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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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710/1359

710 8月になりました






 8月になった。

 気のせいか、すでに何ヶ月も夏休みが続いている感覚だけど……。

 なんと。

 まだ半分も過ぎていないのだった。

 むしろ夏としては、これからが本番とさえ言えた。


 夏休みに入ったら、まずやろうと決めていたこと。

 お兄さまたちとの訓練と友人たちとの旅は、つつがなくおわった。

 セラは、ついに聖国へと旅立った。


 私のスケジュール帳は、今、白い。


 一応、レア素材集めというやりたいことはあるけど、スケジュールとしてはなにも決めていない。

 自由なのだ。

 どこへ行き、なにをするのか。


 晴れた夏の朝。


 私は帝都の上空に浮かんで、1人、そのことを考えた。


 なんでもできるということは――。

 すなわち、なにもしなくてもいい。

 そう考えることもできる。


 私は最近、大忙しだった。


 なので今日は、まず、のんびりしよう。

 そうしよう。


「よし。寝よう」


 というわけで『浮遊』したまま寝た。


 朝から陽射しはそれなりにあるけど、なにしろ空の上なので、風がよく吹いていて暑苦しさはない。

 むしろ心地よかった。


 すやー。


 …………。

 ……。


「おーい。お嬢さーん? 生きてるかーい?」

「アンタ、物騒なことを言うもんじゃないよ。クウちゃーん、そんなところで寝ていると怪我するよー」

「むにゃ……。んん……」


 下から木の枝で突かれて、私は目を覚ました。


 見れば私は、どうやら街道沿いの樹木の枝に引っかかっているようだ。


 街道の脇に獣人のおじさんとおばさんがいて――。

 おばさんが心配そうに見上げる中――。

 おじさんが木の枝で、寝ていた私のことを下から突いていた。


 2人とも、知っている顔だ。


 私が初めて帝都から普通に大門を通って出ようとした時に、たまたま近くにいて、たまたま会話して――。

 それから、帝都にアンデッドが発生した夜に、おじさんが呪具で操られているところを助けたり。

 ちょくちょく縁のある2人だ。


「よっと」


 私は軽い身のこなしで街道の脇に降りた。


「お嬢さんは本当に、獣人も顔負けの身のこなしだな」


 おじさんが呆れた顔で言う。


「生きててよかったよ。クウちゃん、どうしてまた、こんな帝都から離れた木の上で寝ているんだい?」

「いやー。あはは。天気がよかったからかなー」


 おばさんに聞かれて、私は笑った。


「前にも寝ていたよねえ?」

「天気がいいと、つい」


 そういえば、以前にもこんなことがあったかー。

 その時は、おじさんとおばさんについて行って、マーレ古墳のダンジョン町まで一緒に行ったっけ。


 と。


 ん?


 すぐそばに幌のついた馬車が留まっている。


「ねえ、この馬車って、おじさんとおばさんの?」

「おう。そうさ。いいだろ」


 たずねると、おじさんが自慢げに言った。


「へー。すごいね。おめでとう。商売、上手くいってるんだねー」


 以前は荷物を担いで、徒歩で行商していたはずなのに。


「おうよ! この俺にも才覚はあったってことさ!」

「アンタ、調子のいいことは言わないほうがいいよ。べつにアタシらの才覚で上手くいっているわけじゃないでしょ」


 どういうことかと思ったら。

 なんと。

 おじさんとおばさんは、今、オダウェル商会と契約して、近隣の町に食材を届ける仕事をしているのだそうだ。


「ほら、だいぶ前に宴会があっただろ。今じゃSランクの英雄、あのロックとかいう若造に俺が勝った時さ」

「ウェルダンの奢りだった時だよねー。懐かしいねー」


 酒飲み勝負だったよね。

 なぜかお兄さまも来ていて、大騒ぎだった夜だ。


「その時の縁でな。仕事がもらえたんだ」

「へー。そうなんだー」


 馬車はオダウェル商会の貸出らしい。

 よく見れば、馬車にオダウェル商会のマークがついていた。


「ねえ、今日はどこに行くの?」

「今日はアンヴィルっていう山裾の町まで行くぞ。夏のお祭りがあってな、その時に使う食材と酒を届けに行くのさ」


 アンヴィルという町は、聞いたことがない町だ。

 もちろん、行ったこともない。


 幌の荷台を見せてもらうと、酒樽と一緒に、たくさんのレタスとチーズが積まれていた。


 なにを作るんだろか。

 ピンと来ないね。


「お嬢さんもまた一緒に来るかい?」

「うんっ! 行く行くっ!」


 なんにしても、お祭りというなら面白そうだ。


「ちょっとアンタ! それにクウちゃんも。アンヴィルは遠いから、向こうで一泊することになるんだよ。駄目でしょ」

「おお。そうだったな」

「おばさん、私は平気なんで気にしないでー。ここにも1人で来れてるでしょー。実は秘密の魔道具があってね」

「へえ。どんなのなんだ、そりゃ」


 おじさんが興味を持ってくる。


「それは秘密。でも、平気なのは確かだから」


 私は適当に受け流した。


「まあ、それならいいけどね……。たしかにクウちゃんは、どこにでも行けるみたいだしねえ……」

「おし! そう言うことなら、乗った乗った! 俺の運転テクニックを、お嬢さんにも見せてやるぜー」

「ちょっとアンタ。調子に乗ったら駄目だからね」

「てやんでい! 任せろってんだ!」


 おじさんとおばさんは、相変わらずのようだ。

 私は遠慮なく馬車に乗せてもらった。


 アンヴィルの町かぁ。


 果たして、どんなところだろう。




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