773 ロックvs黒騎士!
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、大宮殿の奥庭園に特設された会場で、四カ国の代表が剣を交える御前試合を見学しています。
試合は進んで、残すは後2試合。
黒騎士2名。
そして、ロックさん。
なんと、帝国勢ばかりになっております。
黒騎士の主であるローゼントさんは、この結果にホクホクの笑顔です。
ただ、うん。
まだ黒騎士の勝利でおわったわけではない。
なにしろ、ロックさんがいる。
「ロックさーん! がんばれー!」
さっきは聖国と帝国の戦いだったので、黒騎士にも声援は送ったけど。
今回は送らない。
ローゼントさんには悪いけど、私はロックさん派だ。
セラが不安げに言う。
「……でも、ロックさんは勝てるんでしょうか。
黒騎士の人たち、怖いくらいに冷静で隙ひとつありませんよね……。
隙かと思えば、誘いばかりですし……」
「それはねえ、まあ、うん」
黒騎士の人たちには――。
騎士として剣士としての十分な実績と経験がある。
今、彼らは、すべての感情を廃して、そのキャリアを元に、常に最適解を出して行動している。
メガモウは、その演算をぶち壊すべく大暴走したけど――。
実績と経験の前に、結局、あしらわれてしまった。
果たして、ロックさんはどうするのか。
1回戦の時のような、ただの奇襲・奇策が通じるとは思えないけど――。
さあ。
両者が向かい合った。
「始め!」
騎士団長グラバムさんの宣言で試合が始まる。
ロックさんの選択。
それは堂々の正面勝負だった。
力と力、技と技。
緩急を付けて自在に打ち合う。
1回戦のトーノさんの時は、力のロックさん、技のトーノさん、という感じでお互いに長所をぶつけ合った。
今回は、同じ正面からの打ち合いでも、少し様相が異なる。
ロックさんは慎重だった。
大胆に見せて斬り込まず、誘いをかけていく。
相手の右脇が空けば――。
攻めずに距離を取る。
黒騎士の側も同様で、正面から打ち合いつつも、戦いは膠着した。
10分が過ぎる。
一騎打ちで10分というのは相当な時間だ。
明らかに両者共に動きが鈍くなってきた。
そろそろ両者共に、決定的なタイミングが生まれることだろう。
それを見逃さず――。
そこに踏み込んだ方が勝つのだ。
「ねえ、クウちゃん……」
「どうしたの、セラ」
「……クウちゃんなら、どう戦いますか?」
「私なら蹴るけど」
それでおわりだし。
私がそう答えると、セラがそっけない感じで、
「あ、はい」
と言った。
…………。
……。
クウちゃんだけに、くううううう。
これは私ですセラではありません。
最近は言われてばかりだったので、久しぶりの披露です。
心の中でだけど。
15分が過ぎた。
会場脇では、グラバムさんとお兄さまがなにやら言葉を交わしている。
水入りとするかの協議だろう。
グラバムさんの言葉にお兄さまがうなずいて――。
一旦休憩かな。
と、私が思った刹那だった。
黒騎士とロックさんの振るった剣が正面からぶつかって、両者共に弾かれた。
すでに何度も繰り返された互角の打ち合いだ。
消耗したお互いの体が、お互いにわずかに揺らいだ。
ロックさんが、崩れかけたバランスを整えるように、剣の切っ先をうしろに向けて腰にまで引き戻した。
黒騎士は、慎重に正眼に構えを整えた。
私は見た。
ロックさんの目が見開く、その瞬間を。
それは一瞬の――。
居合のような剣打だった。
きらめいた刃が、ドスン――と、鈍い音を立てて黒騎士の胴を打った。
勝負あった。
ロックさんの勝ちだ。
「っしゃああああ!」
勝ち宣言を受けて、ロックさんが高々と剣を掲げる。
そして、よろめいて尻餅をついた。
無理はないけど、さすがに体力の限界のようだ。
試合場に入ってきた黒豹族の青年ダバが、ロックさんに肩を貸した。
2人で退場する。
楽団の演奏で聞こえなかったけど、なにやら会話していた。
2人とも、いい表情をしていたのはわかる。
負けた黒騎士は――。
負けても悔しがることなく淡々とうしろに下がっていった。
私はふと、観客席のナオに目を向けた。
ナオは満足そうだ。
ロックさんに丸投げしたのは正解だったね!
「クウちゃん。ロックさん、勝ちましたね」
「うん」
「すごいですね」
「だねー」
私も満足だ。
やはり、私の見る目に間違いはなかった。
ただ、まあ……。
この後、少しの休憩時間を置いて決勝戦が行われたけど……。
黒騎士vsロックさん。
ロックさんは、あっさり負けてしまった。
魔術で傷は癒せる。
だけど、切れたスタミナは戻らないのだ。
というわけで。
優勝者は黒騎士のラウゼンさんとなった。




