686 1人の夜
みんなとの旅がおわった。
10日間の旅――。
なんだか2ヶ月以上にも感じる、とても長い旅だった気もする。
私は今、工房の3階にある自分の部屋にいる。
時刻は深夜。
久しぶりの部屋で、窓際の椅子に座って――。
帝都の夜景と――。
窓に映る自分の顔を見ながら――。
1人、眠るまでの静かな時間を過ごしている。
たぶん、家に帰ったらすぐに寝ちゃうんだろうなー。
と、思っていたけど。
まるで眠くならない。
いっそ、いつもの『陽気な白猫亭』で騒げばよかったかなー、なんて思ってしまうくらいだ。
ネミエの町でワイバーン退治をしようとしていたロックさんやブリジットさんも帝都に戻っているだろうし。
逃がしてあげたワイバーンくんは元気でやっているのかなー。
ヒオリさんも2階の自室に入った。
もう寝ているのだろうか。
我が家に居候中のフラウは、一旦、竜の里に戻った。
クリエイト・ゴーレムを成功させるため、竜の里の宝物庫で役に立ちそうなアイテムを探すのだという。
私は明日からのことを考えてみた。
明日は、午前から大宮殿だ。
まずは陛下のところに行って、ウツボ団に関する真面目な報告をする。
楽しい旅の話は、ランチを取りつつセラと一緒にする予定だ。
南の島の悪魔のことは……。
とりあえず、テキトーに究極魔法をブッパしたら、巻き込んで消滅させたかも知れない……。
そのことは伝えるとしても……。
悪魔フォグの宝箱のことは、どうしようか。
正直、私がお酒に取り憑かれたことは、人に言いたくない。
ていうか、言えない。
セラたちにも秘密にしているし……。
陛下たちにも秘密にしようかな……。
うん。
だって、ただの気の迷いだ。
気の迷いは、その内に自然と晴れるものだ。
心配させる必要はない。
あー。
なんかストレスだぁ。
ストレスといえば、解消するにはやっぱりお酒だよねえ。
あー。
さーけがのみたいー♪
ららら♪
さーけがのみたいー♪
はっ!
いかん!
頭の中に勝手に酒の歌が浮かんできた。
危険だ!
この話題は、一旦、保留!
その後、時間があれば、ウェーバーさんとウェルダンのところに行って、宝石や食料の発注がしたい。
なにしろこの旅で、いろいろと使い果たした。
私のアイテム欄は、けっこう空っぽだ。
お金だけは、恐ろしく大量にあるけど。
国への魔道具販売。
皇妃様とその御友人へのファッションアクセサリーの販売。
純粋な、ふわふわ工房の売上。
ウェーバー商会からの各種ライセンス料。
騎士と魔術師への指導料。
はっきり言って、すでに普通の人生なら何周か出来る。
ここいらで、そろそろお金も容赦なく使って、経済の歯車を大いに回すお手伝いをするべきだろう。
明後日は、前世の親友たち三人に会いに行きたい。
まずはリゼス聖国。
聖女様なユイのところに行かねば。
ユイにもウツボ団関連の報告をしないといけない。
なにしろソードとして、トリスティンの玉座に悪党を放り投げて来た。
どうなったのか、確認は必要だろう。
ナオのところにも行きたい。
ナオとは、もう何ヶ月も顔を合わせていない。
ナオは今、亡きニナさんの残した一人娘――クナを女王として擁立し、将軍として獣人軍を率いている。
領土返還の話は、まとまったのだろうか。
獣王国の復活は間近なのだろうか。
ジルドリア王国の王女様、エリカのところにも行きたい。
なにかあるかも知れないし。
なにより、エリカとも最近は会っていない。
たまには顔を見ないと。
帝国では、冒険者ギルドにも顔を出しておきたい。
禁忌調査のような話が、またあるかも知れないし。
シャルさんのハンバーガー屋と、クラスメイトのアヤの親が経営しているスーパーマーケットにも行きたい。
おっと、忘れちゃいない重要事項!
アリスちゃんのところにも遊びに行かないとねっ!
素材採集の旅に出るのは、それがおわってから。
と――。
セラを聖国に送り届ける仕事もあった。
8月の1日から30日まで、セラはユイの下で修行するのだ。
「あーそうだ」
私がいない間もお店を開いていられるように、ぬいぐるみやオルゴールやランプを作っておかないと。
まだ在庫はあるけど、一気に売れるかも知れないし。
布や綿の発注もせねば!
うーむ。
明日からも大忙しだね、私。
頑張ろうっ!
気合を入れたところで、急に眠気を感じた。
私はベッドに寝転ぶ。
薄い布団を肩までかけた。
目を閉じると――。
すぐに、私の意識は遠のいていった。




