表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

700/1362

700 7月のおわりのこと





【1.皇女セラフィーヌは確信する】


 わたくしは目を閉じ、意識を研ぎ澄ませ――。

 そして、心の中で言葉を発します。


 ――クウちゃんだけに、くう。


 ――クウちゃんだけに、くう。


 クウちゃんだけに――。


 くう!!!



「……どうでしたか?」

「はい――。先程の計測より魔力値が約10%上昇しています」


 入学時、わたくし、セラフィーヌの魔力値は70でした。

 それから4ヶ月が過ぎて、今、わたくしの魔力値は74になっています。

 そして――。

 たった今、計測装置に現れた数値は、81。


「やはりですか」

「殿下、これはいったい……。どういうことで……」


 計測に協力してくれた魔術師団の方が、驚きを隠せない表情で聞いてきます。


「真言の力です」

「それは――。ハイカットやヤマスバのことでしょうか?」

「いいえ。クウちゃんだけに、くう、です」

「クウちゃんさまは、本日はお越しではありませんが……。あ、いえ、クウちゃんさまに関わるお言葉なのですね」

「クウちゃんだけに、くう、です」

「食事……でしょうか」


 深く説明するつもりはありません。

 なぜならきっと、わたくし以外に理解することは難しいでしょう。


 クウちゃんだけに、くう。


 それこそがまさに、世界の真理であると。


「もう一度、やります。計測をお願いできますか?」

「はい。どうぞ」


 わたくしは再び目を閉じて、精神を集中します。


 そして、ただ一心に祈るのです。


 クウちゃんだけに、くう。

 クウちゃんだけに、くう。


 クウちゃんだけに――。


 くう!!!!


「こ、これはっ! 魔力値85! 15%の上昇です!」

「計測、ありがとうございます」


 自分自身でも実感があります。

 やはり、クウちゃんだけにくう、には、一時的にわたくしの魔力を高める力があるようです。


 クウちゃんだけに、くう。


 その言葉を胸に抱き、わたくしは聖国に赴こうと思います。


 ただその前に、まずはパーティーですが。


 今日もこれからわたくしは、たくさんの人にあって、たくさんの挨拶をしなければいけません。

 正直、挨拶は苦手です。

 だけどわたくしは皇女。

 この公務からも、逃げるわけにはいきません。

 今日のパーティーはわたくしが主役です。

 今日は、聖都に向かうわたくしを励ますために、主に地方から多くの貴族の方が集まってくれました。

 キチンと挨拶して、キチンと感謝しなくてはなりません。


 クウちゃんだけに、くう。


 その言葉を胸に抱き、わたくしは挨拶も頑張る所存です。






【2.皇女アリーシャは姫様ロールを頬張る】



「アリーシャ、貴女……。また太りましたね?」

「そ、そんなことはありませんわ、お母様! ほらこの通り、ちゃんと普通に着れていますでしょうっ!?」

「それならいいのですが。同じ失敗を繰り返すようであれば――」

「わたくし、散歩をしてまいりますっ!」


 危ないところでした。

 実はお腹を精一杯に引っ込めていることなど――。

 バレるわけにはいきません。

 わたくし、アリーシャは、以前にもスイーツの食べ過ぎでドレスが入らなくなる失態を犯しているのです。

 帝国の第一皇女として、2度目は許されません。


 奥庭園に出ると――。

 今日は、人が多くいました。


 そういえば今日のパーティーは地方から多くの方が来ていて、もてなしとして奥庭園が解放されているのでした。

 皆、パーティーが始まるまでの時間を楽しんでいるようです。


「はぁ……。甘いものが……。姫様ロールが恋しいですわ……」


 我慢しながら1人で歩いていると――。

 ふと気になる男性を見つけました。

 今ではすっかりセラフィーヌの定番の居場所となっている、願いの泉のほとりのベンチです。

 脇に置いた紙袋は――。

 ええ。

 姫様ロールのお店のものですね。

 わかります。

 そして、その男性が、一口ずつ確かめるように食べているのは――。

 間違いありません。

 姫様ロールです。

 わたくしも学院帰りに散歩できる時には必ず食べるので――。

 ふんわりとした生地の味わい――。

 とろけるクリームの広がり方――。

 すべて、よく知っています。

 ええ。

 姫様ロールは、とても良いものです。

 ゆっくり味わいたくなるのも、よくわかるというものです。


 あ。


 いけません。


 あまりに見ていたものだから、気づかれてしまいました。


 目線が重なってしまいました。


 わたくしは内心では大いに慌てましたが、見た目的には落ち着いて、レディとして優雅に一礼しました。


「あ、すいませんっ! こんなところでっ! ここって、ものを食べてはいけない場所でしたかっ!?」


 男性が、全身であわあわとします。

 よく見れば10代後半の方ですね。

 落ち着いた物腰に見えたので大人かと思いましたが、正面から顔を合わせればそうでもないようです。


「いいえ。そのようなことはありませんわよ」

「そうですか……。よかったです。あ、おひとついかがですか? これはびっくりするほど美味しいですよ」


 彼は間違いなく、地方から来たのですね。

 わたくしの顔を知らないとは。

 わたくしも彼には見覚えがないので、中央貴族や学院生ではなさそうです。


 そして、マナーにも疎いようです。


 初対面の女性に、いきなり食べ物を薦めるなんて。


「そうですね。せっかくだし、いただこうかしら」


 でもわたくしはベンチに腰掛けてしまいました。

 なぜなら――。

 姫様ロールが美味しそうだったからです。

 ええ。

 年齢の近い男性と並んでものを食べるなど、人に見られれば誤解しか生むことのない愚行ですけれど――。

 甘味の誘惑には勝てるわけもありません。

 わたくしは丁度、死ぬほどこれが食べたかったのです。

 あと、彼の態度が新鮮で面白かったのもあります。


 ぱく。


 ぱくぱく。


 ああ……。


 姫様ロールが染み渡ります……。


 至福ですわ……。



「僕は地方から来たんですけど、いやー、帝都はすごいですね。この甘味、庶民が気軽に買える値段で売られていたんですよ。僕の地元なら、間違いなく3倍はすると思います」


 一般的に、ケーキを始めとしたスイーツは高級品です。

 庶民にとって、気軽に食べられるものではありません。


「値段の秘訣は、この独特なクリームだと思うんですけど……。このクリームは何で作られているんでしょうね……」

「ああ、それは木の根から作られているんですのよ」

「木の根ですか!?」

「ええ」


 以前にクウちゃんがそう言っていたので、間違いはありません。


「……それは、すごいですね。牛乳や卵と比べれば、それなら遥かに安価に製造できそうです」

「そういえば自己紹介がまだでしたわね。わたくしはアリーシャ。この帝都に住んでおりますの」

「これは失礼しました。僕は西の都市サンネイラから来ました。そこの領主の息子でトルイドと申します」


 名乗っても、特に反応されませんでした。

 これは新鮮です。

 わたくしはそのまま会話を楽しむことにしました。


「サンネイラというと、食の都でしたわよね」

「その通りです。我がサンネイラは食の都。この帝国にある、多くの食文化の源流となっているのが自慢の都市です。この大宮殿の歴代の料理長も、なんと半数以上がサンネイラの出身なんですよ」

「ええ。よく存じておりますわ」


 現在の料理長もサンネイラの出身です。

 毎日、美味しく食べさせてもらっています。


「しかし、スイーツについては――。どうやら帝都に遅れを取っているようですね……。これは一大事です」

「トルイドさんも料理を?」

「ええ。僕もいろいろな料理を作っています。とはいえ、まだ料理学校の学生で一人前ではありませんが」

「ご領主の息子さんなのですよね? 帝都中央学院に来て、将来の領主としての勉強はしませんの?」


 今日のパーティーに来ているということは――。 

 おそらく、跡取りのはずです。


「そちらの勉強は、主に家庭教師ですね」

「反対されませんでしたの?」

「うちは父も祖父もそうだったので。代々料理好きで、むしろ料理が出来てこその領主なんて話もあります」

「……そんな貴族家もありますのね」

「我ながら変わっていると思いますよ。自覚があるので、大宮殿のパーティーにもいつもは来ていなくて。今回は、あのセラフィーヌ殿下が聖女ユイリア様のお弟子となる後援のパーティーということで、これは参加しなくてはと思い、怯えながらも出てきた次第なんです」

「その割には、リラックスしていらっしゃいますのね」


 思わずわたくしは笑ってしまいました。


「いやー。そうですね。姫様ロールに感動してしまいまして。

 ……ところでアリーシャさん」


 急に真顔になられて、わたくしは少しドキンとしてしまいました。


「は、はい。なんでしょうか」

「あの、アリーシャさんはもしや、この姫様ロールのお店の方と、それなりに親しい関係なのでしょうか」

「ええ……。多少は、ですけれど……」


 常連ですし、クウちゃんの紹介もありましたし。

 店長とは普通に会話できる仲です。


「も、もしよろしければ――。紹介だけでもお願いできないでしょうか! できればその――。製法というか――。できれば、その、木の根の取引だけでもさせてもらえないものかと……」


 木の根は、最近、オダウェル商会が大量生産を始めたと聞きます。

 あるいは良い商売相手になるかも知れません。


「わかりました。紹介して差し上げますわ」

「本当ですか! ありがとうこざいます!」

「え、ええ……」


 下心がないことは理解できるので、怒りはしませんが――。

 いきなり手を握るのもマナー違反です。


「あ。す、すいませんっ!」

「いいえ」


 すぐに気づいて離してくれたので、まあ、いいですけれど。


「それにしても、食の都は楽しそうな場所ですわね」

「食を愛する人間には天国ですよ。アリーシャさんなら、きっとすごく気に入ると思いますよ」

「あら。どうしてかしら?」

「だって姫様ロールを一瞬で食べましたよね。すごく美味しそうに」

「……そうですわね」


 少し恥ずかしい思いをしてしまいました。


「サンネイラに来ることがあれば、いろいろご案内しますよ」

「ええ。その時には、お願いしますわ」

「ところで、もうひとつどうですか?」

「はい。ぜひ」


 もちろん姫様ロールのことです。

 わたくし、思わず反射的に即答してしまいました。


 ぱくぱく。


 ふう。


 本当に、至福です……。


「それで、トルイドさん。紹介の件ですが、明日はいかかですか?」

「はい。ぜひ」


 今度はトルイドさんが即答します。

 思わず笑ってしまいました。


 この後、待ち合わせの日時を決めて、わたくしは席を立ちました。

 そろそろ戻らないと、お母様が心配するでしょうし。


 姫様ロールのお店へはすぐに人を出して、申し訳ないのですが時間を作ってもらうようにお願いしました。

 店長は最近、調理ではなく事務仕事中心で働いているようなので、おそらく問題はないでしょう。

 ただ一応、午前の開店前の時間にはしておきました。

 閉店後では――。

 わたくしの門限に引っかかります。

 念の為、クウちゃんにも使いを出しました。

 クウちゃんがいてくれれば、すべての話は早いでしょうし。


 それにしても――。


 わたくしの顔どころか名前も知らないなんて。

 パーティーでは当然、わたくしは第一皇女として入場することになりますが――。


 いったい、トルイドさんは――。

 どんな顔をして、わたくしのことを見るのでしょう。


 想像すると、なんだか楽しくなります。

 今から楽しみです。





ついに700話まで来ました!

ここまでで、1010万PV、4383ブックマーク、17440ptをいただきました。

ありがとうございました\(^o^)/


お話は、まだしばらく、夏休みが続くと思います。

なんて長い夏休みなのでしょうか。

でもよかったらお付き合いくださいっ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] くぅちゃんブーストで魔力アップ
[良い点] 700話おめでとうございます [一言] これからもふわっと楽しく書き続けていただければ
[良い点] おめでとうございます。 更新時は楽しく読んでます。 [気になる点] 胃袋つかまれて、春のおとずれ? 気になる二人です。 [一言] セラ様はいつもおなじ、日常運転(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ