738 先輩たちのハジケまつりっ!
先輩たちが迷っている内――。
大広間には再びスケルトンたちが次から次へとポップを始めた。
ふむ。
なかなかの数だ。
けど、強い個体はいない様子だった。
なので、やろうと思えば、先輩たちならやれるはずだ。
「貴重なチャンスではありますが……。カマ君の意見は?」
「ふ。判断は、ヤマちゃんにお任せするさ」
前髪をかき上げて、マンティス先輩はマウンテン先輩に丸投げした。
「そうねぇ……。やるならやるし、引くなら引く――。ヤマちゃん、未来の騎士として判断のしどころね。私も任せるわ」
ネスカ先輩も同じようだ。
さあ、どうする、マウンテン先輩。
いや、ヤマちゃん!
世界のヤマちゃんを目指して、大いに羽ばたいてくれ!
手羽先に使用する幻のコショウの量は、無し、少なめ、基本、多め!
私はどれでもオーケーさ!
どれだって美味!
どれだって最高なんだから!
「おーし! おまえら、やるぞ!」
「「「おー!」」」
む。
となりにいた『山嵐』の皆さんが威勢よく拳を振り上げた。
「いや、あの……。やるの?」
思わず私はたずねた。
キミたちは、帰ったほうがいいと思うけど。
「当たり前だろ!
この骨どもは一攫千金のチャンスなんだよな!
ここで逃げたら――。
なんのために村を出て冒険者になったんだよって話だよなっ!
おまえら、みんなで金持ちに――。
いや、英雄への第一歩を歩み始めようぜ!」
「「「おー!」」」
さっきの大失態なんて気にする様子もない。
思わず私は感心した。
これが、若さか。
前に進むもうとする力が凄まじいね。
まあ、うん。
今は私の方が年下なんだけども。
「「「「うおおおおおおおおお!」」」」
4人の青年たちが、剣を振り上げて突撃していく。
「……やれやれですね。共闘を持ちかける暇もありませんか」
マウンテン先輩がため息をついた。
「あれ、死ぬわね」
ネスカ先輩が肩をすくめる。
「ふ。自己責任さ」
まあ、確かにマンティス先輩の言う通りだ。
彼らは自分たちの決断で戦うことを、突撃することを選んだ。
その結果もすべて、自分たち次第だ。
マウンテン先輩が言う。
「我々は通路の付け根に陣取って、できるだけ丁寧に釣って戦いましょう。無茶は厳禁です。なにかあれば即座に撤退で」
「はーい」
「了解だ」
ネスカ先輩とマンティス先輩が同意して、私たちの行動も決まった。
2人は武器を、剣と盾に戻す。
まあ、うん。
無難だ。
実に無難で、実に教本書通り。
先輩たちは手堅く、経験値を稼ぐことになるだろう。
「あのー。ひとつ、いいですか?」
私は小さく手を上げた。
「なんですか、マイヤ君」
「確かに私、コショウの量はどれでもオーケー派なんですけど……。さすがに無しというのは少し寂しいかなーと、思いまして」
「コショウ、ですか?」
「はい。私、実はそれなりにスパイシー派でして……」
正直、私は辛いのは得意ではない。
姫様ドッグも激辛だと食べられないし。
でも、まったく刺激がないというのは、正直、味気ないと思うのだ。
「……いったい、なんのことを言っているのですか?」
マウンテン先輩が首を傾げた。
「つまり、アレですよ」
「アレですか?」
「はい。世界のヤマちゃんを目指すなら、やっぱり持ち味は最大に生かさないと通じないんじゃないかなーと。
……つまり、先輩方も、ハジケちゃいませんか?」
「ねえ、クウちゃん。それってもしかして、突撃しようってこと?」
「はい」
ネスカ先輩に聞かれて、私はうなずいた。
「だって、やっぱり面白くないですよね? 自分の特技を殺して、無難に無難に戦うのなんて。彼らが正解とは言わないけど……。
ネスカ先輩は格闘ですよ。剣と盾、はっきり言って邪魔でしかないですよね。持ち味の加速力が生かせていません。
マンティス先輩は鎌ですよ。変幻自在に敵を翻弄してくださいよ。味方はその内に慣れますって。
マウンテン先輩は突進しましょうよ。守ってばかりなんて窮屈すぎます。
もちろん、時と場合によりますけど……。
今は、その時、ですよね。
敵は多数。
だけど、スケルトン。
学院や道場で鍛えてきた先輩たちなら、蹴散らせますよ。
ハジケませんか?」
語って、私はもう一度、問いかけた。
わずかな沈黙を挟んで――。
「ふ。そうだな。実は俺も、剣と盾での戦いには違和感しかなかった。先程、鎌を振るった時には解放された気分だった」
マンティス先輩が剣と盾を捨て、2本の鎌を構えた。
「――それは、同感ね」
ネスカ先輩も剣と盾を捨てた。
「いいんですか、2人とも? 怪我をするかも知れませんよ?」
マウンテン先輩が冷静にたずねる。
「かまぁ!」
「いいんじゃない? クウちゃんもいるしね」
「お任せあれっ!」
ネスカ先輩に目を向けられて、私は元気にうなずいた。
「というか、そのクウちゃんが心配ですが……」
「私のことはいいよー。通路の付け根にいるから。そこからでも、回復の魔術は普通に届くしねー」
「届くのですか? 普通は、接触距離でないと無理ですよね?」
「かまかま? かまー?」
「このワンドのおかげです! 魔道具なのです!」
そういうことにしておいた。
「それなら安心ね。じゃあ、行きましょ。あの連中が死ぬ前に」
「かまー!」
「そうですね。……実は私も、彼らを見捨てるのは忍びないと思っていました」
「かまかまー!」
マンティス先輩、鎌を持った途端、かまとしか言わなくなったけど……。
仲間と連携が取れない理由って、それじゃないんですか……。
まあ、いいけど。
「あ、そうだ。マウンテン先輩、これを使ってください」
私はマウンテン先輩に、アイテム欄から取り出した大剣を手渡した。
「こ、これはっ? 一体、どこから……?」
「魔法のバッグからです」
「そんなものがあるのですか?」
「私、お嬢様なので」
「かまー!」
「そうですね。細かいことを気にしてもしょうがありませんか。今はなんといってもハジケる時ですし。ふむ……。実にバランスの良い大剣です。ありがたく使わせてもらうとしましょう」
「かまー!」
「ええ! 行きましょうか!」
3人がスケルトンの沸いている方に走っていく。
「お先に失礼っ!」
先陣を切るのは圧倒的瞬足のネスカ先輩だ。
「がんばれー! ハジケろー! 自分を解放して、力を引き出せー!」
私は声援を送った。
その後はもう、大乱戦だった。
ネスカ先輩が、それこそ残像が見えるくらいの速さで――。
スケルトンを殴って殴って、投げ飛ばす。
私は叫んだ。
トランザム、と!
奇声を上げたマンティス先輩が、野生の本能のまま2本の鎌を振るう。
私は叫んだ。
かまかまかまかまぁ、と!
マウンテン先輩の振るった大剣が、骨をまとめて打ち砕く!
私は叫んだ。
どすこーい、と!
そう。
これだ。
これなのだ!
私が見たかった先輩たちの姿は!
本当の姿は!
もちろん乱戦で無傷とはいかなかったけど、そこは今回、私がいる。
回復魔術をバッチリ決めて、サポートを頑張った。
激戦の末――。
スケルトンのポップが止み――。
大広間は静かになった。
先輩たちは無事だ。
さすがに疲れ果てて膝をついているものの、見事に戦い抜いた。
『山嵐』の4人も、キチンと生き残った。
彼らは途中で体力が尽きて――。
あとは、先輩たちの戦いを見るばかりになっていたけど――。
それでも、けっこうな数の敵を倒した。
良い経験にはなったはずだ。
さて。
でも。
のんびりと休んでいる暇はない。
次なる戦いは迫っていた。
私は大きめの敵反応を大広間の中央に感知していた。
どうやらネームドが現れるようだ。




