699 ナオとの話
おっと、おしゃべりの前に。
なんか喚いている貴族の息子と娘を緑魔法『昏睡』で眠らせてってと。
ついでに両親らしき2人も眠らせてっと。
「よいしょっと。ナオ、またすぐに来るね。私はちょっと、こいつらをいい感じに処理してくるよ。仕事しててー」
4人を担いで、転移っと。
で。
またトリスティンの王城まで移動してっと。
玉座は使っちゃったから、最上階のテラスでいいか。
4人を置いてっと。
手紙を書いてっと。
ラムス王へ。
こいつらに現実を教えること。でないと王城は砂になります。
と。
名前はもちろん書かないよ!
私はかしこいのだ。
「ただいまー」
ナオのところに戻ると、早くも城兵たちの拘束が始まっていた。
「おかえり。あいつらはどうしたの?」
「トリスティンの城に置いてきたよ。ラムス王に、こいつらに現実を教えろって伝言してきた。こっちはどう? トラブルはなさそうだねー。というか、今更だけど勝手に連れ出してよかった?」
ナオには構わないと言われた。
貴族は捕まえても、すでにお金にならないのだそうだ。
敵王への牽制に使えたなら上々とのことだった。
降伏した城兵たちは、力なく、素直に従って、縄を掛けられている。
トラブルはないようだ。
彼らはもともと、士気が低かったのだろう。
獣王軍と戦う意気なんて、最初からない様子だったそうだ。
ナオたちが城壁を飛び越えて現れるや否や、抵抗することもなく悲鳴を上げて全面降伏したそうだ。
まあ、あの領主一家の下ではね……。
「あ、そうだ、ナオ。大事なことがあった」
私はナオに、魔道具で武装した賊が砦に忍び込んで、多分、クナを誘拐しようとしていたことを伝えた。
賊を拘束して、魔道具を無効化して、いい感じにしたことも。
「……ありがとう。助かった」
「周囲には他に敵反応もなかったし、ラムス王にも子供の誘拐は禁止ねって伝言しておいたから、とりあえずは安心しておいて。すぐに次の刺客が、ってことにはならないと思うから」
もちろん警戒は必要だろうけど。
ナオはすぐに、部下の1人に砦の警戒態勢の強化を命じた。
風魔衆の何人かが、砦に戻ることになったようだ。
「ところでクウは、ユイの使いで来たの?」
「ううん。どうして?」
「だって、ソードの姿」
「これはただの正体隠しだから気にしなくてもいいよー」
「わかった。でも、それならクウは、何の用で来たの?」
「ナオの顔を見に来たに決まってるでしょー」
「そかー」
「もー。私のマネはいいからー」
「そかー」
「こらー」
まったく、もう。
でも、ナオのナオらしい部分も残っていて――。
正直、嬉しい。
そこに突然、ヒュンと、風を巻いて白い獣耳の少女が現れた。
私とナオよりも少し年上、10代後半くらいの少女だ。
懐かしい。
私はその子を知っている。
去年、悪魔に唆されて帝都でテロ行為をしようとして、私に阻止されて、正気に戻った白狼族のユキハだ。
「頭目。城内の掌握は完了しました」
「ご苦労。では、次の準備を」
「はっ!」
今は、ナオの風魔衆の一員として働いているのか。
「やっほー」
「ご無沙汰しております、かしこい精霊さん様」
何故か居た私を見ても、ユキハは動揺する素振りを見せない。
うん。
立派に忍びをしているようだ。
短い報告をおえて、ヒュンと、ユキハは消えた。
「あの子も元気そうだね」
「ユキハはよくやってくれている。海洋都市にいた黒狼族に話をつけて、風魔衆の基礎を築いてくれた」
「風魔衆って、またすごい名前にしたね」
「忍者は浪漫。カッコいい名前は必須」
「まあねー」
ナオは光と闇の力を全力で使って、彼らを鍛え上げたそうだ。
効果的な鍛え方については、エリカのところから来ている古代竜のエンナージスさんから教わったそうだ。
ナオにとっても強化魔法に蘇生魔法に回復魔法、それにオーラの使い方の良い訓練になったそうだ。
うん。
恐るべし。
「あと、クウ。ニナお姉ちゃん様の村にゴーレムをありがとう。ゴーレムの守護のおかげで、あそこは強盗から守られて、海洋都市とド・ミ解放軍をつなぐ港として大いに発展している」
「へー。そうなんだー」
それはよかった。
残ったみんなも元気でやっているんだね。
この後、ナオには悪魔の探知装置と呪具の探知装置を渡した。
どちらも学院祭の警備用として、私とヒオリさんとフラウとで開発して実用化させたものだ。
さらには、強化魔法の付与された指輪も。
ユイとエリカにあげて、ナオにあげないのは不公平だろう。
もっとも風魔衆は、とっくに全員、驚異のレベルで魔力浸透が進んでいて指輪の補佐は必要なさそうだけど。
「ありがとう、クウ」
「お礼は芸でお願いね。またいつか」
「わかった」
さすがにすぐにやれとは言わない。
だけど私はまた、ナオの冴えた芸が見たいのだ。
「クウは今、学生だよね?」
「うん。勉強でひーひー言っているよ。今は夏休みだけど」
「落ち着いたら見学に行ってもいい?」
「もちろん」
この後、少しだけおしゃべりした。
主に私の近況。
学院生活や旅のことを。
ただ、のんびり会話できる環境では、残念ながら、ない。
なにしろ目の前では、捕虜が拘束されている。
「じゃあ、ナオの元気な姿も見れたし、私は帰るね」
「うん。また」
「あ、そうだ。これを渡し忘れていた」
私はアイテム欄から、旅のお土産を取り出した。
「はい。旅のお土産」
それは、まるでウニのような――。
私の目にはウニにしか見えないけど――。
カメ様の置物だ。
ナオに手渡すと――。
「これは――。海の守護者、カメ様だね。ありがとう、クウ。船に乗る時のお守りにさせてもらう」
と、言った。
「うん……」
やはり、カメ様はカメ様。
知ってた。
「どうして悲しそうな顔?」
「あ、ううんっ! なんでもっ! あははは!」




