737 先輩たちの真骨頂!
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、帝都近郊のFランクダンジョン『マーレ古墳』に来ています。
今日はパーティープレイ。
メンバーは、巨漢のマウンテン先輩、銀髪日焼け肌のネスカ先輩、長身痩躯のマンティス先輩。
武闘会では異色のバトルを見せてくれた3人ですが、今日は実に、基本に忠実に危なげなく戦っております。
すでに魔石は6個ゲット。
怪我もなく、多くの冒険者が集まる大広間に出てきました。
同じ場所には、時を同じくしてダンジョンに入った若手冒険者パーティー『山嵐』の4人がいます。
「で、おまえらはどうなんだよ? ぜんぜん怪我もしてねーし、戦わずに逃げてここまで来たのか?」
私に魔石を見せて、大いに自慢した後――。
リーダーの青年が私に聞いてきた。
「ちゃんとスケルトンを倒してきたよー。魔石も6個取ったし」
「はぁ!? 俺らと同じってか? 嘘だろ!? 怪我もしてねーのに」
「ちゃんと戦えば怪我なんてしないよ」
「ちゃんとってなんだよ?」
「戦術と役割を決めるってこと」
私は簡単に、低レベルパーティーの基本的な動きを教えてあげた。
敵を一匹だけ釣って、盾役が注意を引き付け、攻撃役が倒す。
ダンジョンにいる低レベルの魔物は集団性を持っていないことが大半で、動きの原理も単調だ。
なので、この戦術は実に有効なのだ。
「くっだらねー。なんだそりゃ。みんなで一気に殴りかかればいいだろ。その方がみんな平等だし。だいたいおまえの言った戦い方だと、敵の注意を引き付けるヤツだけ完全に損じゃねーか。大怪我したって治す金もねーのに、そんな不公平なことができるかよ」
「んー。そっかー。それは、まあ、そうかぁ」
確かに、私たちは怪我をしてもポーションや魔術で治す前提だ。
彼らにそれは出来ない。
何故なら、お金がなければ、水魔術師もいない。
「これだからボンボン――お嬢様はよ」
おい、行こうぜ。
と、青年たちは行ってしまった。
親切にしたつもりだったけど、逆に嫌われたようだ。
その時だった。
「うしろ!」
私は叫んだ。
青年たちの背後に、突然、4体のスケルトンがポップしたのだ。
低級の魔物の動きは単調だ。
近くに敵を見つければ、攻撃を始める。
この場合、スケルトンが見つけるのは、うしろにいる私たちではなく、目の前にいる4人の青年だ。
青年たちは、私の声に反応してくれた。
振り向いて、驚く。
よかった。
反応してくれたのなら、対処はできるだろう――。
と思ったら。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
リーダーの青年が、驚いて尻餅をついたぁぁぁぁぁ!
なにやってんの、未来の英雄ぅぅぅぅぅぅ!
そのことに動転したのか――。
他の3人も戸惑ってしまった。
4人は、そのままスケルトンから棍棒で打ち据えられてしまう。
悲鳴が響いた。
ただ幸いにも、頭を打たれた子はいない。
「先輩!」
私はマウンテン先輩たちに呼びかけた。
先輩たちは――。
すでに動いていた。
「かまかまぁ!」
奇声と共にマンティス先輩が2本を鎌を放った!
鎌は回転しながら一直線に飛んで、それぞれ別のスケルトンに命中!
スケルトンはバランスを崩した!
ネスカ先輩は早かった!
剣と盾を捨てて、一気に加速する!
まるで、残像が見えるようだ!
まさに、ネスカ・F・エクセラ!
蓄積されていた高濃度圧縮パワーが、今、全面解放された!
スケルトンに急接近――。
流れるような体術で2体のスケルトンを転倒させた。
そこに遅れて、重戦車が突っ込んでいく!
ネスカ先輩はさっと横に飛び退いた!
「どすこぉぉぉぉぉい!」
マウンテン先輩のぶちかまし!
スケルトンくんたち、ふっとんだぁぁぁぁ!
そして――。
まだ微妙に動いていたけど――。
「かまぁぁぁぁぁぁ!」
鎌を髑髏に突き刺して、マンティス先輩が2体にとどめを刺した。
あとの2体は――。
跳躍したネスカ先輩が着地と同時に踵で髑髏を砕いた。
「わー」
私はそれをうしろから拍手で称えた。
私のまわりに沸いた6体のスケルトンは、何事もなかったこととして、即座に無言で消し去った。
しかし、やっぱ、アレだね。
3人の持ち味は素敵だ。
浪漫だ。
普通に剣と盾で、普通に教本通りに戦っている時より――。
ずっと生き生きとしているし、純粋に輝いている。
おっといかん。
のんびりしている場合ではなかった。
私はみんなのところに駆け寄った。
先輩たちの近くでは、棍棒で殴られた『山嵐』のメンバーが呻いている。
「放置もできませんね。マイヤ君、お願いできますか?」
「はい。お任せを」
私はすぐに水の回復魔術をかけてあげた。
「――現われよ。清めよ。ピュリフィケーション」
青い水の魔力が優しく4人を包んだ。
4人の傷は、あっという間に癒えた。
回復した4人が、呆然とした様子で身を起こす。
「平気?」
私が声をかけると――。
「なあ、これ……。まさか……魔術か……?」
「うん、そだよー」
「わりぃ。助かった……。銀貨1枚だっけか。金、今は持ってねえからよ、支払いは悪いけど帰ってからでいいか……?」
あーそっかー。
一般的には、回復の魔術は1回で銀貨1枚が相場だった。
「今回はいいよ」
「え。なんでだよ……?」
「だって私、お金持ちのお嬢様だし。銀貨1枚なんてはした金、もらったって邪魔なだけだし。運が良かったね」
さすがのリーダーくんも意気が切れたようだ。
反論してくることなく――。
「わりぃ。助かった」
と、もう一度、素直に頭を下げてきた。
うむ。
素直でよろしい!
大広間では、他でも突発的な戦いが起こっていた。
怒号や剣撃が聞こえる。
ただ、やがて、騒動は収まった。
なにしろ相手は、ただのスケルトンだ。
万年Dランクな人たちと言えども、不覚を取った人はいないようだ。
と――。
みんなが手荷物をまとめて、足早にこちらの方に来た。
「どうしたんですか?」
私はたずねた。
「大広間のオーバーポップが始まったからな。残念だが、しばらく外で休憩だ。君らも早く退散した方がいいぞ」
ふむ。
なんだろか。
「オーバーポップとは、普通なら秩序的に現れる魔物が、無秩序に大量に現れるようになる現象のことですね。2時間もすれば収まるかと」
マウンテン先輩が教えてくれた。
「どうする? 私たちも帰る?」
ネスカ先輩が言う。
「オーバーポップの敵を倒せば、稀にネームドモンスターが出現して、一攫千金を狙えると言いますが――」
マウンテン先輩は迷う様子を見せた。




