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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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713/1359

713 そのバーガーの名は……。





 店先で喧嘩していた2人のドワーフ――。

 ガイアとマッシュが、今、私の作ったバーガーを口に入れた。


 ぱくり。


 もぐもぐ。


 そして、いくらかのミートソートをこぼしながらも――。

 あっという間に食べおえた。


「どう?」


 私は笑顔でたずねた。


「てめぇ……。いや、貴女はいったい、何者なのだ」


 マッシュが震えた声でそう言う。


「ん? なんで?」

「俺は長いことこの店をやっているし、他の店のバーガーも食ってきたが……。バーガーというのは、パティ・トマト・レタス・チーズ……。ガイアが言う通り、その調和があってこそのもの……。その常識だけは、どこも同じだった……。だが……。なんだこれは……。どうしてスパゲティのソースが、こんなにもバーガーに合う!? 俺が作ったミートソースだよなこれは間違いなく!?」

「うん。そだよー」

「バカな……。そんなバカな……。このバーガーには、レタスもチーズも入っていないというのに……」


 よほどの衝撃を受けたのか、マッシュは言葉を失くした。

 ガイアが静かに微笑む。


「ふ。完敗だぜ。見事なバーガーだった」

「あははー。でしょー」


 さすがは前世でも大人気!

 伊達ではないね!


「……しかし、マッシュも言っていたが、てめぇ、本当に何者だ?」


 そこに外から別のドワーフがやってくる。


「よう! マッシュ! ガイア! 今日も食ってるな!」


 むう。


 まさかオから始まる人か!

 三連星的に!


 と思ったけど、ちがった。


「よう、セルテガ。てめぇ、帝都の仕事から戻ってたのか」


 ガイアが言う。


 惜しい……!


「おうよ。無事に戻って来たぜ。と――。エルフの客か、珍しいな」


 セルテガが私に目を向けた。

 次の瞬間、やたらオーバーに驚いた。


「な、なななな!」

「おい、どうした、セルテガ」

「頭でも打ったか?」

「おまえら、このお方と知り合いなのか!?」

「どういう意味だ?」

「おまえら――。このお方は、このお方こそは――! 美食ソサエティの主宰にして伝説の美食家! ク・ウチャン様だぞ!」


 セルテガが私を指さして叫んだ。


 はて。


 なんのことだろか。


「美食ソサエティ? なんだそりゃ?」


 ガイアが首を傾げる。


「バカ野郎! 美食ソサエティってのはな! この帝国、いや、この大陸における食の最高権威! 主宰たるク・ウチャン様は、そこのトップだ! かの高名な食の求道者タベルーノ・フォン・ハラデル男爵ですら、主宰の前では小物! 帝都では主宰から褒められて泣いて喜んでいたくらいだぞ!」

「なにぃ!? あの高名なハラデル男爵がか!? 冗談だろ!」

「冗談なものか。なあ?」


 遅れてやってきた仲間たちにセルテガが同意を求める。

 仲間たちは、みんながうなずいた。


 私は思い出した。


 美食ソサエティって、アレだ。


 ハラデル氏を表彰する時に、適当に作った架空の組織だ。

 ク・ウチャンは、うん。

 クウちゃんだけに、ク・ウチャン。

 そんな感じで適当に考えた、美食ソサエティの主催者の名前だ。

 なんか、ものすごく誇張されて、広まっている様子だね。


「こほん。確かにその通りだけど。今はお忍びです」


 私は言った。


 テーブルに置かれた残りの2つのバーガーの内のひとつを手に取って、料理人のマッシュがしみじみとつぶやく。


「そうか……。なるほどな……。そんな人だったからこそ、こんなすげぇバーガーが作れたのか……。なあ、主宰……。主宰様よ」

「クウでいいよ。クウちゃんね」

「ク・ウチャンさまよ」

「クウちゃん」

「……クウ・チャンさまよ。このバーガーは、今、考えたのか?」

「今考えたわけではないよー。作るのは初めてだったけど」

「そうなのか……。すごいものだな……。このミートソースのバーガーは、なんと呼べばいいんだ?」


 モスバーガーだよ。


 普通に答えかけて、私のその声は喉で止まった。


 …………。

 ……。


 なぜか不思議なことに、ぐるぐると、ひとつの言葉が頭の中に浮かぶ。

 エリカリータ。

 それは、今まで散々バカにしてきた――。

 異世界転生した薔薇姫エリカが、前世のマルゲリータピザを丸パクリして王国に広めたピザの名前だ。


 エリカリータ。

 エリカリータ……。


 つまり……。

 すなわち……。


 私は、まるで操られるかのように、つい口にしてしまった。


「クウバーガー」


 と……。


「クウバーガー! クウバーガーというのか! なあ、テーブルに置かれた最後のひとつだが俺が食っちまってもいいか!」


 ガイアが叫んだ。


「クウバーガー! 俺も、いいか!? この手にあるひとつを!」


 マッシュがそれに続いた。


「うん。いいよー」


 私は笑顔でうなずいた。


 ものすごい勢いで貪りつく2人を見て、セルテガたちも欲しがる。

 優しい私は追加で作ってあげた。

 ついでにマッシュに作り方を教えてあげた。


 いつしか店内には――。


 クウバーガー!

 クウバーガー!


 と、歓喜の声が響き渡っていた。

 私はそれを笑顔で見守った。


「なあ、このクウバーガー! 作り方を教えてくれたってことは、うちの店で出してもいいのか!?」

「うん。いいよー。ただし、専売ではないからね? クウバーガーは自由なバーガーなので作りたい人みんなのものです」

「わかった! それで十分だ! 俺は、ミートソースには自信がある! 他のヤツになんて負けねぇ! おお! これは新名物になるぞぉぉ! クウバーガー! クウバーガー!」


 本当に、ごめんなさい……。

 私、異世界でパクってしまいました……。

 でも、なんだかね。

 付けてみたくなっちゃったの……。

 自分の名前を……。


「なあ、主宰様でいいんじゃねーか!?」

「ああ、そうだな! これだけのバーガーを作れるお方にして伝説の美食家! 文句を言うやつなんざいねーさ!」

「主宰様、ク・ウチャンさま、あ、いえ、クウ・チャンさま。実はご相談があるのですが……」


 客の1人がおそるおそるの様子で話しかけてきた。


「うん。なーに?」


 私はもう、ずっと笑顔だ。

 うん。

 だって、他にどんな顔をしたらいいのかわからないの。


 でもね、うん……。


 なんか、正直、とても良いものだね。

 名前が呼ばれるのって。

 罪悪感と羞恥心の中で、私、正直、気持ちよくなってるよ……。


「実は明日、バーガーコンテストがあるんですが……。その審査委員長を誰にするかで揉めに揉めておりまして……。できれば、クウ・チャンさまにお力をお貸しいだたければと思いまして……」

「うん。いいよー」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 気づけば日は暮れて――。

 世界は、すっかり夜だった。

 だけど、外の通りは明るい。

 お店の中も明るい。

 どちらにも、魔石の光が灯っていた。

 店内では、みんなが新バーガーを注文して、マッシュが早速、自分の手で作り始めていた。

 私も、マッシュの作ったミートソースたっぷりの新バーガーを食べた。

 美味しかった。

 食べているとお祭りの実行委員会の人たちが走り込んできた。

 彼らは、私のことを訝しんだけど――。

 バーガーを食べて――。

 すべてを理解し、すべてに納得していた。


 こうして――。


 鍛冶の町アンヴィルに、新たな名物が誕生した。

 そのバーガーの名は……。




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― 新着の感想 ―
クウバーガー...クウバーカー?バーカバーカ
[気になる点] 〉クウバーガー! クウバーガー! カの濁点を外すと?( ̄ー ̄)ニヤリ
[一言] オルテガじゃないだと.....
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