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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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706 誕生! 料理の賢人!




 ハラデル氏の派手な演出に大いに観客が沸く一方――。

 トルイドさんは地道に料理を続けていた。


 ガラスのコップに、粘り気のある透き通った赤い液体を入れていく。


 そして、そのコップに手のひらを掲げて――。

 呪文を唱えて――。

 手のひらから流れた冷気が、コップとその中身を冷却する。

 液体にはゼラチンが入っていた。

 わずかな時間で固まって、それはゼリーとなった。


 なるほど……。


 正直、勉強になった。

 水の魔術には、氷属性の派生があるんだねえ……。


 出来上がったゼリーをお皿に乗せる。

 うん。

 ぷるんぷるんだ。


 さらに、冷気の魔術でピンク色のクリームを作り上げて、ゼリーのまわりにデコレーションしていく。


 最後に緑の葉で飾り付けて、完成。


 両者の調理タイムはおわった。


「ほう。デサートか。ワシの作品の後に出せば、ちょうどコースとして完成しそうではないか」


 ハラデル氏が言う。

 私もそう思った。

 試食タイムの順番はそれでいいか確認したところ、ハラデル氏は了承した。


「僕も構いません。その方が楽しんでもらえるでしょうし」


 トルイドさんにも異存はないようだ。


 というわけで。


 ついにというか、早くも来ました。

 お食事タイムの始まりです。

 ハラデル氏のトマト料理からいただくことになった。

 もちろん私もいただく。


 マンガやアニメの展開的に言えば、先手は圧倒的に不利――。

 だいたいの場合において、先手は負ける。


 果たして――。


 この世界ではどうか――。


 先入観は捨てて、料理を食べていこう。


 最初にテーブルに置かれたのは、真紅色のスープ。

 スープ・ザ・ルビー。

 一口飲んで驚いた。

 最初、飲む前は、その深い色合いからコーンポタージュのようなこってりとした味を予想していた。

 だけど、良い意味で予想は裏切られた。


 それは、まるで――。

 そう。

 一陣の風が吹き抜けたような――。


 さっぱりとした、口の中をリフレッシュするように爽やかな風味だった。

 酸味の中に、ほのかな甘味があって――。

 それは、まさにトマトで――。

 素晴らしい調和を保っている。

 うん。

 爽やかだっ!


 次に運ばれてきた120倍パワーのピザも絶品だった。

 エリカリータ。

 名前はともかく、まず見た目が良い。

 焼く前に楽園と称した印象そのままに、赤と緑と白の大自然が、こんがりと焼けた生地の上に広がっている。

 生地は、ちゃんと端に厚みがあって、サクサク。

 中はふんわりもちもち。

 そして、前世の世界でも大人気だった、モッツァレラチーズとトマトとバジルが織り成す完璧な味のバランス!


 ああ……。


 チーズとトマトが、バジルの風味と共に私の体に溶けていく……。


 素晴らしい……。


 最高だ……。


 最後を飾るのは、皮を剥いて中をくり抜いたトマトの中に野菜を入れて、チーズを添えたサラダ。

 トマトの宝箱。

 まさに宝箱のように、どんな味がするのかドキドキワクワクする一品だ。

 器になっているトマトごとスプーンですくって食べる。


 ふわあぁぁぁぁぁ!


 これは――。


 噴射体験っ!


 ワインビネガーのドレッシングが、まるでロケットエンジンのように!

 さっぱりとした刺激となって!

 フルーティーな酸味と香りを口の中に一杯に広げて――。


 細かく刻んだ何種類もの野菜くんたちを乗せた――。

 トマトの宇宙船を発進させるぅぅぅ!


 ごぉぉぉぉぉぉ!



「ごちそうさまでした。とてもとても美味でした」


 私は食事をおえて、目を閉じ――。

 まるで瞑想するように、素直な感想を口にした。


 美味しかった。


 満足です。


 さあ、しかし、料理はまだおわりではない。


 次に出てくるのは、トルイドさんが作ったトマトのデザートだ。


 こちらも素晴らしい出来栄えだ。


 赤くて透明なぷるんぷるんのゼリー。

 そして、ピンク色のクリーム。

 添えられた緑の小さな葉が、見た目のアクセントとして効いている。


 いざ!


 ゼリーとクリームを、ひとつにまとめて食べてみた。


 ふぅぅぅぅ!


 最高だ。


 ゼリーとクリームの冷たさと甘味が、体の中に染み渡って、食事の満足度を一気に仕上げてくれる。

 下品にしてもいいなら、椅子に浅く腰掛けて仰向けになって、お腹をさすりたいような気持ちだ。


 私は感動しつつ――。


 しかし一方、冷静に考えていた。


 そう。


 このデザートの美味しさは、スープとピザとサラダの素晴らしさを補完して完成させるものだ。

 ゼリーとクリームは美味しい。

 美味しいけど、今、私が感じているこの感動は、ハラデル氏が描いた食事図の〆としての感動だ。


 単品として考えれば――。


 美味しいけど、単品としての感動は――。


 浮遊感や――。

 溶けていくような快感は――。


 ない――。



 審査となった。


 3人の審査員が出した結果は、私の感想と同じものだった。


 3人が一致で、ハラデル氏の勝利となった。


 わずか30分で3品もの料理を完璧に作った技量。

 そして、その3品が、本当に見事に調和して、ひとつの絵図を描いていた。

 完勝――。

 と言えた。


 私はハラデル氏に、料理の賢人の称号を送った。


 合わせて、ささっと生成した記念の盾を贈呈した。

 ささっとは言っても奮発してミスリルで作った。

 純度100%。

 偽造不可能な、たぶん国宝級の逸品だ。

 盾には、料理の賢人のシンボルとしてバーガーの絵を描いて――。

 その下に称号と名前を刻んだ。


 下記の者を料理の賢人として認定する。

 タベルーノ・フォン・ハラデル。

 認定者、美食ソサエティ主宰ク・ウチャン。


 我ながら、なんかそれらしい、素晴らしい出来になった。


 名前は、はい。


 クウちゃんだけに、ク・ウチャン!

 我ながら、なんか上手いこと考えた気がするっ!

 どこかに本当に居そうだ!



 盾を受け取ると、ハラデル氏は泣いて喜んだ。


「うおおおおおお! 料理生活70年! ワシの人生は、今、ここに極まったぞおおおおおお! 我が生涯にトマトの無駄なぁぁぁぁし!」


 賢人の称号……。


 適当に作って、適当に送ったけど……。


 なんか、すごい価値を見出してくれたようだ。


 みんなで拍手してハラデル氏を称える。


 お姉さまも拍手をしていたけど、ちょっと複雑そうな笑顔をしていたのはどうしようもないだろう。

 トルイドさんは、負けても気にした様子はなく、楽しそうな笑顔でハラデル氏の勝利を祝福していたけど。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 普通に強いぞ これ最初に威圧していたのに嘘みたいだな
[良い点] ハラデル氏が名前での出落ち噛ませじゃなく、自信に見合った料理を作って勝った事。 言うだけはあったんだなぁ
[気になる点] トルイドさんははじめから、しめの料理をイメージして料理してたのかな? メインでなくサポートが上手い人いるから、そのタイプなのかな? [一言] もしかして、デザートしか興味無いとか?
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