763 前世組、久しぶりの集合
9月4日、朝。
目覚まし時計が鳴って、午前5時ぴったりに私は目覚めた。
カーテンを開ければ、すでに空は白み始めている。
8月はおわってしまったけど――。
季節はもう少し、夏が続くようだ。
今日は大切な日だ。
遅刻しないように、手早く身支度した。
1階に降りると、すでにヒオリさんが起きていた。
朝食の準備をしてくれていた。
おはよー。
ぱくぱく。
ごちそうさま。
食事の後は工房で各種商品の在庫を確認する。
うん。
まだ在庫には余裕があるね。
夏季限定の精霊ちゃんぬいぐるみは、綺麗に売り切った。
大儲けだった。
秋限定も作っちゃおうかと欲が出るほどだ。
デザインを決めるだけでも大変なのでやめておいたけど。
ちなみに去年、ノリで売り始めたエリカとナオのぬいぐるみは、現在では製造も販売も中止している。
2人とも存在が大きくなったので自粛した。
あれこれしていると、あっという間に5時30分を過ぎた。
「じゃあ、ヒオリさん。私はそろそろ行くから、今日はお店をお願いね」
「はい。お任せください」
フラウはいない。
フラウはハースティオさんたちと共に、昨日の夜、竜の里に転移してあげた。
今日、ナオの歓迎会をするためだ。
今日は前世組の作戦会議の日なんだけど――。
同時に、ナオが竜の里に凱旋する日でもある。
最初の1時間で会議して。
あとの1時間は竜の人たちと宴会することになった。
朝っぱらからだけど。
最初にナオのところに飛んだ。
新獣王都に作ったナオの自宅の庭には、精霊界へと繋がった泉がある。
なので私1人なら、行くのは簡単だ。
ナオは庭で待っていてくれた。
ナオは、緑を基調とした獣王国の立派な礼服姿だった。
次は、エリカを迎えに行く。
エリカのところは、ちょっと面倒だけど近郊のダンジョン経由だ。
ダンジョンの中に飛んで、『離脱』の魔法で外に出る。
そこからは『飛行』。
ナオは、すでに白魔法『光の翼』で自力飛行可能なので、外に出てしまえばジルドリアの王城まではあっという間だ。
私たちが空から来ることは知らせてあったので、エリカは自分の部屋のベランダで待っていてくれた。
エリカはお出かけ用のシンプルなワンピース姿だった。
シンプルと言っても、高級品なのは一目でわかるけど。
色はもちろん赤。
赤、好きだねー。
「おはよう、エリカ」
「ええ。おはようございます、クウ。
それにナオ。
――久しぶりですの」
エリカが涙ぐんだ目で、ナオのことを見つめる。
「エリカ。薔薇過ぎ」
ナオの第一声はそれだった。
まあ、うん。
エリカのベランダは、薔薇の花が満開だね。
エリカ自身も、薔薇を象ったアクセサリーを身に着けているし。
「さすがは薔薇姫でしょう?」
エリカが笑って答える。
その後、ナオのことをぎゅっと抱きしめた。
「とにかく無事で何よりですの。心配していましたの。あと、ついに祖国の復興を成し遂げたのですわよね。おめでとう」
「ありがとう。おはよう、エリカ」
「ええ。――おはようございます、ナオ」
ちなみに私は見ていた。
なんか、うん。
だいたいこういう時、私は見ているだけなのだ。
なにしろ私は久しぶりではない。
エリカともナオとも、それなりの頻度で顔を合わせている。
さあ。
ユイのところに行こう。
ユイとの合流は簡単だ。
なにしろユイの家には転移陣がある。
飛べば、到着。
「ナオー!」
いきなりユイが抱きついてきた。
もちろんナオに。
「おめでとう! ついにやったね! 七難八苦を乗り越えたね!」
「ユイ。眩しい」
うん。
すっかり興奮して、ユイちゃんは光の力で真っ白だ。
「エリカも久しぶりっ! 手紙ではしょっちゅうやり取りしているけど、やっぱり会えると嬉しいねっ!」
「ええ。そうですわね。元気な顔が見れてよかったですの」
3人で抱き合う。
私はそれを、ニコニコと見ていますよ。
ちなみにユイは、いつもの聖女の服だ。
竜の里から帰ったら、今日もまたすぐに仕事らしい。
大変だね。
「クウちゃんさま、ユイのことを頼むのです」
「うん。行ってくるね」
リトに見送られて、竜の里に転移。
到着。
転移の間からホールに出ると、竜の里のみんなが待っていた。
フラウを中心にして――。
ハースティオさんを始めとしたエリカのメイドな人たちも戻っている。
前に出たナオが、深々と一礼する。
「大願を成就しました」
ナオが言う。
「うむ。大儀である」
フラウが偉そうにうなずいて答える。
「ありがとうございます。お陰様で、ここまで来れました」
この後、ナオは竜の人たちにもみくちゃにされた。
カメ、よくやったな!
頑張ったな、カメ!
カメは相変わらず小さいな! ちゃんと食ってるのか!?
たくさんの明るい声が聞こえた。




