746 新しい都を見下ろして
ナオと共に過ごした夏の時間は、まさに怒涛だった。
夜明けから日暮れまで。
毎日ひたすら、整地作業に勤しんだ。
自分で言うのもなんだけど、私の能力と私の魔力は圧倒的だ。
普通なら何日もかかるような作業でも、まさに最新鋭の重機の如き勢いで次から次へとこなしていく。
もちろん休憩は必要だけど……。
なにしろ私は精霊さん。
種族的に体力には、あんまり自信がないのだ。
それを差し引いても、我ながら、まったくすごいのだ。
休憩には、美味しい食べ物が出た。
特にバーガー!
海洋都市から移住してきたレストランのおじさんと息子さんが、腕によりをかけて作ってくれたのだ!
うん!
絶品!
材料は、バンズにパティに、レタスにオニオン、トマト。
スタンダードなものなんだけど……。
配合のバランスと、肉の焼き加減、オリジナルソースが完全に調和していて素晴らしいのだ。
まさに口の中に広がる、味覚の遊園地と言えた。
体力も回復するというものだ!
私はますます頑張ることができたっ!
かくして。
予定の10日は超えてしまったけど、8月の27日。
私とナオは、再び丘の上に立った。
眼下に広がるのは――。
もはや、緑の景色だけではない。
そこに広がるのは――。
かつての王都の雰囲気を残しつつも、より機能性を高めて、ナオを中心とした獣王国の人たちによって計画され――。
主に私が整地した――。
新獣王都の、これから発展する中心区の姿だった。
まだ建物は少ない。
私が魔法で生成した主要施設だけだ。
丘の上――。
私たちのうしろには、武家屋敷のように立派な獣王の館がある。
新しい国の、新しい拠点だ。
私の渾身の自信作だ。
丘へと上がる道の麓には石畳の広場がある。
その広場は、獣王が民に語りかけたり、獣王が民と共に精霊への祈りを捧げるための大切な場所だ。
丘のまわりには獣王国の戦士団が居を構える予定だ。
さらに輪を描いて、商業区画。
しっかりと整地したのはそこまでで、あとは地形に合わせて道を伸ばし、自然の中に人々は住む。
とはいえ、大量の物資を運べる大通りはあるし――。
区画ごとを仕切るように伸ばして水堀の役割も持たせた水路もある。
あるというか、私が頑張って作った!
あと、どこからでも出入り自由というのは危険すぎるので――。
獣王都の周囲の地形を改変した。
川幅を広くして、丘陵を切り立たせて、街道を通らないと簡単には出入りできないようにした。
私が頑張って作った!
設計図を描いたのは、優秀な文官の人たちだけどね。
おまけとして、渾身の力を込めて結界を張ってあげたので、当分の間は獣王都に邪悪な力が侵食することはない。
あとあと、自然豊かな新王都には、なんと!
精霊界へのゲートとなっている泉があった。
その場所はナオの邸宅とした。
泉のまわりを整地して、近くに家を立てて、高い塀で囲わせてもらった。
丘へと続く直通の道も作った。
その区画は、様々な部族の族長または代官が住まう特別居住区にしようということで決まった。
いわゆる貴族区だ。
ともかく。
自然と文明が調和した美しい都。
それが獣王都なのだ。
それが今、まだすべてではないけど、私たちの眼下にあるのだ。
私とナオは、長い時間、黙って景色を見ていた。
これから頑張ってね。
と、何度か言おうとしたけど、結局、私は言わなかった。
だって――。
うん――。
もうとっくにナオは頑張っている。
もうとっくにカメの子ではないのだ。
…………。
……。
私は思う。
というか、口にしていた。
「……カメの子はカメの子で、よかったよね。特にナオは」
「うん。平和だった」
「だよねー」
竜の里は完全に守られた世界だし。
「ナオは――。戦士長として――。8月のおわりには下の広場で、新獣王国の設立を宣言するんだよね」
「うん。まだ実はないけど、まずは名から」
「私も見に来るね」
「公式に来る?」
「ううん。こっそりと影から」
「わかった」
正午丁度に宣言するそうだ。
忘れずに来よう。
「ナオ、エリカやユイと会談する日はいつにする? 早い方がいいよね」
「私が日付を決めていいの?」
「いいよー。エリカとユイには調整させるし。あ、時間は朝にしようか。それならだいたいオーケーだし」
ナオはしばらく考えて、9月4日でお願いしたいと言った。
国内の反応を少し見てからにしたいそうだ。
会談の場所は竜の里。
それについてはナオが希望してきた。
恩人であるフラウにも、ここまで来れたことを報告したいそうだ。
少しだけ自慢も。
竜の里でフラウにお願いしてみてほしいと頼まれて、私は笑顔でフラウの近況を教えてあげた。
フラウは今年の春から我が家で暮らしているのだ。
「え。そうなの?」
ナオが珍しく驚いた顔を見せた。
「うちの工房で店番しながら、楽しくやってるよー。たまに黒猫になって黒猫のゼノとも遊んでるし」
「古代竜の長が?」
「うん」
「クウの家……。帝都で?」
「うん」
「……本気でびっくりした」
ナオがしみじみと言う。
その様子がなんだかおかしくて、私は笑った。
ともかく4日の朝、迎えに来るねー。




