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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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707 お姉さまは悔しかったようです






「もう、トルイドさん、先程からずっと――。勝負に負けたというのに何を嬉しそうにしているのですか」

「いやー。あはは」

「本当に、もう。わたくしは悔しかったですわ。わたくしは、本当はトルイドさんに入れたかったのですよ」

「ありがとう。でも僕は、今、すごく満足しているよ」

「どうしてですの!」

「だってアリーシャさんが、すごく楽しそうに食べてくれたから。僕は約束を果たせたよね」

「…………っ!」


 あ。


 お姉さまの手からぽろりと、食べかけの姫様ロールが落ちてしまった。

 体重よりも大切なスイーツだというのに。


 というわけで。


 無事に勝負もおわって、その後。


 落ち着きを取り戻した中央広場の一角でテーブル席に座って、私たちは姫様ロールを食べていた。

 私は、とっくにお腹いっぱいなので紅茶を飲むだけだけど――。

 お姉さまは、まだパクパクと食べていた。

 これはアカン……。

 と私は思っていたけど、口にすることはなかった。

 私は野暮ではないのだ。

 まあ、野暮というなら、とっとと退席するべきなんだけど、それについてはタイミングがなかった。

 そもそも2人きりの空間を作っていても――。

 そばにはメイドさんがいるし、まわりには護衛の人もいる。

 お姉さまにとっては、私がいるかいないかは、たいして気になることでもない様子だった。


「もう――。本当に――」


 紅茶を口につけて、お姉さまが動揺を誤魔化そうとする。

 耳まで赤い。

 からかいたくなるけど、私は我慢した。


「あはは。でも正直、そうだね。僕はまだまだ修行が足りないと思ったよ。ハラデル氏の料理は本当に見事だった。僕のデザートまでをも完全に取り込んで自分の世界を作り上げていた」

「……それは、そうですわね。……でもわたくしは、トルイドさんのデザートが1番に美味しかったですわよ」

「ありがとう、アリーシャさん。それならやっぱり、僕は嬉しいよ」


 ふむ。


 またお姉さまがテレテレになってしまいましたな。


 私はその様子を近くで眺めていた。


 トルイドさんは……。

 ただ、素直に本音でしゃべっているだけで……。

 お姉さまを口説いているつもりなんて、ないのだろう……。

 姫様ロールを食べて、しみじみとつぶやく。


「……しかし、このクリームが木の根から出来ているなんて。

 本当に信じられないけど、本当なんだよね……。

 帰ったら研究のしがいがあるよ……。

 世界にはまだまだ、僕の――。

 いや、食の都サンネイラに伝わっていない料理が――。

 多くあるんだねえ……」


 お姉さまに追い打ちをかけることなく、姫様ロールのクリームに夢中になってしまっている。

 それでお姉さまも正気に返ったようだ。


「原料だけでよろしければ、後で入手して送りましょうか」

「いえ――。それはやめておいてください。企業秘密を皇女の力で入手するなんてお名前に傷がついてしまいますよ」

「その程度、わたくしは気にしませんが……」

「それに僕は負けたのですから、手に入れる資格はありません」


 トルイドさんが姫様ロールの店に目を向ける。

 お店では、今、ハラデル氏と店長さんがおしゃべりしていることだろう。

 勝者の権利だ。


 トコの根は、今、辛味子と共にネミエの町で大量栽培している。

 そう言えば……。

 私は今更ながらに思い出した。

 辛味子とトコの根は、市場には出さずに、姫様ドッグと姫様ロールの支店を帝国各地に作ることで独占的に消費する計画だった。

 オダウェル商会がそれを主導している。

 エミリーちゃんのお父さんであるオダンさんが人生を賭けて取り組んでいる一大プロジェクトだ。


「あのー。お願いなんですけど……。研究するのは構いませんけど、クリームが木の根から作られていることは、実は秘密だった気がするので、あまり口外しないでいただけると助かります」


 私はお願いしておいた。

 まあ、うん。

 お姉さまとかにペラペラしゃべったのは、私なんですけどね!

 企業秘密を気軽に広めてしまいましたとも!


 お姉さまとトルイドさんは了承してくれた。


 よかった。


 この後、私は一旦、席を外させてもらった。


 話していて、そういえば――。

 店長さんとハラデル氏を放置していたことに気づいたのだ。

 姫様ロールの店長さんは、今では大成功した立派な社長なのに、相変わらず貴族や権力に弱い。

 というか、良くも悪くも――。

 屋台の時から変わらない、「店長さん」のままだ。

 私がフォローしてあげないと、強引なハラデル氏に根こそぎ情報を奪われてしまいかねないのだ。

 そうなると、オダンさんに迷惑がかかる。

 阻止せねば。


 と思ったのだけど――。

 私の出番はなかった。


 何故ならば、会話の場にはウェーバーさんとウェルダンがいた。

 姫様ロールの店長さんは完全に置物。

 ハラデル氏と交渉するのは主にウェルダンで、そこに時折、ウェーバーさんが口を挟んでいた。

 食の都ハラヘールに姫様ロールと姫様ドッグの支店を出すことで、話はまとまろうとしているようだ。

 支店の許可をもらう代わりにハラデル氏には製法を伝える。

 ただし、その製法は秘伝として扱う。

 あと今日の勝負で出したメニューは料理の賢人コースとしてウェーバー商会のレストランで提供する。

 途中からトルイドさんも呼ばれて、トルイドさんのデザートもレストランで提供することになった。

 さらに食の都サンネイラにも姫様ロールと姫様ドッグの支店を出すことが、またたく間に決まった。

 ただ、トルイドさんは試合に負けたので、残念ながらクリームの製法の伝授は行われないことになったけど。

 より具体的な話や正式な契約は、後日、ウェルダンがそれぞれの都に出向いて行うことで決まった。


 私は、そんな交渉の様子を、お姉さまと2人で見ていた。

 私、思う。


 ウェルダンって、実は有能かも知れない。

 貴族を相手に臆することもなく、実にテキパキと話を進めている。

 ウェーバーさんも満足そうだ。







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