783 9月7日のこと
ナオといろいろあった翌日の朝。
9月7日。
キタイと筋肉に負けないで、私は今日も元気に活動を始めた。
まずは、転移魔法を使ってユイのところに行って、ユイと合流してからエリカのところに行った。
3人そろったところで、昨日の出来事を話した。
「ねえ、クウ」
「ん? どしたの、ユイ」
「私も今日から、クウのことはセンセイって呼んでいい?」
「やめてね?」
「では、わたくしも今日からクウのことはセンセイと――」
「やめてねホントにねっ!」
コホン。
「とにかく、そういうわけです。大森林と獣王国と竜の里は、センセイという謎の存在の下にまとまりました。でも、センセイとは私です。何の害も力もない可愛いだけの存在です。これから、もしかしたらセンセイという名前が出てくるかも知れませんが、そういうことなので気にしないでください」
私はそう話をまとめた。
うん。
センセイのことは、あらかじめユイとエリカに話しておいたほうが無難だろうと考えた次第なのだ。
「ねえ、クウ」
「ん? どしたの、ユイ」
「聖国もセンセイの下にまとまりたいんだけど……」
「それなら王国もお願いしますの」
「……なんで?」
「だって、その方が、絶対に私、楽だよね? なにかあれば、クウえもんに相談できるんだよね?」
「今でも相談には乗ってるよね?」
「そうだけどー! もっともっと相談に乗ってほしいのー!」
「嫌です」
「なんでー!」
「めんどくさいからです。今でも面倒で大変なのに」
「いやぁぁぁぁぁぁ! クウー、私を見捨てないでぇぇぇぇぇぇ!」
あーもう。
朝から泣いてすがりつくなっ!
「ねえ、クウ」
「……なぁに、エリカさん」
「センセイという存在が架空のもので、何もしないのなら、べつに宣言するくらいはいいですわよね? わたくしたちもセンセイの指導を受けています、と。したところで何もないわけですし」
「……そんな宣言してどうするの?」
「緩やかに共通の価値観を持てますわよね、獣王国や大森林と。それは良いことだと思いますの」
「そうだね。先日の帝国との4カ国宣言と合わせれば、これでクウが大陸の大半を支配したことになるよねっ!」
「考えみると……。そうですわね。さすがはクウですの」
「クウ、やったね! 陰の支配者だね、おめでとうっ!」
ユイとエリカに拍手された。
いや、うん。
嬉しくないからね?
そもそもなんにも支配とかしていないし。
まあ、とりあえず、うん。
センセイの件は面倒になったので、好きにしていいことにした。
ただし!
私の名前は出さないこと!
それについては、よーく約束させた。
そんなこんなで。
昼。
私は1人、帝都にあるいつもの大衆食堂『陽気な白猫亭』でランチをいただくことにした。
「クウちゃん、いらっしゃーい!」
お店に入るとすぐに、猫耳のメアリーさんが出迎えてくれる。
「こんにちは、メアリーさん」
メアリーさんは、ほとんど年中無休で昼も夜も働いているのに、本当にいつも元気で明るい。
すごい気力と体力だ。
「今日はどうする? 実はオススメがあるけど」
「へー。じゃあ、それで」
「はーい」
あえて内容は聞かずに注文してみた。
まあ、うん。
まわりのお客さんが食べているからわかるんだけどね。
「はい、どうぞー」
「ありがとー。ねえ、メアリーさん」
「うん。なぁに、クウちゃん」
「頼まれても、買いすぎは注意だよ? 前もやっちゃったよね?」
たしかトマトで。
「あはは。う、うん。そうだねっ!」
今日のオススメは、ひたすらのカボチャ尽くしだった。
まあ、うん。
美味しいからいいんだけどね。
「ところでクウちゃん。ロックさん、惜しかったね。御前試合、騎士の人に最後で負けちゃったんだってね」
「うん。残念だった」
御前試合のことは、もう町でも噂になっているようだ。
というか昨日の夜、ロックさんがお店に来て自分で語ったそうだ。
私も聞きたかったけど……。
昨夜は、さすがにお店に来る余力がなかった。
獣王国のことも、それなりには噂になっているようだった。
ただメアリーさんの口ぶりは、あくまで、遠い国の出来事。
完全に他人事だった。
ごちそうさまでした。
私は店を出た。
「さーて、後はどうしようかなー」
今日は工房はお休み。
私は自由だ。
ここから夕方まで、なにをしてもいいのだ。
新獣王国のことも、現状で手伝えることはすべて手伝った。
あとはナオ次第だ。
私の肩は、今、とっても軽い。
今日は9月の7日。
夏休みは9月10日まで。
最後の10日には、マリエが魔道具で記録した夏の旅のお楽しみ映像鑑賞会が大宮殿であるので――。
自由に動けるのは、今日を入れてあと3日。
無駄にしないよう、この時間を大切にせねば。
「よし。なにか探してみよう」
というわけで私は、帝都の町を散歩してみることにした。




