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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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711 アンヴィルの町





 到着したのは午後の遅い時間だった。

 アンヴィルの町は、岩の渓谷を1時間ほど進んだ先にあった。


 山に挟まれたその町には、赤いレンガの建物が立ち並び、いくつもの煙突が煙を空へと伸ばしていた。

 特に検問もなく街道からそのまま町に入った途端、むわっとするような熱気を肌に感じた。

 建物の軒下には、これでもかと色々な金属の品物が置かれていた。

 剣に盾に鎧。

 お皿に壺に、動物の像に。

 金属用品の販売所や工房の窓口も多い。

 お祭りが近いとあって、「アンヴィル・サマー・フェスティバル!」の文字もたくさん見受けられた。

 通りには、小柄で筋肉質で長い髭の人たち――ドワーフの姿が目立つ。

 人間との比率は半々くらいだ。

 まさに、鍛冶の町。

 金属を作る空気が、山の間の町全体に満ちていた。


「ほー。すごい町だな」


 おじさんが素直な感想を漏らす。

 一緒に馬車で来た獣人で商人なおじさんとおばさんも、この町に来るのは初めてということだった。

 地図を見ながら、納品先の商業ギルドに向かう。

 到着すると、ドワーフの職員が出迎えてくれた。


「おお。来てくれたか! どうにもレタスとチーズが足りなくて困っててな、無理を行って悪かったぜ! がははははは!」


 ドワーフの職人が豪快に笑った。


「金はもらったからな。儲けさせてもらったぜ。わははははは!」


 ドワーフに負けない豪快さでおじさんも笑う。


 早速、荷物を下ろしていく。


 私は、そばにいた受付嬢の人族のお姉さんに話しかけた。


「ねえ、お姉さん。私、アンヴィルの町に来るのは初めてなんだけど、ここは金属を作る町なんだよね?」

「そうだよー。ここの地下から吹き出す熱を使って、ドワーフ特製の窯で鉄とか銅とかを取り出したり加工したりしているんだよー」

「へー。すごいねー。そんなすごい熱が出るんだ」

「ドワーフの技術で圧縮するんだよー」

「へー。すごいねー」


 そんなことが出来るんだ。


「熱を味わいたいなら、山の方に温泉があるから入ってみるといいよ」

「それって、私、溶けちゃわない……?」


 めちゃ熱そうなんだけど。


「あはは。大丈夫だよー。気持ちいいんだよー」

「そかー」


 明日にでも行ってみよう。


「ねえ、お姉さん」

「どうしたの?」

「私、ここの金属――インゴットを買いたいんだけど、どんなものがあるのか見せてもらうことは可能かな?」

「ごめんねえ。お土産は通りのお店で買おうねえ。ここは大人が商売をするためのところだから」


 子供に思われたのか、まあ、うん、普通に12歳なんだけど。

 優しく断られてしまった。

 しかし!

 私にはこれがあるっ!


 商業ギルドの正会員証!


 じゃじゃーん!


「申し訳有りませんでした。エルフの方だったのですね。しかも帝都の工房主さんとは知らず、失礼しました」


 私はエルフじゃないけど、まあ、うん、そこは気にしないことにした。


「明日はどうですか? できれば午前に」

「明日はお祭りで、施設は閉まってしまうので……」

「なら明後日でお願いします」

「そうですね……。でも……。おそらく……。いえ……」


 お姉さんの顔は浮かない。

 理由をたずねると――。

 なんと。

 帝都から大口の注文が入っていて――。

 一般客に出せるインゴットは、ほとんどないらしい。


「申し訳ございません。大商会からの発注なので、どうしても優先で……」

「あのー。それってもしかしてウェーバー商会では?」


 返事は濁されたけど、どうやらそのようだ。

 うん。

 つまりは私の発注だね!

 さすがはウェーバーさん、仕事が早い。


 ここは笑顔であきらめることにした。


 おじさんおばさんとは、ギルドを出たところでお別れする。

 1人で大丈夫かと改めて心配されたけど、平気だ。

 なにしろ、うん。

 帰りたければ、いつでも『帰還』の魔法で帝都に帰れちゃうしね、実は。


 というわけで。


 山に挟まれた夕暮れの鍛冶の町で。

 私は1人になった。


 通りを歩くのは、ドワーフと人間。

 エルフの姿は見えない。

 私はエルフじゃないけど、ちょっと目立ってしまうので、ここはローブを羽織っておくことにした。


「さーて、じゃあ。町を出て、精霊界へのゲートを探そうかなー」


 ゲートさえあれば、またすぐに来れる。

 見つけたら、今日は帰ろう。

 なにしろ工房に、オダウェル商会に発注した料理が届いているかもだし。

 ヒオリさんが保存の魔術をかけてくれることにはなっているけど、早めにアイテム欄に入れた方が確実だ。


 と、ここで私は、壁に貼ってあったポスターに目を向けた。


「ん?」


 よく見れば……。

 こんな煽り文句が書かれていた……。


 バーガーの祭典!


 と――。


 …………。

 ……。


 私は今、自分の中で、なにか歯車が噛み合ったような音を聞いた。


 バーガー。


 私はバーガーには、それなりにはうるさい女だ。

 もちろんプロではないけど、学院祭で、シャルさんのお店で、バーガーを作ってきた経験もある。


 そんなこの私を――。

 この精霊第一位、精霊姫であるこのクウちゃんさまを差し置いて――。


 勝手にバーガーの祭典を開く――。


 まあ、うん。


 第100回と書いてあるから、私がこの世界に来るよりも、それどころか私が生まれるよりも――。

 ずっと昔からやっている歴史ある祭典みたいだけど――。


 開くだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 私の怒りが理不尽ながらも頂点に達した時――。



「このバーガーは未完成だぁぁぁぁぁぁ!

 食べられるかぁぁぁぁ!」


 男の人の怒鳴り声が、曲がり角の先から響き渡ってきた。








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