表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

738/1359

738 先輩たちのハジケまつりっ!




 先輩たちが迷っている内――。

 大広間には再びスケルトンたちが次から次へとポップを始めた。


 ふむ。


 なかなかの数だ。

 けど、強い個体はいない様子だった。

 なので、やろうと思えば、先輩たちならやれるはずだ。


「貴重なチャンスではありますが……。カマ君の意見は?」

「ふ。判断は、ヤマちゃんにお任せするさ」


 前髪をかき上げて、マンティス先輩はマウンテン先輩に丸投げした。


「そうねぇ……。やるならやるし、引くなら引く――。ヤマちゃん、未来の騎士として判断のしどころね。私も任せるわ」


 ネスカ先輩も同じようだ。


 さあ、どうする、マウンテン先輩。

 いや、ヤマちゃん!

 世界のヤマちゃんを目指して、大いに羽ばたいてくれ!

 手羽先に使用する幻のコショウの量は、無し、少なめ、基本、多め!

 私はどれでもオーケーさ!

 どれだって美味!

 どれだって最高なんだから!


「おーし! おまえら、やるぞ!」

「「「おー!」」」


 む。


 となりにいた『山嵐』の皆さんが威勢よく拳を振り上げた。


「いや、あの……。やるの?」


 思わず私はたずねた。

 キミたちは、帰ったほうがいいと思うけど。


「当たり前だろ!

 この骨どもは一攫千金のチャンスなんだよな!

 ここで逃げたら――。

 なんのために村を出て冒険者になったんだよって話だよなっ!

 おまえら、みんなで金持ちに――。

 いや、英雄への第一歩を歩み始めようぜ!」


「「「おー!」」」


 さっきの大失態なんて気にする様子もない。

 思わず私は感心した。

 これが、若さか。

 前に進むもうとする力が凄まじいね。

 まあ、うん。

 今は私の方が年下なんだけども。


「「「「うおおおおおおおおお!」」」」


 4人の青年たちが、剣を振り上げて突撃していく。


「……やれやれですね。共闘を持ちかける暇もありませんか」


 マウンテン先輩がため息をついた。


「あれ、死ぬわね」


 ネスカ先輩が肩をすくめる。


「ふ。自己責任さ」


 まあ、確かにマンティス先輩の言う通りだ。

 彼らは自分たちの決断で戦うことを、突撃することを選んだ。

 その結果もすべて、自分たち次第だ。


 マウンテン先輩が言う。


「我々は通路の付け根に陣取って、できるだけ丁寧に釣って戦いましょう。無茶は厳禁です。なにかあれば即座に撤退で」

「はーい」

「了解だ」


 ネスカ先輩とマンティス先輩が同意して、私たちの行動も決まった。

 2人は武器を、剣と盾に戻す。

 まあ、うん。

 無難だ。

 実に無難で、実に教本書通り。

 先輩たちは手堅く、経験値を稼ぐことになるだろう。


「あのー。ひとつ、いいですか?」


 私は小さく手を上げた。


「なんですか、マイヤ君」

「確かに私、コショウの量はどれでもオーケー派なんですけど……。さすがに無しというのは少し寂しいかなーと、思いまして」

「コショウ、ですか?」

「はい。私、実はそれなりにスパイシー派でして……」


 正直、私は辛いのは得意ではない。

 姫様ドッグも激辛だと食べられないし。

 でも、まったく刺激がないというのは、正直、味気ないと思うのだ。


「……いったい、なんのことを言っているのですか?」


 マウンテン先輩が首を傾げた。


「つまり、アレですよ」

「アレですか?」


「はい。世界のヤマちゃんを目指すなら、やっぱり持ち味は最大に生かさないと通じないんじゃないかなーと。

 ……つまり、先輩方も、ハジケちゃいませんか?」


「ねえ、クウちゃん。それってもしかして、突撃しようってこと?」

「はい」


 ネスカ先輩に聞かれて、私はうなずいた。


「だって、やっぱり面白くないですよね? 自分の特技を殺して、無難に無難に戦うのなんて。彼らが正解とは言わないけど……。

 ネスカ先輩は格闘ですよ。剣と盾、はっきり言って邪魔でしかないですよね。持ち味の加速力が生かせていません。

 マンティス先輩は鎌ですよ。変幻自在に敵を翻弄してくださいよ。味方はその内に慣れますって。

 マウンテン先輩は突進しましょうよ。守ってばかりなんて窮屈すぎます。

 もちろん、時と場合によりますけど……。

 今は、その時、ですよね。

 敵は多数。

 だけど、スケルトン。

 学院や道場で鍛えてきた先輩たちなら、蹴散らせますよ。

 ハジケませんか?」


 語って、私はもう一度、問いかけた。


 わずかな沈黙を挟んで――。


「ふ。そうだな。実は俺も、剣と盾での戦いには違和感しかなかった。先程、鎌を振るった時には解放された気分だった」


 マンティス先輩が剣と盾を捨て、2本の鎌を構えた。


「――それは、同感ね」


 ネスカ先輩も剣と盾を捨てた。


「いいんですか、2人とも? 怪我をするかも知れませんよ?」


 マウンテン先輩が冷静にたずねる。


「かまぁ!」

「いいんじゃない? クウちゃんもいるしね」

「お任せあれっ!」


 ネスカ先輩に目を向けられて、私は元気にうなずいた。


「というか、そのクウちゃんが心配ですが……」

「私のことはいいよー。通路の付け根にいるから。そこからでも、回復の魔術は普通に届くしねー」

「届くのですか? 普通は、接触距離でないと無理ですよね?」

「かまかま? かまー?」

「このワンドのおかげです! 魔道具なのです!」


 そういうことにしておいた。


「それなら安心ね。じゃあ、行きましょ。あの連中が死ぬ前に」

「かまー!」

「そうですね。……実は私も、彼らを見捨てるのは忍びないと思っていました」

「かまかまー!」


 マンティス先輩、鎌を持った途端、かまとしか言わなくなったけど……。

 仲間と連携が取れない理由って、それじゃないんですか……。

 まあ、いいけど。


「あ、そうだ。マウンテン先輩、これを使ってください」


 私はマウンテン先輩に、アイテム欄から取り出した大剣を手渡した。


「こ、これはっ? 一体、どこから……?」

「魔法のバッグからです」

「そんなものがあるのですか?」

「私、お嬢様なので」

「かまー!」

「そうですね。細かいことを気にしてもしょうがありませんか。今はなんといってもハジケる時ですし。ふむ……。実にバランスの良い大剣です。ありがたく使わせてもらうとしましょう」

「かまー!」

「ええ! 行きましょうか!」


 3人がスケルトンの沸いている方に走っていく。


「お先に失礼っ!」


 先陣を切るのは圧倒的瞬足のネスカ先輩だ。


「がんばれー! ハジケろー! 自分を解放して、力を引き出せー!」


 私は声援を送った。


 その後はもう、大乱戦だった。


 ネスカ先輩が、それこそ残像が見えるくらいの速さで――。

 スケルトンを殴って殴って、投げ飛ばす。

 私は叫んだ。

 トランザム、と!


 奇声を上げたマンティス先輩が、野生の本能のまま2本の鎌を振るう。

 私は叫んだ。

 かまかまかまかまぁ、と!


 マウンテン先輩の振るった大剣が、骨をまとめて打ち砕く!

 私は叫んだ。

 どすこーい、と!


 そう。


 これだ。

 これなのだ!

 私が見たかった先輩たちの姿は!

 本当の姿は!

 もちろん乱戦で無傷とはいかなかったけど、そこは今回、私がいる。

 回復魔術をバッチリ決めて、サポートを頑張った。


 激戦の末――。


 スケルトンのポップが止み――。


 大広間は静かになった。


 先輩たちは無事だ。

 さすがに疲れ果てて膝をついているものの、見事に戦い抜いた。


 『山嵐』の4人も、キチンと生き残った。

 彼らは途中で体力が尽きて――。

 あとは、先輩たちの戦いを見るばかりになっていたけど――。

 それでも、けっこうな数の敵を倒した。

 良い経験にはなったはずだ。


 さて。


 でも。


 のんびりと休んでいる暇はない。


 次なる戦いは迫っていた。


 私は大きめの敵反応を大広間の中央に感知していた。

 どうやらネームドが現れるようだ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 全員ハジケてしまった・・・ 正気に戻ったら黒歴史?
[気になる点] カマー先輩はハジケリスト実はあったよね、うん。 [一言] 次回 ダンジョン奥から「メケメケメケメケメケメケ…」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ