69 大鎌の襲撃者
しかし、ユイ。
とんでもない形で信仰されているね……。
どう考えてもユイの意向ではないだろうけど……。
さて、どうしたものか。
捕まえて、衛兵に引き渡すのがいいかな。
というかそれしかないか。
ソウルスロットを変更。
緑魔法、白魔法、敵感知。
「さあ、仕上げです!
闇よ!
光の影たる闇よ!
我は願う!
我が命を以て、この帝都にさらなる呪いをもたらし給え!」
懐から取り出した黒い刃の短剣で、男性が自らの胸を刺そうとする。
「昏睡」
即、魔法をかけた。
レベル80緑魔法『昏睡』。
バタリ、と、白いローブの男性が倒れる。
敵感知の反応も消えた。
短剣はアイテム欄に回収する。
アイテム名は『願いの短剣』。
自らの命と引き換えに邪悪なる存在に願いを届ける呪具。
と説明がある。
これってもしかして、セラに呪いを与えたという貴族が胸に刺したのと同じモノなのではないだろうか。
と、考えていた時だ。
男性の体がびくんと大きく跳ねた。
目を剥いて、息を吐く。
悪魔かゾンビにでも変貌してしまいそうに全身が波打ち始める。
いかん!
これはいかん!
どどど、どうしよう!
とりあえずリムーブカースをかけた。
だけど私の目の前で、男性の肌がみるみる生気を無くしていく。
「呪い! 呪いだよねこれ!?」
急いでソウルスロットを変更。
「パワーワード! 我、クウ・マイヤが世界に願う! 我に力を与え給え!」
威力を高めて、もう一度!
「リムーブカース!」
どうだ……。
お。
動かなくなった。
男性の肌が元に戻っていく。
どうやら、昏睡状態に戻ってくれたようだ。
ふう。
よかった。
助けることはできたようだ。
…………。
いったい、なんだったのだろう。
のんびり考えている余裕はなかった。
敵感知が、またも反応する。
場所は至近。
恐怖を振り払って、感覚を研ぎ澄ます。
部屋には他には誰もいない。
少なくとも、目に見える範囲では。
ただ、肌に粘りつくような、妙な違和感はある……。
「誰かいる――よね――?」
刹那。
空気のブレを背後に感じた。
私は振り向きざまに『アストラル・ルーラー』を振るった。
暗闇から現れて今まさに襲いかかってきた大鎌の刃を受け止める。
さすがは神話武器。
受け止めただけで、相手の大鎌を粉々に砕いた。
「……いたね」
背後にいたのは、まさに死神のように黒い布衣で全身を覆った何者かだった。
背丈は私よりも少し高い程度。
華奢で小柄だ。
「誰?」
フードに隠れて顔はほとんど見えない。
真っ白な肌の上で両端を持ち上げる薄い唇だけが見えた。
「ボクは――闇だよ」
無邪気な女の子の声で、不気味な返事をもらった。
「――とりあえず武器は壊したけど、どうするの?」
余裕を見せつつ内心で焦る。
何しろソウルスロットに、黒魔法も小剣武技も入れていない。
緑魔法をセットしたのに強化魔法もかけていない。
「キミは、悪魔? 誰なの?」
今度は私が問われた。
どうしよう。
答えるべきだろうか。
無視して一気に斬り込むべきか。
いやまずは相手を知らないと。
「私の質問に答えてくれたら教えてあげる」
私は言った。
「なーに?」
「君が、短剣を――小瓶や首輪をこの男にあげたの?」
「ううん」
「ならなんでここにいるの?」
「このニンゲンが邪悪に呑まれて破滅しそうだったから、観察していただけだよ」
「帝都をどうする気?」
「どうもしないよ? 本当に見ていただけだし」
「私に攻撃してきたよね?」
敵反応もあるぞ。
「そりゃするよ。キミが、このニンゲンに邪悪な力を与えたんだよね?」
「失礼な。この私が、邪悪な存在に見える?」
かわいいだけが取り柄のクウちゃんなのに。
「んー。どうだろうねー」
「よく見てね? そもそも助けたよね、私」
「……うーん」
ここで敵反応が消えた。
「――ところで君って、魔王の手先?」
私はたずねた。
思い当たる節は、それしかなかった。
「魔王なんて知らないよ。何それ? それで、キミは誰なの?」
「私はクウだよ」
「クウってなに?」
「名前」
「ああ、名前かー」
「貴女は?」
「ゼノリナータ。ゼノでいいよ。クウは、ボクのこと告げ口する?」
「誰に?」
「誰かに」
「しないし、しようがないよ。誰かなんて知らないし」
私は肩をすくめた。
「ならいいや。じゃあ、ボクは行くね。そのニンゲン、まあまあ面白かったなー」
無邪気に笑いつつ、ゼノは消えようとした――。
――ところを容赦なく。
「昏睡」
緑魔法でゼノの意識を奪った。
いや、うん。
お試し?
効くかなーと思ってやってみたんだけど。
あっけなさすぎなほど、しっかりと効果が発動してしまった。
「よいしょっと」
肩に担いだ。
ゼノのフードからこぼれた黒髪が私の肩に触れた。
氷みたいに冷たい髪だった。
「えっと、ごめんね? せっかくだし、少しオハナシしようか」
ソウルスロットに銀魔法をセット。
「あ、この人はどうしよう」
部屋にはもう1人、白いローブの男性が倒れていた。
「んー」
正直、この狂信者な人には用がないね、私は。
あとは衛士の仕事だよね。
報告しておくか。
放置もできないのでゼノを担いだまま『浮遊』して夜の町に出た。
幸いにもゼノは軽い。
そんなに負担はなかった。
そのまま衛兵の詰め所に行って、ペンダントを見せてひっくり返られた後、現場への急行をお願いする。
ペンダントの効果はテキメンですぐに向かってくれそうだ。
これでよし。
さて。
「――転移、竜の里ティル・デナ、大広間」




