734 先輩たちと馬車の旅!
午前6時の少し前。
今日も天気は晴れ。
朝日の広がる帝都中央学院の正門前に立って、私は先輩たちを待っていた。
今日は即席のパーティーだ。
帝都から2時間離れた山間のダンジョン『マーレ古墳』で狩りをする。
マーレ古墳は、難易度で言えば最低。
もっとも簡単なFランクに指定されている。
凶悪な罠はないし、構造はシンプル。
とはいえ、地下に降りれば、中堅冒険者パーティーでも苦戦するネームドモンスターがポップする。
油断をすれば大変なことになる。
適当になりすぎないように、今日は注意して楽しもう。
ちなみに今日の私は防具を身に着けた。
先輩たちと普通にパーティーするのに、さすがに精霊の服では見た目的にやる気がなさすぎる。
長袖シャツとズボンの上に、革鎧、革の帽子、革の手袋。
靴もブーツにした。
さらに、バックパックを背負った。
アイテム欄から好きにモノを取り出すのは、さすがは普通ではない。
必要になりそうなものはバックパックに詰めてきた。
なにかいいものが手に入るかも知れないので、収納用の大袋もバックパックにくくりつけておいた。
腰にはワンドと鉄の小剣。
いざという時には、小剣でモンスターは処分する予定だ。
今日の私は、普通に冒険者。
考えてみると、見た目だけとは言えこんなにも冒険者なのは、こっちの世界に来て初めてな気がする。
それだけで、なんだかワクワクするというものだ。
しばらく待っていると一台の馬車が来た。
御者台にいるのはマウンテン先輩。
お相撲さんのような巨体で、手綱を操っている。
なんか、うん。
馬、がんばれ。
と、応援したくなるね……。
屋根のないオープンな荷台には、ネスカ先輩とマンティス先輩がいた。
「おはようございまーす!」
私は手を振って出迎えた。
「およはう、マイヤ君。今日はよろしくお願いします」
「はいっ! こちらこそー」
マウンテン先輩は今日も紳士だ。
「おはよー、クウちゃん」
「今日は頼む」
ネスカ先輩は、荷台の上でリラックスしてだらけていた。
マンティス先輩は座禅して瞑想していた。
私も荷台に乗せてもらう。
しゅっぱーつ!
馬車は動き始めた。
帝都の大門は空いていた。
ほとんど順番待ちなしで、スムーズに外に出ることが出来た。
がたがた。
ごとごと。
馬車は街道を進み、田園を抜けていく。
ちなみに3人の装備は、こんな感じだ。
ネスカ先輩とマンティス先輩は、まずは一般的な冒険者のように普通に戦うつもりなのだろう。
鉄の剣と鉄の盾を持っていた。
ただ、ネスカ先輩の手には、あまり他では見ない、鋲のついたハーフグローブが嵌められていた。
着ている服装は武闘家っぽい。
マンティス先輩の腰には、2本の鎌があった。
防具は、どことなくカマキリっぽい、棘の付いた革鎧。
ネスカ先輩は格闘。
マンティス先輩は蟷螂鎌首流剣技を得意とする。
その雰囲気は、キチンとあった。
私としては、そちらが楽しみだ。
かまかまぁぁぁぁぁ!
マウンテン先輩は、盾役をやるつもりなのかな。
鉄の小板を鱗のように重ねた、スケイルアーマーを身に着けていた。
大きな盾も装備するようだ。
武器は普通の剣。
「マウンテン先輩は、今日は武闘会の時の大剣は使わないんですか?」
私は聞いてみた。
「ええ。私は騎士希望なので、今日は前面に立ち、魔物の攻撃をしっかりと受け止めたいと思います」
魔物退治の時、騎士の役割は盾役だ。
最前面に立って攻撃を受け止め、その間に兵士たちが攻撃を加える。
それが定番のようだ。
「サポートは任せておいてください」
「頼りにしていますよ、マイヤ君」
「はいっ!」
元気にうなずいて、次はマンティス先輩に声をかけてみた。
「マンティス先輩は、鎌メインじゃないんですね」
「ふ。今日はそうだな」
「武闘会の時には確か、普段は、かまかまかまかまぁ、の方がメインだって言っていましたよね?」
「……冒険者として生きていくのであれば、我が流派の技だけでは難しいことをボンバーズの先輩方と訓練する中で痛感してな。我が流派の独特の動きは、時に効果的に敵を倒すが、時に仲間との連携が難しい」
「……なるほどぉ」
それはそうかも知れないねえ。
蟷螂鎌首流は、とにかく動きがトリッキーで、1対1あるいは1対多の戦いを想定した剣術に見えた。
実際、マンティス先輩が言うには、戦火の中で生き延びるために発達した農民の武術なのだそうだ。
鎌がメインウェポンなのも、それ故らしい。
「先輩方は特技を伸ばせばいいと言ってくれているが――。俺としては、時と場合に応じて普通の剣も振れるようになるべきだと考えている。今日はまず、その訓練をするつもりさ」
「私とカマとヤマちゃんは、ホント、それぞれ得意分野はあるんだけど、微妙に魔物退治とは噛み合っていないのよね」
ネスカ先輩が言った。
「ネスカ先輩は格闘ですもんね」
「私は道場を継ぐ予定だから無理に魔物と戦う必要はないんだけど、出来ませんでは済まない場合だってあるし、慣れておこうと思ってね。でないと、武闘会の時みたいに首を刈られるだろうし」
「なるほどー」
それはいいことですね。
続けて、マウンテン先輩が言う。
「……私は体の大きさが自慢なのですが、やはりどうしても体力不足を懸念されることが多いのです。武闘会での敗北も、あれは私の油断でしたが――。体力切れで負けたと言われてしまっています。今日は油断することなく、体力を切らすこともなく前衛を維持してみせますよ」
「あのお、マウンテン先輩……」
「どうしましたか、マイヤ君」
「……あのお、私もヤマちゃんって、呼んでもいいですか?」
私がおそるおそるたずねると――。
マウンテン先輩は、笑顔で、いいですよ、と言ってくれた。
ありがとうこざいます!
これで私は心置きなく言うことができる!
「なれますよ! ヤマちゃん先輩なら必ず、世界のヤマちゃんに!」
際立つコショウ!
適度な辛さ!
まさに、手羽先のように!
「ふふ。世界のヤマちゃんですか。それは良いですね」
「はいっ! 私、応援しますっ!」




