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780 センセイの下に!



「えー。こほん」


 こんにちは、クウちゃんさまです。


 私は今、大森林の中にある金虎王のお屋敷前の広場にいます。

 成り行きで「センセイ」として、詰めかけた獣人の皆さんを前にこれから何かしゃべることになりました。

 いったい、センセイとは、どこの誰なのか。

 いや私のことなのか。

 この場合は。

 センセイとは、ただの宣誓だったはずなのですが、私は細かいことは気にしない子なのでもういいのです。

 指名されたからには、なにかしゃべるのです。

 それが芸人魂というものなのです。


「皆さん、こんにちは。

 私がセンセイです。

 私から言わせてもらうことは、たったひとつです。

 それは、バーガーです。

 バーガーを、好きな時に食べてください。

 そうなる人生を、目指してください。

 わかりましたか?」


 私は問うた。

 しかし返事はなかった。


 まあ、いい。


 私は静かに着地した。


 いつか、きっと、わかる日も来るだろう……。


 私がかつて荒野の中に塔を建て、賢人ク・ウチャンの石碑と共に、塔の壁に刻んだあのバーガーのように。


 金虎王が叫んだ。


「わかったか、テメェら! バーガーだ! バーガーを食うんだ!」


 クウちゃんだけに?


 と、私が問いかけるよりも早く、金虎王とその部下に煽られて、詰めかけた群衆が叫び始めた。


 バーガー!

 バーガー!

 バーガー!


 それは、大森林に轟くバーガー・コールだった。

 私は大いに満足して、その声を聞いた。

 今、この地に。

 バーガー文化の種が蒔かれたのだ。

 それは素晴らしいことだろう。

 うむ。


 やがてバーガー・コールが収まる頃、フラウがついに声を発した。


「よくぞ申した、森の子等よ」


 木々を揺らし、地響きすら起こす声の轟だった。

 またたく間に広場は静まり返った。


「我、竜王フラウニールは、森の子等の声を嬉しく思うぞ。

 我らはセンセイの下、バーガーを食うのだ」


 クウちゃんだけに?


 今度こそ言おうと思ったけど、間に合わなかった。


「よいか! 聞け!

 我ら竜族は、センセイの下にある!

 我等の加護を受けし新獣王国もまた、センセイの下にある!

 そして、今!

 この大森林も、センセイの下についた!

 今!

 竜族、大森林、新獣王国は、共にセンセイの下にある存在となった!

 忘れるでないぞ!

 センセイのお言葉を!

 バーガーだ!

 バーガーを好きな時に食うのだ!」


「クウちゃんだけに?」


 私は言った。

 ついに言った。


 だけど誰も、聞いていなかったようだ。


 わー!


 と、凄まじい大歓声が、木々を揺らして広場一体を包んだ。


 ともかく。


 大興奮の中、話はおわった。

 内容はよくわからなかったけど……。

 どうして最後、バーガーの話になったのか……。

 まあ、うん。

 新獣王国に対する感情は、随分と改善されたのではなかろうか。

 それは肌で感じる。


 よかったよかった。


 集会の後は、金虎王のお館の客間で、久しぶりにノノと再会した。

 ノノは金虎王の娘で、ルルさんの妹。

 ノノは、囚われて奴隷にされてしまっていたところを私が助けて、この大森林に送り届けた子だ。

 年齢は私と同じくらい。

 豪放で見栄っ張りで実は気弱な金虎王の子とは思えない、キチンとしゃべれる礼儀正しい子だ。


「センセイ、その節はお世話になりました。あと今回は父がご迷惑をおかけして申し訳有りませんでした」

「センセイはいいよー。クウちゃんでいいよー」

「はい。クウちゃん様。フラウニール様も、父が勝手なことを言って、恩を仇で返してしまって本当に申し訳有りませんでした」

「気にする必要はないのである。もうおわった話なのである」

「――はい。ありがとうございます」

「それより元気だった?」


 頭を下げるノノに、私は笑顔でたずねた。


「はいっ! お陰様でこの通りです」


 ノノが、むんと力こぶを作る。

 温厚な表情とは裏腹に、かなり筋力はあるようだ。


「さすがはルルさんの妹だねー」

「そういえばクウちゃん様は、ルル姉さんと帝国で仲が良いんですよね」

「うん。そうだねー。たまに一緒に食事とかしてるよー」

「元気にやっていそうですね」

「獣王国とのことは、心配していたけどね」

「解決して本当によかったです。お父様は、新獣王国も自分の支配下に入るべきだとか言ってて……。そんなの戦争になりますよね」

「向こうは相手にしていなかったけどね」


 私はナオに「なんとかしてよクウえーもん」されてここに来たわけだけど、表面的にはそういうことになっている。

 なんにしても解決してよかった。


 この後……。


「あの……。それで、なのですけど……」


 ノノからためらいがちに、私が刺客連中に返却した金虎王家の短剣を再び私に渡したいと言われた。

 んー。

 私は迷ったけど、フラウの口添えもあって受け取った。


 そこからは楽しいおしゃべりをした。

 大森林での生活を聞いて、帝都での生活を話した。


 しばらくすると金虎王が来た。

 私たちに食事を出したいとのことだった。

 私はバーガーを求めた。

 金虎王は了承した。

 ただ、面倒なのでパーティーは断った。

 ここでいただくだけだ。


「わかりました! 誠意、作らせていただきます!」

「クウちゃん様、フラウニール様、私も一旦失礼させていただきます」

「うん。ノノ、またねー」

「はい。ありがとうございました」


 ノノも金虎王と共に退出して、私はフラウと2人になる。

 私たちは縁側に出て、緑豊かな庭を眺めた。


「フラウ、今日はありがとねー」

「クウちゃんのためなら、なんでもするのである」

「ありがとー」


 くっついてきたフラウをヨシヨシする。

 まあ、うん。

 いつの間にか私は寝ちゃったけど。


 やがて――。


 ドタドタと足音が響いて、金虎王が戻ってきた。

 その足音で私は目覚めた。


「センセイ! フラウニール様! バーガーを持ってまいりました! どうぞお召し上がりください!」


 金虎王に遅れてこちらは静かに現れた使用人さんの手には、バーガーを山盛りに載せたお盆があった。


 では。


 ここからは美食の賢人ク・ウチャンとして……。

 まさにセンセイとして……。

 味わわせてもらおうか……。

 大森林のバーガーを……。







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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 味の評価は明日かな? うまいのか?まずいのか? 新感覚の味なのか?楽しみに!
[一言] 今日の晩飯バーガーにするかな
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