696 クウちゃんさまの平和な1日 午後
「――1品の上限を金貨10枚として、合計で金貨1万枚分の宝石ですね。わかりました。確かにお引き受け致します」
さすがはウェーバーさん。
帝国を代表する大商会の頭取だけはある。
約10億円になる取引を、ごく普通に引き受けてくれた。
「ありがとうございます。お金、払っときますね」
「いえ。商品と引き換えで結構です」
「でも、大金だし……」
「はははっ。大丈夫ですのでご安心ください」
ウェーバーさんは余裕の態度だ。
本当に大丈夫らしい。
ウェルダンなんて、千枚で大盛りあがりだったのに。
「あと、できれば、木材とインゴットも売ってもらえると嬉しいんですけど。こちらも金貨1万枚分」
私、どれだけお金持ちなんだろうね。
我ながら。
「ええ。もちろん大丈夫です。クウちゃんのご用命とあらば、大特価でご奉仕させていただきます」
「あ、いえ、定価でいいので……」
「はははっ。大丈夫ですのでご安心ください」
ウェーバーさんはまたも余裕の態度だ。
かくして、素材不足問題は、いともあっさりと解決しそうだった。
宝石に木材に金属は、採掘して加工して自力で入手できるんだけど数を揃えるのは手間がかかりすぎる。
私は、その時間で、高レベルのレア素材を探しに行きたい。
お金で解決できるならそれが1番だ。
お金も、いつまでも私のアイテム欄に眠らせたままでは、その分だけ経済が回らなくなってしまうし。
さらに、布と綿も融通してもらった。
ぬいぐるみマートで使うために大量のストックがあるのだそうだ。
私もぬいぐるみを作りたい。
すぐに倉庫から持ってきてくれることになった。
ありがたや。
「そういえばアリスちゃんは元気ですか?」
「はい。元気です。最近では、今までの大人しさが嘘のように、ゼノと一緒に家を走り回って家人を困らせております」
ゼノというのは、私の知るゼノ本人のことだ。
ウェーバーさんの孫のアリスちゃんは、闇の魔力を持った今年で6歳になる可愛らしい女の子だ。
闇の魔力は、光の魔力と同じくらいにレアなんだけど、所持者の心を非常に不安定な状態にしやすい。
なのでゼノがそばについて面倒を見てあげているのだ。
――ペットの黒猫として。
「私は魔法少女などと言って踊りを見せてくれたり、可愛いものです」
「へー。そうなんですねー」
「あまりの可愛らしさに、時々、時間が飛んでしまう程です。ははは。私もそろそろ年ですかなぁ」
「またまたー。まだ若いですよー」
私は普通に笑って受け答えするけど――。
私は知っている。
たぶん、ウェーバーさんは、見てはいけないものを見てしまって――。
記憶を消されたのだろう――。
アリスちゃんは、実はとっくに魔法の力を身に着けている。
ゼノが魔力覚醒させてしまったのだ。
いわゆる、アレだ。
ボクと契約して魔法少女になろうよ。
的なノリで。
私に内緒で。
みんなにも秘密で。
なので本当にアリスちゃんは魔法少女なのだ。
私も実態はよく知らないけど。
ゼノが頑張って育てているわけだし、事件でも起こさない限り、余計な口出しはしないようにしている。
「あ、そうだっ! 私、実は旅行に出ていて、アリスちゃんにお土産がいろいろとあるんですよー!」
「おおっ! それはありがとうございます。アリスも喜びます!」
「7月の内に遊べると嬉しいんですけど、どうでしょうか? よかったらお邪魔させていただきたいなーと」
「もちろん大歓迎ですぞ! ただ、どうせなら私も家にいる時が良いので、少々お待ちください」
ウェーバーさんがスケジュールを確かめたところ――。
7月29日なら都合がつくとのことだった。
明後日だ。
「じゃあ、その日でいいでしょうか」
「ええ。せっかくですし、ランチをご馳走させてください」
「はい。ありがとうございます」
話はまとまった。
おっといけない。
「参加者なんですけど、えっと……」
今回については私とセラでいいか。
あまり大勢で旅の話をすると、身内だけで盛り上がっちゃいそうだ。
「もう1人いいですか? 私の友達なんですけど」
「もちろん歓迎させていただきます! どうぞ、お連れください!」
話は決まった。
アリスちゃんと会うのは久しぶり。
明後日が楽しみだ。
この後、布と綿を購入して、ウェーバーさんの商会から出た私は――。
その足でセラのところに行った。
セラは勉強中だった。
休み時間になるのを待って話をしたところ……。
断られた……。
セラなら絶対にオーケーだと思ったのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!
これにはクウちゃんさま、ショックを受けたのだけど……。
セラは聖国へと旅立つ寸前だったよ。
29日の昼には貴族との食事会があるとのことだった。
以降も出発まで、セラのスケジュールは詰まっていた。
仕方ないか。
さすがに私はあきらめた。




