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778 ナオ太くん





「クウ」

「ん?」

「実は、重要な質問をしたい。今夜、もう少し平気?」


 パーティーの後。


 最初にエリカ御一行を送って――。

 その後、ナオとダバを送って――。

 ナオがダバを帰宅させて、私と2人きりになったところで――。

 真顔でそう言ってきた。


 ちなみにユイは自力で家に帰った。

 すでに転移魔法が使えるしね。

 ナオは今のところ、まだ転移魔法までは使えていない。


「いいけど、なに?」

「家の中でいい?」

「うん。いいけど」


 ちなみに今、私たちがいるのは、新獣王都にあるナオの家の庭だ。

 なので家の中までは徒歩ですぐ。

 ナオの家は、和風の邸宅。

 戦士長に相応しい重厚な感じに私が作った。


 光魔法の照明、ライトボールを浮かせて、居間に向き合って座る。


 ナオの家は、殺風景だ。

 何もない。

 現状、ナオは獣王の館に住んでいる。

 この家は使っていないしね。


 ナオは正座して、キチンと座った。


「どうしたの、あらたまって。あ、金虎族のこと?」

「それもある」

「だよねー」

「……実は、パーティーでは強気なことを言ったけど、本当は獣人同士だし金虎族とは仲良くしていきたい」

「だよねー」


 それはそうだよね。

 わかる。


「だけど、こちらから頭を下げるのは嫌だ」

「だよねー」

「まずは向こうが謝ってくるのが筋」

「だよねー」


 手を出してきたのは向こうだしね。


「だけど、多分、来ない。なので私はベアー」


 がおー。


 と、ナオが両手の爪を立てた。


「くまった?」

「いえす。なんとかしてよ、クウえもーん」

「ユイのマネはしなくていいからね?」


 まったく。


「私はナオ太くん。特技は昼寝です。だけど最近は、夜寝もまともに出来ていません死にそうです」

「がんばれー。踏ん張りどころだよー」

「そもさん」


 いきなりナオが言った。


「せっぱ?」


 懐かしいやりとりだね。

 何を問う気なのか。


「人生には楽があれば苦もある。そんな人生の中、貴女は今、後から来た人に追い越されようとしています。さて、どうしますか?」

「印籠を見せればいいんじゃないの?」


 それで解決だよね。


「残念ですが考え直しを要求します。私は決して、水戸黄門の曲の歌詞を意識して言ったわけではありません」

「それ言ってる時点で、意識しているも同然だよね?」


 言葉はそれなりに変えてあるけど。


「さあ。どうぞ」


 ナオが解答を促してくる。


 まあ、いいか。

 私は考えた。


「私なら普通に見送るかな。おー。頑張ってるねー。って。正直、そういう時に嫉妬心とか湧かないんだよね」

「クウ」

「ん?」

「これはギャグ問答です」

「あ。はい」


 そうなのね。

 ならば。


 私はボクシングのポーズを取って、こうなんか、内側からえぐりあげるようなパンチを打った。


「イン・ロー。印籠だけに。なんちて」


 てへ。


「クウ、印籠は関係ない」

「もー。いいでしょー、印籠でー。文句があるならナオが答えてよー」

「わかった」

「はい、どうぞ」

「泣きたくないから、ほら歩こう」


 水戸黄門の歌詞だよね、それもだいたいのところは!

 やっぱ印籠でいいじゃん!


 というやりとりはあったのですが……。


 気を取り直して。


 こほん。


「つまりナオは、泣きたいけど泣かずに頑張っているといいたんだね」

「いえす」

「で、誰に追い越されたの?」

「みんなからの期待に」

「なるほど」


 とてもとても真面目な答えだね。

 とてとてだね。

 ギャグはどこに行った。


「というわけで、助けてクウえもーん。もう私には、泣きつけるのがクウえもんしかいないよー」


 そう言って、ナオが私の膝に顔をうずめてきた。


「もう。しょうがないなー、ナオ太くんは」


 仕方がないので頭をナデナデしてあげる。

 まあ、うん。

 そもそも見捨てるつもりはない。


 それに――。


 ナオが泣きつけるのは、本当に私しかいないのだろう。


 もちろん、ユイにエリカ。

 それに、フラウたち竜の人もいるけど。


 ユイとエリカは、すでに他国の重鎮だ。

 ナオとしては、フラウたちには、立派な姿を見せたいところだろう。

 心配されても「大丈夫、平気、私はやれている」って答えていたし。


「ところでナオ。最初の重要な質問ってなに?」

「今日、私は頑張って戦士長を演じた」

「うん。毅然としていたね」

「……さあ。私は誰でしょう」

「ハマーン様?」

「…………」


 答えると、ナオが黙ってしまった。


「ん? ちがった?」

「……正解だったから、びっくりした。似ていた?」

「そうだねー。似ていたかというと、似てはいなかったけど……。いやうんそんな雰囲気はあったよー」

「黙れ、俗物。は言う機会がなかった」

「それ、なくてよかったと思うよ」

「私もそう思う。でも、よかった。そんな雰囲気はあったのか」

「あったよー」


 ナオは本来、受け身で大人しい子だ。

 リーダーシップを取ったり、威張り散らすタイプではない。

 ただ今は、獣王国を束ねるために、まだ小さなクナを胸に抱いて、強い戦士長を演じなくてはいけない。


「それでナオ、金虎族はどうする? 私が適当にぶん殴って、わからせて話をつけてきていい?」


 私はたずねた。

 返事はない。

 ナオは、私の膝枕で寝てしまっていた。


 私は小さくため息をついた。


 まあ、うん。


 起こす必要はないか。


 私はアイテム欄から、布団を出してあげた。






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― 新着の感想 ―
確かに自由なのはクウちゃんしかいないね。
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