684 旅のおわり
帰宅の時間がきた。
朝日が照らす真っ白な砂浜には、私たちに加えて、見送りに訪れてくれたリザードマンたちとエルフたちの姿があった。
「タム、元気でね」
「うんっ! はい……。クウちゃんさまも、お、元気です」
「おお。偉い。しっかりした言葉で言えたね」
「教えてくれた、お、かげ、です」
さすがにまだたどたどしいけど、タムがちゃんとした言葉遣いでお別れの言葉を口にしてくれた。
「タム。私はタムのおかげで救われた。本当にありがとう」
「そうなの? です?」
「うん。実はね」
カメはカメ。
ウニはウニ。
そのことをタムが言ってくれなければ。
お酒とのダブルコンボで、私の精神は崩壊していたかも知れない。
本当に恩人だ。
「タムも、私も、教典、大切にする、です!」
「あはは。それは適当でいいんだけどね。それよりも自分の体を大切にして、健康第一でね。また来るから、それまで元気でね」
「うんっ! はい! また会うの、楽しみ、です!」
私は、タムの頭をナデナデした。
ここで何故かマリエが、「こほん、こほん」と、わざとらしい咳をする。
なんだろか。
と思って、そちらを見たところで気づいた。
マリエの隣に私のことをちらちらと見ているエルフの少女がいた。
「リリシーダさんも元気でねー」
あぶないあぶない。
あやうく、声をかけずにおわるところだった。
「はいっ! 私にもお声がけいただきありがとうございますっ! 忘れられているかと思いましたっ!」
「クウってさー、興味ない相手のことは簡単に忘れるよねー」
ゼノが余計なことを言う。
「そんなことはないよー! ただの順番なの! 興味はある! 忘れない! リリシーダさんも立派な巫女になってね!」
「はい。精一杯、努めます」
私とはあまり関わらなかったリリシーダさんは、かわりにマリエとはすっかり仲良しになっていた。
2人は、手を取り合って別れを惜しむ。
「マリエ、本当にいろいろとありがとう。貴女のように立派なニンゲンと友人になれたことは私の生涯の誇りよ」
「私なんて普通だよー。それより楽しかった。シーダ、またいつか会おうね」
「ええ。当然よ」
タムは、いつの間にかエミリーちゃんと仲良くなっていた。
お互いにエールを贈る。
「エミリー、ゴーレム作るの頑張ってね!」
「タムも儀式とかするのは大変だと思うけど、クウちゃんを信じていれば絶対に幸せになれるよ! 頑張ってね!」
「うんっ! クウちゃんさまに、タムは祈るっ!」
「2人とも、そこは私じゃなくて精霊ね」
私はちゃんと訂正しておいた。
「精霊さまに、タムは祈るっ! ですっ!」
「わたしも精霊さまを信じるっ!」
タムとエミリーちゃんは、すぐに言い直してくれた。
よかった。
私個人に祈られても、正直、困る。
「ふふ。クウちゃんに祈るのはわたくしにお任せ――」
「もちろん、セラもだからね? 昨日も言ったけど、私に祈るのは禁止です」
「うう……。はい……」
「そ、それでは、我々の儀式も禁止なのでしょうか……?」
リザードマンの族長が、おそるおそる聞いてくる。
ああ……。
そういえばそうだったね。
クウちゃんだけに、くう。
とか。
世界で1番とか、あったね……。
なんかもう、完全にスルーしていたけど。
セラとリザードマンたちが、緊張の面持ちで私の返答を待っている。
「……まあ、あれくらいならいいけど」
「そうですか! よかったです!」
「やりましたー!」
セラとリザードマンたちが大喜びする。
いや、うん。
私の顔色、よーく見てくれると嬉しいかなぁ……?
本当はやめてほしいんだけど。
見てくれないので、私は諦めることにした。
この南の島には、また来ることになる。
特にリザードマンには会いに来る。
ゴーレムの『心核』の原材となる、不定性魔水晶をリザードマンが海底から見つけてくるからだ。
滅多に取れるものではないから期待は禁物だけど。
儀式を通じて友好的でいてくれるなら、それに越したことはない。
「皆、喧嘩はしても戦争など起こさず、平和に暮らすのである」
「「「ははーっ!」」」」
最後に、巨大な黒竜の姿で脇に控えていたフラウに声をかけてもらって、お別れはおわった。
セラたちには、あらかじめ出しておいた馬車に乗り込んでもらう。
ちなみにロッジは、アイテム欄にしまった。
できるかなぁ、と、思って試してみたら、見事、そのまますっぽりとアイテム欄に収納出来てしまった。
本当にすごいね、我ながら。
「じゃあ、元気でっ! まったねーっ!」
私はゼノと2人、馬車を抱えたフラウに並んで青い空へと浮かんだ。
下ではエルフとリザードマンが手を振ってくれている。
「フラウ! 北へ! まずはリゼントにお願い! キアードくんに島のお土産を渡してから帝都に戻るよー!」
「わかったのである」
「リゼントでは、お土産の分配もしようねー。ゴブリンにエルフにリザードマンにキアードくんからもらったお土産が大量にあるからさー」
「妾は『心核』だけで満足なのである。工芸品や食べ物をもらっても取っておけないのでみんなに渡すのである」
「ボクもいらないかなー。また誘ってくれれば、それだけでいいよー」
「りょーかい!」
「……クウ、ボクのこと忘れないでね?」
「もちろんだよー!」
あははー!
この旅でも忘れていたことは、うむ。
生涯の秘密にしよう。
 




