740 閑話・パーティー『山嵐』のその後
ダンジョンの外に出ると、さっさとに外に出ていた万年Dランクの冒険者連中が声をかけてきた。
「おう、ガキども。おせーから死んだと思ってたぞ」
「ガキはたまに、自分の力も知らねーで、ネームドで一攫千金とか馬鹿な夢を見やがるからな」
「まあ、無事で良かったな」
クソが、俺たちはおまえらとは違う。
ネームドには勝ったんだ。
俺は、そう叫んで殴りかかりたい気持ちを必死に抑えて――。
冒険者たちの中を抜けて、森の道を歩き――。
テントの立ち並ぶ広場へと戻った。
俺はマコット。
村の幼なじみたちと結成した冒険者パーティー『山嵐』のリーダー。
冒険者になって――。
臭くて汚い下水道での仕事を必死にこなして――。
装備を買って――。
始めてのダンジョン攻略をおえて――。
無傷で帰ってきたところだ。
そう。
俺たちは無傷だった。
仲間の3人は瀕死になっていて、俺も腕が折れていたのに。
今、俺たちは――。
服や装備はボロボロだったけど――。
体には傷ひとつない。
「……いいよなぁ、水の魔術。俺らにもさ、あの子みたいな仲間がいれば冒険なんて楽勝だよなぁ」
仲間の1人が水道で顔を洗いながらぼやいた。
広場にはトイレに炊事場にシャワーに水道に……冒険者がキャンプ暮らしするのに必要な施設が揃っている。
はっきり言って、俺たちの村よりも豪華で住みやすい。
「出てきたら誘ってみるか?」
「あんな可愛い子が仲間になってくれたら絶対に最高だよなぁ……」
「無理だろ。金持ちのお嬢様だぞ。仲間も俺らより強かったし」
「デカいヤツいたよなぁ」
「いたよなぁ。すげーパワーだった」
「女の戦士なんて、残像が見えるくらいに速かったし。しかも素手でスケルトンを倒してたよなぁ」
「あのカマキリも、なんかよくわかんねーけど、強かったよな」
仲間たちのそんな会話を聞きながら俺も顔を洗う。
クソ……。
俺には悔しさばかりがあった。
クソクソ!
俺たちには、何もかもが足りないのだ。
水魔術師が仲間にいれば、ネームドなんて楽勝だった。
ポーションでもいい。
ポーションが何本かあれば楽勝だった。
デカブツが身につけていた高価なスケイルアーマーがあれば、ダメージなんてほとんど喰らわなかった。
盾が鉄製だったら、もっと正面から攻撃を防げていた。
武術や剣術なんて、習う機会もなかった。
クソ。
あいつらが強かったのは、ただ恵まれていたから――。
それだけだ。
顔を洗った後は通りに向かう。
ネームドを倒して手に入れたアイテムはすべて渡したが、スケルトンとの戦いで手に入れた20個もの魔石は俺たちの手にある。
俺は連中にそれも渡そうとしたが、いらないと突き返された。
なので俺たちは自分のものにした。
まずはそれを換金するのだ。
小さな魔石だけど、20個もあるのだ。
すごい金額になることだろう――。
と、期待していたのに、手に入ったのは、4人で店に入って腹一杯に食べれば消える程度の金額だった。
ただ、仲間たちは喜んでいた。
俺たちは帝都まで歩いて戻って今夜は豪遊することにした。
と言っても、腹一杯に食べるだけだけど。
夏の午後の街道を歩きながら――。
照りつける陽射しの中、俺は仲間たちに不満をぶつけた。
「なあ、おまえらは悔しくないのか? さっきから楽しそうにして。あんなボンボンどもに頭下げたのによ」
「俺らにとっちゃ、命の恩人だぞ? 頭下げるのは当たり前だろ」
「そうそう。俺ら、完全に死んでたしな」
「だよなぁ……。村だったら、絶対に死んでたよ……」
「それによ――。知らなかったけどよ――。ああいうのは、言われてみればマナー違反だよな……」
「次からはしないようにしようぜ」
雑魚狩りをせずにネームドを取ったことか。
…………。
……。
それは、そうかも知れない。
言われるまでは、考えてもみなかったけど……。
俺だって、自分が湧かせた敵を横取りされたらブチ切れる。
「それはそうだけどよ。でも、悔しいだろ」
俺は言った。
すると仲間の1人が笑って、
「悔しいっていうか、羨ましいよなぁ。綺麗な女の子2人と冒険って。ぜってー楽しいと思うぜー」
「おまえ、そればっかだな」
「だってよー」
「なあ、帝都でさ、冒険者の女の子に声かけてみようぜ!」
「やめとけって。相手にされねーよ」
「もっとビッグにならねーとな」
「それはそうかぁ……」
「おまえらな、もっと真面目に考えろよ」
俺が憤ると、仲間たちが俺に――。
さっきの女の子たちの、どちらが好みだったかを聞いてきやがった。
青髪の可愛い子か。
銀髪の美人の子か。
答えるまでもない。
そんなもん、青色の子に決まってるじゃねーか……。
俺は、正直……。
最後のお別れの時にあの子が見せてくれた笑顔が、忘れられねーぜ……。
同時に俺はあの子の言葉を思い出した。
無理せず一歩ずつ、か……。
はんっ!
そんな綺麗ごと言ってたら、いつまで経っても上には行けねえよ!
だけど、まあ……。
全力のジャンプはやめて……。
一歩飛ばしくらいでは行ってやるか……。
「おい、どうした、マコット? ははーん。おまえ、さては、本気で好きになっちまったとかかー?」
ぼーっとしていたら、からかわれた!
クソが!
俺は誤魔化すように喚いた。
「俺は、そういう話がしたいんじゃねー! 俺らはよ、勝ったんだ! ネームドモンスターにはキッチリと! だからよ、まだやれるよな! 今度は金を貯めてポーションとか買ってよ!」
俺としては、本気の叫びだった。
こんなところで、最初の一歩で挫折してたまるか。
なのに仲間たちは笑った。
げらげらと。
クソが!
俺は、ますます憤ったけど――。
「んなもん当然だろ!」
「やるに決まってるだろ!」
「だな! 俺ら『山嵐』の冒険はこれからだぜ!」
なんだよ!
やる気あるじゃねえか!
俺はすっかり上機嫌になって、仲間たちと明日からのことを語った。




