770 休憩時間
1回戦がおわって、御前試合はしばらくの休憩時間だ。
楽団が穏やかな曲を奏で始める。
観客席の奥のテーブルに食べ物や飲み物が準備されて、いったん、席から離れての自由行動となる。
歓談タイムというやつだ。
私もセラと共に席を立ってテーブルの方に向かった。
まずは陛下と皇妃様にご挨拶。
その後で私は、セラといったん別れて、エリカのところに行った。
エリカも挨拶を受けていたけど、私が近づくと、みんな空気を読んで場所を空けてくれた。
私、なんか、すごい偉い人みたいに扱われている。
まあ、いいけど。
「エリカー。やっほー」
「御機嫌よう、クウ」
「ねえ、エリカ。さっきの戦いなんだけどさ、作戦とかはなかったの?」
それがなんとなく私は気になっていたのだ。
「ありませんわよ。そんなものは」
「そなんだ」
「どうしてですの?」
「ずっと正面勝負だったし。体格的に不利なのは明白だったよね。実は何かやろうとしていたのかなーと思って」
「特にはありませんわね。持ち味を生かして全力でぶつかる。それが今回のわたくしたちの目的ですの。負けはしましたけど、2人は十分にこの大舞台で可能性を見せてくれたと思いますの」
「それは、うん。そうだね。見事だったよ」
「ありがとうございます。わたくしも誇らしいですの」
負け惜しみで言っている様子はない。
本心のようだ。
「エリカも立派になったねー。ちゃんと人を育てているんだねー」
私は頭をナデナデしてあげた。
背丈はエリカの方が高いので腕を伸ばす必要はあったけど、ちゃんと普通に届く距離だから平気だ。
「……あの、クウ。さすがにここでは止めてほしいのですけれど」
「あははー。なんでー」
いいよね。
私が褒めてあげたい気分なんだからさ。
ナデナデ。
しばらく堪能して、私はセラのところに戻った。
するとセラが頭を出してきた。
しっかりと手入れされた金色の髪がきらめく綺麗な頭だ。
「クウちゃん、はい。お願いします」
「……どしたの、セラ?」
いや、うん。
わかるけど。
頭をナデナデしろ、と、言っているんだよね。
でも、犬じゃないんだからさっ!
わたしもわたしも、なんて、やるものじゃないよねっ!
私は拒否した!
「セラ、なんか食べようか」
「むー」
「ほら行くよっ」
というわけで、あれこれ食べてみた。
うむ。
相変わらずの絶品だ。
食べているとお姉さまが来て、セラを連行していった。
挨拶タイムのようだ。
がんばれー。
ちなみにユイは超囲まれていた。
ウェーバーさんもユイのところにいて、他の人間なんて眼中にない様子でユイの言葉を聞いていた。
ウェーバーさんは超熱心な精霊神教の信者だしね。
やむなしだ。
ナオはフラウと共に用意された食事を食べていた。
「カメ、これを食ってみるのである。美味いのである。カメ、これも食ってみるのである。なかなか美味いのである」
フラウは久しぶりにナオの世話を焼いて楽しんでいるようだ。
ナオに話しかけたそうにしている人もいるけど……。
まあ、うん。
今回は、あきらめてもらうしかないね。
「ナオ、やっほー」
私は普通にしゃべりかけるけどね!
「クウ、帝国の料理は絶品。これは危険。止まらない」
「あはは。そかー。ところで、惨敗しちゃったダバ選手のところには行ってあげなくていいの?」
「さっき軽く見てきた。大丈夫、問題ない」
「あはは。そかー」
ならいいけど。
ナオと軽く話した後、私は近くに居たブリジットさんに声をかけた。
ブリジットさんも熱心に食べていた。
「ロックさん、勝ったねー」
「そうだね。勝ったね」
むしゃむしゃ。
「なんか本当に優勝しちゃうかもだねー」
「そうだね。しちゃうかもだね」
ブリジットさんはソーセージがお気に入りのようだ。
ぱくぱく。
うん、はい。
そういえばブリジットさんも大食いチームだったね。
よし。
私はブリジットさんからも離れて、ダバの様子を見に行くことにした。
選手たちの待機しているテントに向かう。
姿を消して、ふわふわと。
選手のテントは、チームごとに分けられて立てられている。
帝国、聖国、王国、獣王国、冒険者。
5つだ。
それぞれテントの中にいるのかなぁ、と、思ったけど。
そんなこともないようだ。
「だーかーらー! 放せっつってんだろ、ぶっ殺すぞ!」
「まあ、そう言うなって。楽しくやろうぜ。ひとりでテントの中で暗くなってても意味ねーだろうがよ」
テントの外の広場で、ロックさんがダバに絡んでいた。
「いいんだよ俺は! もうおわったんだからよ!」
「ってもおまえ、試合がおわったら、また整列して挨拶するんだぞ? その後には帝国の貴族が参加する交流会だってあるし。シケた顔を連中に見せる気か? それこそ大恥になるぞ」
「くっ――! 俺は、ヒト族ごときに舐められやしねぇよ!」
「だよなー? はっはっはー」
ロックさんが陽気に笑う。
ダバはあきらめたように深いため息をついた。
その様子をメガモウとバー・ウガイ選手、それに『ローズ・レイピア』の2人の少女が見ている。
黒騎士の人たちはいない。
テントの中のようだ。
なんか怖そうなので様子は見ないけど。
まあ、うん。
御前試合がおわったら元に戻ることは決まったしね!
私は気にしないのだ!
「ねえ、メガモウ」
「うおっ! って、クウかよ。テメェ、いつでも好きに現れやがって」
「それよりさ、アレっていいの?」
ダバは一応、獣王国の代表だし。
「いいんじゃねーの。さっきアイツんとこの戦士長が来てよ、ロックの野郎によろしく頼むって言ってたぞ」
「ロックさん、安請け合いしちゃったんだ?」
「安請け合いっていうか、言われる前から絡んでたんだよ。戦士長が来た時にはどうなるかとヒヤヒヤもんだったぜ」
「なるほど」
さすがはロックさんだ。
「ったくよ。おかげで緊張感もなにもねーぜ」
肩をすくめて、メガモウがぼやいた。
それを聞いて、『ローズ・レイピア』の2人がそうですねと笑う。
私も笑った。
ロックさん、まだ試合があるのにね。
何やってんだか。
まあ、ロックさんらしいけど。




