764 私はとりあえずカニになった
竜の人たちの歓迎を受けた後――。
私たちは、久しぶりにナオの部屋に入らせてもらった。
4人だけになる。
ナオの部屋はそのままだ。
ベッドがひとつあって、壁にはカメの甲羅が4つ、掛けられていた。
あと、隅には箒があった。
ナオがカメの頃に使っていた愛用の道具だ。
部屋に入ると、まずはナオがカメの甲羅を背負った。
「やっぱりカメになるんだね」
思わず私が苦笑すると、ナオにじっと見られた。
とはいえ私は怯まない。
「ねえ、ナオ。真面目に言わせてもらうと、ちゃんと服を着た上からカメの子になるのはなんか変だよ?」
カメの子といえば半袖シャツに半ズボン。
それなら、まあ。
うん。
いいけど。
正装の上に甲羅をつけるのは、正直、違和感がありまくりだ。
私に指摘されて、ナオが自分の体を見る。
そして言った。
「たしカメ」
「いやそれ、たしカニだよね? すでに確認がおわって、すなわち、たしカメた後で言っているよね」
うむ。
我ながら、カンペキな正論を言ってしまった。
「なるほど。クウは鋭い」
ナオも納得してくれたので、2人でカニになった。
v(・v・)v
v(・v・)v
「……カメの後って、カニなんだ?」
ユイが素朴な疑問を口にするけど、それについては「その通りです」と渾身のダブルピースで答えてさせてもらった。
カニカニ。
チョキチョキ。
ナオは甲羅を脱ぐと壁に戻して、床に座った。
私たちも座る。
さて。
遊んでいたいところだけど、残念ながら時間は少ない。
まずは私から、明日の対抗戦、御前試合について話をさせてもらった。
参加については、全員からオーケーをもらった。
試合は、勝ち抜け戦。
その場でクジを引いて対戦相手は決めていく。
装備は、鉄製のノーマルソードのみ。
今回は剣技の大会だ。
盾も使用不可として、同じ条件で競ってもらうことになっている。
防具もなし。
代わりに水魔術師が保護の魔術をかける。
選手による魔術の使用はなし。
審判は、中央騎士団長のグラバムさんが務める。
「ねえ、クウ。黒騎士から2名、ホーリー・シールドから2名、ローズ・レイピアから2名。あとは冒険者が1名参加して戦うんだよね?」
「うん。そだよー」
ユイに聞かれて、私はうなずいた。
「そうすると7名だよね? シード枠が発生するけどいいの?」
「ふむ。言われてみればそうだね」
気にしていなかった。
「明日はナオも来るんですのよね? せっかくですし、ナオのところから1名出すのはいかがですの?」
エリカが提案すると、ナオはまっすぐに手を上げて言った。
「なら、私が出る」
「わあっ! それ、いいかもっ! 私、ナオの戦うところ見てみたいっ! 応援するから頑張ってね、ナオ!」
すぐさまユイが大乗り気になるけど――。
「それは――。クウ、どうですの?」
「残念だけど今回は駄目かな。一般隊員限定にしちゃったし」
私もナオの勇姿は見たい。
だけど今のナオは、獣王国の戦士長だ。
一般隊員のみという今回のルールに反してしまう。
「そかー」
と、言ったのはナオです。
私じゃありません。
この後、仮面の戦士ナオはどうかという提案もあったけど――。
とてもとても面白そうではあったんだけど――。
とてとてなんだけど――。
悩んだ末、却下させてもらった。
一応は真面目な御前試合だし、お遊び要素を入れてしまうのは、関係者各位に失礼だろう。
「それならクウ、獣王戦士団の若手を1人、参加させたい」
「どんな子?」
「強い。本気で強い。だけど慢心が過ぎる子。ヒト族なんてカスしかいねぇ。雑魚の集まりだぜ。俺が殲滅してやるよ。が口癖」
「そかー」
と、言ったのは私です。
はい。
本家です。
「クウは、覚えているかな……。私が暮らしていた浜辺の村で、悪魔に殺された黒豹族の戦士の名前」
「ジダ・ボヤージュさんだよね。会うことはできなかったけど」
ナオが覚醒した夜のことは、よく覚えている。
私が駆けつけた時、ジダさんと村長さんは、すでに殺されて悪魔に取り込まれてしまっていた。
助けることができなかった2人だ。
「その彼の息子。ダバ・ボヤージュ」
「わかった。じゃあ、8人目はその彼にしよう」
ナオが強いと言うなら、それで問題はない。
「ありがとう。呼んでおく」
とりあえず御前試合については、これくらいでいいだろう。
なにしろ本題ではない。
本題は、なんといっても新獣王国のことだ。
ユイとエリカとナオには――。
事前に話を合わせておくべきことが、いくらでもある。
なにしろ3人は、今や、実質的に国の代表だ。
すごいよね。
私は、ただのふわふわの精霊さんなので……。
難しい話なんて3歩も歩いたら忘れる、小鳥ブレイン・ガールなので……。
黙って3人の話を聞いた。
私は思う。
ユイは、聖女様な時には本当に聖女様だ。
本人は意識していない様子だけど、オンとオフがハッキリとある。
エリカは、いつでも王女様だ。
もはやそれが素だね。
ナオは……。
私の知っているナオは、なんというか、カメの子。
うん。
それが一番、しっくり来る。
だから今――。
ユイとエリカと、真顔で対等に、あれやこれやと討議を交わす姿は、本当に私の知らないナオだった。
いや……。
正確には、もう知っていたんだけど。
獣王国にいたナオは、とっくに戦士長として戦っていた。
私は思った。
3人とも、成長しているんだねえ……。
と。
私はとりあえずカニになった。
v(・v・)v
チョキチョキ。




