747 8月28日
「クウちゃん、妾も行きたいのである。妾も、カメが遂に、七難八苦を乗り越えて錦を飾る姿を、影からでいいので見たいのである」
「うん。いいよ。一緒に行こう」
断る理由はない。
真摯なまなざしで懇願してくるフラウの頭を、私は撫でてあげた。
まあ、うん。
相手の方が何百倍か年上なんですけどね。
それは気にしないのです。
見た目が幼女なのでオーケーなのです。
というわけで。
朝。
まだお店を開けるには早い時間。
久しぶりに我が家でのんびりとした時間を過ごしていると――。
大宮殿から使いの人が来た。
ミスリル鉱石が集まったとのことだった。
はやっ!
ミスリル鉱石は、白騎士隊の使用する武具の素材として、必要な分を揃えてもらう話になっていたけど――。
必要な数はインゴットで350個分。
正直、私は目眩を覚えて、自力での取得を断念した。
それほどの量だ。
さすがは帝国といったところか。
私は早速、願いの泉に飛んだ。
すると執事さんが待ち構えていて、大宮殿の応接室に通された。
しばし、待機。
やがてドアが開いて、お兄さまが現れた。
「来てくれたか、クウ」
「おはようございます」
「ああ。おはよう。朝から済まないな」
「いいえー。朝じゃないと私、捕まらないですしねー」
特に最近は。
「なにやら忙しいようだな」
「あはは」
新獣王国の新王都建設で頑張ったことを伝えると、呆れた顔をされた。
「何をやっているのか」
「あ。もしかして、問題とかありましたか?」
「安心しろ。俺は今、何も聞かなかった」
お兄さまがにっこりと笑った。
「あはは。お兄さま、わかって来てくれましたねー。それならついでにもうひとつなんですけど、8月30日に獣王国が新生を宣言しますよー。いよいよ、復活の時が来たみたいです」
「それは本当か? いや、そうか……。すでにそこまで来ているのだな」
「帝国的には、新獣王国は承認するんですか?」
「他国はどうだ?」
「聖国とジルドリア王国は、承認する予定ですよー」
「……トリスティンは哀れなものだな」
「停戦はエリカが仲介する予定です。受けるかどうかは相手次第ですけど。あ、そうだ、お兄さま」
「……なんだ?」
思いっきり警戒した顔をされた!
「そんな嫌な話じゃないですよ?」
「言ってみろ」
「停戦が成立したら、式典に帝国からも立会人を出しませんか?」
「それは俺が答えていい問題ではないな。父上――皇帝が決めることだ」
「そかー」
それはまた後日ということになった。
お兄さま的には、とにかくまず、白騎士隊を形にしたいようだ。
私が伝説級の妙薬『ボルケイノ24スペシャル』を飲用して狂気の24時間耐久訓練を行ってから、すでに一ヶ月が過ぎている。
白騎士の人たちは日々、懸命に訓練を重ねて、さらに強くなったそうだ。
脱落者はゼロ。
誰一人、訓練に音を上げることなく――。
それどころか恐ろしいほどの積極性を持って、まるで輝く太陽のようにパワー全開で頑張っているらしい。
…………。
……。
ふむ。
そういえばアーレの町で見た黒騎士の皆さんも――。
私が特訓した人たちなんだけど――。
そんな感じだったね……。
なんか妙に、ハイテンションで、不気味なほどに輝いていた。
どうしたんだろうね、いったい。
まあ、いいか。
やる気なのは、とても良いことだろうし。
私たちは応接室を出て、ミスリル鉱石の保管されている倉庫に向かった。
倉庫には、七色の光を滲ませる鉱石が山と積まれていた。
「おおー」
なかなかに素晴らしい。
壮観な光景だった。
「どうだ? これだけあればインゴット400個は堅いという話だが」
「確認させてもらいますねー」
アイテム欄に入れさせてもらった。
ミスリル鉱石の数は、なんと1200個。
「はい。余裕ですねー。ミスがなければ、600個のミスリルインゴットを作ることができる分量です」
「全部作ってもらうことは可能か?」
「いいですよー。サービスしときますねー」
お兄さまからは追加の料金を出すと言われたけど、それは断った。
なにしろ億の単位で報酬をいただくのだ。
庶民的には、とっくにお腹は一杯なのだ。
600個のアイテム生成は、正直、時間がかかるし体力的にキツイけど、ここは頑張らせてもらおう。
「あとお兄さま、鎧のサイズはどうしますか?」
鎧はパーツごとに別れていて、ベルトで固定する方式なので、それなりにサイズ調整は利く。
たとえばお兄さまの鎧をウェイスさんが着ることは可能だ。
だだ、お姉さまの鎧をお兄さまが着るのは難しい。
マウンテン先輩のような巨漢がいるなら、特大のサイズが必要だ。
「できればクウに直接見立ててほしいが、どうだ?」
問われて、少し迷った。
会うのか。
ハイテンションが爆発してそうな人たちと。
疲れそうだ。
とはいえ、鎧を作るなら、会わないわけにはいかないか。
「はい。わかりました。じゃあ、今日中にインゴットは作るので、明日の朝とかはどうですか?」
「本当に仕事が早いな」
「あはは。今日明日なら動けるので、一気にやっちゃいましょー」
「助かる」
この日はこれで帰宅した。
あとは、ひたすらにミスリルインゴットを作った。
疲れた。




