表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

775/1358

775 晩餐会




「クウちゃん、その空色のドレス、お似合いですね」


 セラがにこやかに言った。


「ありがとー」


 私はにこやかに言った。


「クウちゃん、その空色のドレス、本当にお似合いですね。エリカさんとお揃いなんですね」


 セラが、さらににこやかに言った。


「うん、まあねー。勝手に作られちゃってねー」

「クウちゃん、その空色のドレス、本当に本当にお似合いですね。わたくしとはお揃いの服なんてないのに」

「前に作ったふわふわパジャマは?」


 去年、うちでお泊りした時、色違いで作ったよね?


「あ、そうでした! 一着だけありましたーっ!」


 セラが手を合わせて喜ぶ。


 という微妙に疲れる会話をしつつ……。


 私たちは、白いクロスの敷かれた豪華なテーブルの席について――。

 陛下たちの入場を待っていた。


 夜。


 これから晩餐会。

 大宮殿での、豪華なディナータイムだ。


 静かに流れていた曲が止まる。

 合わせて司会の人が、陛下たちの入場を告げた。

 陛下に皇妃様。

 加えて、エリカ、ユイ、ナオ――主賓たちがついにご登場だ。

 エリカたちは、正面に置かれた特別席に、陛下と皇妃様を中心にして左右に並んで着席した。


 最初に挨拶があるようだ。

 順番や内容は、すでに決まっているのだろう。


 いったん着席して会場が落ち着いてから――。

 あらためて陛下が立ち上がった。


 ちなみに晩餐会に出席しているのは、今日の御前試合の選手と観客、加えて招待された貴族の人たちだ。


 陛下のお言葉は、御前試合のことから始まった。

 優勝した黒騎士のラウゼンさんには、あらためて祝辞が送られる。

 ラウゼンさんは……。

 うん。

 今のところはまだ闇の人なので、完全無表情だったけど。


「さて。本日は、わざわざ御前試合の為に、他国の方々が貴重な転移の魔道具を使用して来てくれたわけだが――。

 その御蔭で、実に有意義な話をすることができた。

 皆もすでに承知のことと思うが、昨今、この大陸では異界からの侵略者、悪魔と呼ばれる存在が跋扈している。

 そのことについては、すでにここにいる聖女ユイリア殿が世間にも告知し、人類の団結を訴えていたわけだが――。

 今回、我々は国家として、四カ国で力を合わせようと決めた」


 陛下が私たちに向けて、堂々と宣言する。

 わずかに会場がざわめく。

 四カ国――。

 という言葉に反応してのものだ。


 ここで陛下が着席して、代わりにナオが立ち上がった。

 獣王国戦士長の正装に身を包んだナオは……。

 うん。

 実に堂々としていた。

 体躯としてはまだ大きいとは言えないのに、すでに風格すら感じる。


 私は、うん。


 そんなナオの姿を見る度に、嬉しい反面、寂しさも感じてしまうのでした。

 ナオ、立派になって……。

 どんどん遠くに行ってしまうのね……。

 親心だ。


「ド・ミ新獣王国を代表して挨拶申し上げる。帝国との間に対悪魔の協力体勢を築けたことを嬉しく思う」


 それだけ言って、ナオは着席した。

 次にはエリカが立ち上がる。

 エリカは、定型文のように当たり障りない言葉を並べた後、国王からの伝言としてこう締めくくった。


「我がジルドリア王国も悪魔の撲滅に向けて、帝国と、そして聖国と新獣王国と手を取り合う所存です。今後ともよろしくお願いいたしますの」


 なるほど。


 新獣王国の設立を認めるとか、国交を結ぶとか――。

 そういう直接の表現は避ける方向なのね。

 対悪魔にかこつけて、事実上、仲良くしていくということなのかな。


 まあ、うん。


 まだトリスティンとの戦争もおわっていないしね。

 それくらいが妥当なのだろう。


 私が感心していると、最後にユイが立ち上がった。


 ユイが言う。


「本日、こうして皆様と縁を結べたことは、すべて精霊様のお導きです。

 精霊様に感謝を。

 ――ハイカット」


 ユイは小さく祈りを捧げる。

 全員の参加者が同じように祈りを捧げた。


 私は笑いを堪えた。


 ユイは、この場で私を笑わせるために、わざとやっているのか。

 それとも天然なのか。

 たぶん後者なのが本気で怖い。

 普段の儀式で使いすぎて完全に馴染んでいるのだろう。


 ユイが着席する。


 その後、食事が始まった。


 私とテーブルを囲むのは、セラ、お姉さま、メイヴィスさん、ブレンダさん。

 あとは、晩餐会から参加してきたディレーナさんとオーレリアさん。

 ディレーナさんはアロド公爵家のご令嬢。

 オーレリアさんは、夏休み前の学院祭でユイナちゃんに激突されて酷い目に遭わされた伯爵家のご令嬢。

 2人とも元気そうで良かった。

 食事は、それなりに楽しく取ることが出来た。

 お姉さまたちは、あえて獣王国のことには触れないようにしている様子だったので難しい話もなかったし。

 それなりに、なのは、時々、チラチラと間接的にながら……。

 特訓したいなー。

 師匠にしてほしいですよねー。

 的なアピールが鬱陶しかったからですねっ!

 メイヴィスさんにブレンダさん!


 食事がおわれば、その後は自由な歓談の時間となる。

 私たちはとなりのホールに移った。

 私はとりあえず、セラたちとはいったんお別れして、自由になったナオとエリカとユイに合流した。


 そこでナオにサプライズが起きた。

 ドレスに身を包んだサギリさんが現れたのだ。


「おめでとう、ナオ。ついにやり遂げましたね」

「――サギリ姉さん」

「ええ」


 驚くナオに、サギリさんが優しく微笑む。

 サギリさんは帝国の隠密部隊の長。

 普段は表に出ることのないヒトだ。

 元は獣王国の戦士。

 ナオの親戚で、ナオと同じように獣王家の血筋。

 銀狼族の、美しくも精悍な女性だ。


「ニナ様の忘れ形見がいると聞きましたが」

「はい。居ました」

「そうですか……。本当なのですね……」

「名前はクナ。元気な子です。いつか機会があれば、会いに来てください」

「そうですね――。仕事で関わることが、あれば――」


 サギリさんは帝国に忠誠を誓っている。

 戦いに敗れて仲間と共に逃げてきた自分たちに生活の保証を与えてくれた帝国の恩に報いるためにも、新獣王国には関わらないと明言している。

 ただ、それでもやはり、想いは深いに違いない。


 私なら、パパッと会わせてあげられるけど……。

 それは、でも……。

 なんというか……。

 2人の想いを馬鹿にするかのような行為にも思えたから……。

 私は2人の会話に口を出さなかった。


 エリカとユイに誘われて、離れたところで果実水をいただく。


「ねえ、クウ。あの方が、帝国にいるという、ナオの唯一の肉親なのですね?」

「うん。そう」


 私はエリカにうなずいた。

 クナがいるから唯一ではないけどね。


「美しい銀狼の方ですわね」

「だねー」


 普段は黒頭巾姿だけど。


「ナオもあと何年かしたら、あのような美人になるのでしょうね」

「だねー」


「クウが柄にもなく感傷に浸ってる。おっかしー。にあわなーい。あははー」


 む。


 ユイが馬鹿にしてきた!


 このヤロー、ハイカットの刑にしてやる、と思ったけど、さすがにここで聖女様をイジるのは無理か。


「まあね」


 私は肩をすくめて――。

 サギリさんの前ではにかむナオの横顔を見つめた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ