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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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728/1359

728 8月上旬のこと





【1.メイドはやっぱり見ていた】



「よろしくするのだ!

 まだよろしく出来ていないのか!

 とにかく!

 我が国の総力を以て!

 早く!

 早く、よろしくするのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ああ……。

 今日もラムス王の絶叫が、王城に響き渡ります。


 私はトリスティン王国の王城に務めるメイド。

 最近では光栄にも――。

 いえ、本当は、他に人材もいないので――。

 王太子たるリバース殿下の側仕えをさせていただいています。

 なのでこうした場面は、よく目にします。


 また、聖国のソード様が王城に誰かを置いて行ったのです。

 手紙には、よろしくしてくれたら助ける、というようなことが、どうやら書かれていたようです。


「どうしたらいいものかな、ラズイア」


 リバース殿下が、腹心のラズイア様に相談します。


「すべては殿下のご意思次第かと」

「……あの連中から、新しい供述は得られたのか?」


 最初、リバース殿下は聖女様との面会を求めましたが――。

 それは叶いませんでした。

 聖女様は今、聖都におらず――。

 国中を巡って、人々に救いを与えているそうです。


「暗殺者たちもボスという男も、トリスティン王国との関わりはないと主張を続けております。地方より取り寄せた呪具がいくらかありますので、許可をいただければ使用しますが」

「何かを隠している様子は?」

「特にボスという男にはなさそうです。完全に意気消沈して、素直に取り調べに応じております。暗殺者達も質問には答えており、魔術判定でも嘘をついている様子はありません。暗殺者達は東海岸を根城にする傭兵団の一員で、金で雇われた以上の関係はないようです」

「今しばらくは、通常の尋問を続けろ。呪具を使うのは最後の手段だ」

「わかりました」

「それにしても本当に……。何をどう、よろしく、なのか」

「そうですな……。よろしく……とは……」


 よろしくの意味かぁ……。


 私も考えてみます。


 必ず答えは、あるはずなのです。


 実は、ソード様は、なにも考えていなかった――。

 なんてことは、あるはずもありません。

 なんの意味もなく、ただ悪人を置いて行った、なんて馬鹿な話が、あるはずもないのと同じです。

 それは私みたいな、ただのメイドにもわかります。







【2.アンジェリカは夢の中で】



 夏休みで城郭都市アーレに帰郷していた私、アンジェリカは――。

 今日、メイヴィス様に誘われて、黒騎士隊の訓練を見学しようとローゼント公爵家の野外訓練場を訪れた。

 アーレの黒騎士隊は、今、ゼノさんが鍛えている。

 ゼノさんは闇の大精霊。

 光の大精霊のリトさんに煽られて、黒騎士隊を鍛えることになった。


 メイヴィス様と並んで、訓練を見る。


 訓練場には、たくさんの激しい剣撃の中で――。

 ゼノさんの明るい声が響いていた。


「ほら、斬って、斬って、斬る。

 気合はいらないよ。

 声もいらない。

 キミたちはただの人形。

 斬るための人形なんだからね。

 人形は人形らしく、ただ斬ればいいの、死ぬまでね」


 …………。

 ……。


 正直、絶句した。


 だって……。


 明るい夏の太陽の下で……。


 城郭都市アーレが誇る最強の黒騎士隊のみなさんが、今……。


 鎧も身に着けず、武器だけを持って……。


 全員で殺し合いをしている……。


 あ……。


 1人、首をはねとばされた……。


 あ……。


 1人、お腹がすごいことに……。


 どんどん死んでいく。


「アンジェリカには刺激が強すぎたかしら」


 メイヴィス様が言う。


「普通なら卒倒していると思います」


 私は自分で、そんなことを言った。


「ちなみにこれはただの幻覚らしいわよ。すべては夢。私達も、夢の中に混じらせてもらっているのね」

「そうなんですか」

「ええ。だから、これだけ死んでいても、誰も死んでいない。訓練がおわれば全員元通り。その証拠に、私達の心は穏やかなまま」

「自分でも不思議ですが、確かに意外と冷静ですね」


 最初に一瞬、驚いただけだ。


「まあ、ここには闇の力を働かせているからねー。希望も絶望も、ここには存在していないのさー」


 話していると、近くにゼノさんが来た。


「こんにちは、ゼノさん」

「やっほー。どう、アンジェリカ、ボクの特訓は?」

「はい。すごいと思います」

「もしも覚えているのが怖いと思うのなら、消してあげるから言ってね」

「そうですね。冷静に考えて、消してもらえるとありがたいです」

「リョーカイ」


「あら、残念。アンジェリカには、こうした光景には慣れてもらって、立派な魔術師を目指してほしいのだけど」

「兵士としての、ですか?」


 私は冷静にメイヴィス様にたずねた。


「プロとしての、ですね。魔術師団に入るにせよ、冒険者になるにせよ。必ず人を殺す場面には出くわします」

「そうなんですか?」

「だって、どちらになっても、悪党退治くらいはするわよね。魔術師団であれば戦争や内乱鎮圧も将来的にはあるかも知れませんし」

「それはそうですね」


 言われてみれば、そうか。

 今まで、まったく意識してこなかったけど、そもそも魔術師団とは騎士団と共に戦うための組織だ。

 冒険者であれば、護衛任務の途中で山賊に襲われることもある。


「ただ、覚悟を決めるのは、まだアンジェリカには早いかしら」

「そうですね。私には、まだ早いかも知れません」


「まあ、消したとしても、少しくらいの慣れにはつながるから。見ておくのは無駄ではないと思うよー」


 ゼノさんが気楽に笑った。


 私は夢の中――。


 明るい夏の空の下――。


 無言で淡々と殺し合う黒騎士のみなさんを見つめた。







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リトもゼノもムゴイことするぜ。
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