の分際で、このチャンピオンの私を世間知らずの田舎者だと笑うかぁぁぁぁぁ!」


 私は正直、わくわくしていた。

 だってこれって――。

 カンフー映画のワンシーンそのものだ。


 ただ、見る限り、モッサというヒトはそれなりに強そうだ。

 威張っているだけのことはある。

 ネスカ先輩も強いけど、背後にチンピラどもがいることを考えれば、不利は免れない状況だ。

 こっちの門下生は、モッサに怒鳴られて萎縮してしまった。


 マリエは……。


 あ。


 何もしゃべらないと思ったら……。

 背筋を伸ばして、微笑んで、静かに気配を消している!

 いつの間に!

 さすがだ!


 さて、私はどうしようかな。


「我が門下生よ! この私を怒らせればどんなことになるのか――。この雑魚共にとくと味あわせてやれ!」


 いかん。

 迷っている内、始まってしまいそうだ。


 と思ったら――。


「ハンっ! なに? 偉そうなことを言っておいて、貴方、1人じゃ怖くて私とも戦えないのかしら?」

「なんだと小娘。まさか、この私と一騎打ちをしようとでも言うのか?」

「気に入らないなら試合で決着つけましょ」

「よかろう」


 なんと。


 ネスカ先輩の挑発で、一騎打ちが決まってしまった。

 これにはモッサの門下生たちが大爆笑。

 一方、健康道場の門下生たちは、ネスカ先輩のことを止めた。

 誰もネスカ先輩が、モッサに勝てるとは思っていないようだ。

 まあ、うん。

 それは、わかる。

 だって、身長も体重も風格も、圧倒的にモッサが上だ。

 ただ、私は不安には思わない。

 ネスカ先輩の戦闘を見たことがあるからだ。

 ネスカ先輩は強い。

 魔力をしっかりと肉体に浸透させて、それどころか圧縮させて一気に解放する超加速スキルまで身につけている。

 ただ一方で、モッサが弱いとは言わない。

 良い勝負になりそうだ。

 武闘家同士の堂々たる一騎打ちなら、止める必要はないだろう。

 私も見学させてもらうことにした。


「これはすごいことになったね、マリエ」

「クウちゃん、私に話しかけないでね? 私、今、空気だから」

「あ、うん。ごめん」





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― 新着の感想 ―
かっぱんさんのネーミンセンス大好きw
[一言] 〉しかし、私の小鳥さんブレインには、記録がなかった (大塚明夫voice)もはや語るまい…
[一言] マリエ空気(笑) J・M(地味)フィールド展開しててもクウには突破されるマリエちゃん可哀想。 審判者マーリエ様が「やめなさい」と言えばやめる…はず。多分。 田舎貴族は知らないか。
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