759 白騎士の真実
午後。
「それでクウちゃん、お父様達とはどんな話をしていたのですか? 今度はどこで何をしていたのですか?」
「いやー、あはは」
陛下たちとランチを取った後、私はアリーシャお姉さまと一緒にいた。
大宮殿から外に出て、騎士団の訓練場に向かって歩いている。
「もう。わたくしにだけ言えないのは酷く有りませんか!」
「ナルタスくんもですよね」
「あの子はまだ10歳にもなっていないのだから当然でしょう! わたくしは学院の生徒会長ですよ!」
ちなみにセラは、午後も引き続いての報告会となった。
私は解放されたのだけど……。
帰ろうとしたところで、お姉さまに捕まった。
お姉さまは、セラとおしゃべりしたものの、ナルタスくんもいたため、セラからは旅の楽しかった話しか聞かされず……。
午後の報告会にも参加を許されず……。
真面目な話からは完全に放り出されて、随分とご立腹だった。
で、私は捕まった。
で、そのまま、白騎士の練習を見に行くことになった。
まあ、うん。
お姉さまが不機嫌になるのはわかる。
わかるけど……。
私としても、正直、迂闊なことは言えない。
なので無難なこと……。
私が新獣王都に行っていたことに加えて……。
新生式典での、ナオの立派な姿なんかを語らせてもらった。
「……獣王国の代表なんですのね。あの時の銀色の子が。あの時には、脱力系の芸を好む子という印象しかありませんでしたけど」
ナオとお姉さまには面識がある。
去年の秋、大宮殿でお茶会をご一緒したのだ。
「さすがは竜騎士、と言ったところですか」
「あはは。ですねー」
お茶会の時のナオは、竜の里で修行中の竜騎士という謎の設定だった。
竜騎士とは何か。
それは未だに私にもわからないので、話は変えますが。
「お姉さまは結構、白騎士の練習は見ているんですか?」
「ええ。近場の娯楽ですし」
「……ぶっちゃけ、どう思いますか?」
「恐ろしいほどにやる気に満ちて、常にキラキラと輝いて、正直、狂気すら感じるほどの前向きさですけど――。帝国を代表する騎士となるのですから、それくらいは当然なのでしょうね」
なるほど。
前向きに捉えているわけですね。
お兄さまもそんな感じだった。
多少の違和感はあるけど、やる気全開なのは良いことだ、と。
練習場に到着した。
私とお姉さまは、脇で白騎士たちの練習を見学する。
白騎士たちは今日も全力全開だ。
厳しい訓練を積んでいるのに、弱音を吐く者も苦しむ者もいない。
皆、キラキラだ。
輝きすぎて、まぶしいくらいだ。
「やっほー。クウ」
「おひさー」
そこに突然、ゼノが現れた。
闇の気配は事前に感じたので不意打ちではなかったけど。
「これはゼノリナータ様。ご無沙汰しております」
アリーシャお姉さまが丁寧に頭を下げる。
「こんにちは。少しお邪魔するよ。それにしても、クウ、結局こいつらの侵食は消さなかったんだね。ならボクもそうしとこうかな」
「好きにすればぁ」
生返事しつつ、私は白騎士の訓練を眺めた。
侵食ねぇ……。
なんのことだろか……。
「ゼノリナータ様、黒騎士の訓練はおわられたのですか?」
「うん。完璧だよ。一応、昨日までという約束だったからね。今日はクウに完了を伝えに来たのさ。リトの『ホーリー・シールド』なんてぶち壊してやるから楽しみにしておいてね」
「あー。そのことを伝えないとだね」
私はゼノに5日の御前試合のことを伝えた。
「リョーカイ。でも、代表者1人だけなんてショボくない? せめて5人くらいに出来ないの?」
「んー。でも、ロックさんは1人だしなぁ」
「ロックって、クウの自慢のツヨツヨなニンゲンだよね? 強いなら1人で十分なんじゃないの?」
「それはそうか」
ロックさんが負けるわけないよね。
とはいえ、さすがに各陣営5人では多い気がする。
今回は対抗戦ではない。
最初は対抗戦も考えたのだけど「しこり」が残るといけないので、わざわざ個人戦に変えたのだ。
というわけで、各陣営2人で決まった。
「参加は一般隊員だけでお願いね」
黒騎士隊だけ隊長や副隊長を出したら、勝ったところでソードやセイバーやハースティオはどうしたという話になる。
あくまで今回は、部下達の成長を競い合う場ということにしておく。
その方が角が立たない。
私だって、ちゃんと考えているのだ。
かしこい精霊さんの通り名は、伊達ではないのだ。
「あ、そうだ、ゼノ。リトから伝言を預かってきたよー」
「へー。どんな?」
「やめるなら今のうちなのです。リトは優しいのです。今なら特別に、なかったことにしてやるのです。ヨワヨワなニンゲンなんて連れ出しては、闇の大精霊の名に傷がつくだけなのです」
以上。
それを聞いたゼノは、意外にも静かだった。
「早く見せてやりたいよ。このボクが腕によりをかけて作った黒き騎士達を。クウ以上に侵食させたからね」
「それは楽しみですわね」
「ああ。期待していてよ」
アリーシャお姉さまは無邪気に笑顔を見せているけど――。
私はなんとーなく。
嫌な予感を覚えた。
侵食かぁ……。
それって、つまりはアレか……。
オーラを浴びておかしくなるっていう……。
ああー。
私はそういえば特訓の日、エナジードリンク『ボルケイノ24スペシャル』を飲んでテンション全開だった。
神話武器『アストラル・ルーラー』に魔力を乗せて、かなり青く輝かせていた記憶がかすかにある。
それこそ、青い星……。
と呼ばれてもおかしくないくらいには……。
ふむ。
なるほど。
私はやっと、ようやく――。
白騎士たちの様子がおかしい、その理由に気づいた。
いや、思い出した。
そういえば夏の旅の中、ゼノからアーレの町でそんな話があった。
私のオーラかぁぁぁぁぁぁぁぁ!
…………。
……。
まあ、うん。
いいか。
白騎士のみんなは、頑張っている。
キラキラしている。
それはいいことだ。
それになんか、今更……。
知りませんでした。
とか、ゼノには言いたくないよね……。
絶対に馬鹿にされるし……。
うん、アレだ。
元に戻すにも、何かキッカケが必要だね……。
戻して然るべき、何か……。
タイミング、探しておこう……。
ちなみに白騎士は、御前試合には参加しない。
今回の帝国代表は黒騎士に譲った。
そもそも御前試合は、ゼノとリトの喧嘩が発端だしね。




