724 ふわふわー
なんだか最近、たまにぞわっとする。
セラがまた、クウちゃんだけにくうでもしているのだろうか。
まあ、いいけど。
こんにちは、クウちゃんさまです。
私はまたも空の上にいます。
青空の中です。
ふわふわです。
精霊はふわふわするのが仕事です。
なので、ふわふわしています。
これは仕事なのです。
ふわふわー。
ああ、夏休み。
最高だ。
やっぱ、アレだね。
自由は、不自由な時間があるからこそ輝く。
私は今、輝いているのだ。
さあ、輝く私は、今日、何をしよう。
可能性は無限大だ。
遠い世界のどこかに、レアな素材を探しに出かけてもいい。
ゴーレム軍団を作ってみてもいい。
だけど、うん。
せっかくの夏休みなんだし、そんなに頑張らなくてもいい。
慌てなくてもいい。
もう少し、のんびりふわふわしてもいい。
私はアイテム欄を確かめる。
アイテム欄は、すでに、たくさんの料理で一杯だ。
ウェルダンが早速、中央広場の屋台を借り切って、作れるだけ作って持ってきてくれたのだ。
これだけあれば――。
うん。
またどこかで大宴会を開くことができる。
宴会は良いものだ。
島での宴会は楽しかった。
「あ、そうだ」
宴会とは関係ないけど、ふと思い出した。
「ゴーレムくんの様子を見に行こう」
そうだった。
以前、ナオが身を寄せていた大陸東海岸の小さな入江の村。
そこに私はアイアンゴーレムを配置した。
それは、ナオがお世話になった人たちが新天地を見つけるまでの一時的な守護兵のつもりだったのだけど……。
村人たちは、ゴーレムの保護下で生きることを選んで……。
ナオが言うには、今ではなんと、海洋都市と獣人軍をつなぐ中継港として立派に発展しているそうだ。
どんなことになっているのか、一度、見に行こうと思っていたのだ。
というわけで、行ってみた。
私の場合、場所さえわかっていれば、精霊界を経由して、さくっと現地に行くことができる。
私の記憶が確かならば、ナオが身を寄せていたのは寂れた村だった。
山と海に囲まれて、人里から離れた――。
いくらかの小舟と。
掘っ立て小屋みたいな家が点在するだけの場所だった。
「なんと……」
私は、空から見て驚いた。
山の麓が切り開かれて、小さな町になっていた。
砂浜の左右の岩場が、それぞれに整地されて港になっている。
普通に船が停泊していた。
砂浜は、綺麗なままだ。
子供たちが波打ち際で遊んでいた。
砂浜の奥には、私のアイアンゴーレムが立っていた。
石畳の広場になっていた。
左右の港と山の麓の町をつなぐ、町の中心だ。
アイアンゴーレムの周囲は立入禁止のようで、木で組んだ柵がぐるりとまわりを囲んでいた。
広場には通行人が行き交い、お店も出ていた。
それなりに賑わっている。
アイアンゴーレムのとなりには、誰かの彫像もあった。
アシス様かな?
それとも、光の大精霊だろうか。
私は地面に降りて、まずは彫像を見てみた。
…………。
……。
気のせいか、なんとなく私だった。
髪型とか服装とか。
気のせいか、なんとなく似ている。
まあ、気のせいか。
私は気にしないことにした。
立て看板があったので読んでみた。
そこには、『青い髪の精霊様と鉄の守護神様』というタイトルで、この港町の由来が書かれていた。
だいたいこんな内容だった。
ここは、もともとクナ姫が隠れ住んでいた場所だったんだけど、ある夜、ついに悪魔に見つかってしまった。
悪魔は村人を殺し、クナ姫を邪悪な儀式の生贄にしようとした。
絶体絶命のその時。
クナ姫の祈りが天に届いた。
精霊様が現れ、悪魔を討滅してくれた。
精霊様は、殺された村人を蘇らせ、祈りの届いたこの聖なる土地を、大いに繁栄させよと命令した。
その守りとして、鉄の守護神様を残していった。
我ら『蘇りの民』は――。
子々孫々、永劫に渡って、精霊様と共に在るのである。
ふむ。
なるほど。
わかると言えば、わかる。
何故ならば、私も当事者の1人だからだ。
看板には町の名前も書かれていた。
ルドニナ。
ルドとは、すべてを捨ててニナさんを救って、この場所に集落を築いて、静かに暮らしつつも――。
悪魔に殺されて死んだ――。
先代の長の名前だ。
ニナとは、クナのお母さんの名前。
ナオにとっては、本当の姉のような存在。
蹂躙された獣王国の姫。
苦難の人生を歩んで、最後はこの地で静かに眠った。
この町の名前には、たくさんの想いが詰まっている。
私は胸が熱くなるのを感じた。
私が感傷に浸っていると――。
まわりからひそひそ声が聞こえた。
……なあ、あの娘。
……青色の髪、だよな……。
……ああ、服も。
……まさか、精霊様が現れたのか……。
……おい、だれか、蘇りの民に知らせてきた方が。
私、そう言えば、普通に姿を見せたままだったね。
ふむ。
消えるか!
というわけで、今更だけど『透化』した。
「おい、消えたぞ!」
「でも、いたよな!」
「ああ、いた!」
まわりにいた人たちが騒ぎ始める。
まあ、うん。
いいや。
上手くやっているなら、それでオーケーだ。
私は町を離れた。
せっかく東海岸に来たのだ。
ついでに海洋都市にも寄ってみようかな。
東海岸の都市は、それぞれが独立した自治都市だ。
交易を中心に栄えていて、様々な人種が混じり合って、文化が交流して、本当に賑やかで楽しい。
楽しい分、治安は悪かったけど。
なんとかファミリーみたいな連中が町を仕切っていたし。
以前に行った時、私はナオの行方を探していて――。
あちこちで聞き込みをしていたから――。
それはもう絡まれまくって、ぶっ飛ばしまくった。
あまりにぶっ飛ばしまくったから、途中から恥ずかしながら、ちょっと気持ちよくなっちゃったくらいだ。
そんな海洋都市だけど、ものすごく美味しいバーガーもあるっ!
犬族の親子がやっていたレストランだった。
まだ場所は覚えている。
久しぶりに、まずは食べに行こうっ!




