682 マリエ監修、エルフの芸! 極!
「「「「「聖なる山、ティル・デナ」」」」」
マリエぇぇぇぇぇ!?
なにやらせちゃってるのキミはぁぁぁぁぁ!?
なんで、見てくれましたかすごいでしょ! みたいに、グッと親指を持ち上げてるのぉぉぉぉ!
渾身の出来だったのかなぁぁぁぁぁ!
まあ、うん。
はい。
たしかに、300人が一斉に「聖なる山ティル・デナ」をするのは、凄まじく壮観な光景ではあったけど……。
いや、うん。
たった1日ながらも頑張って練習したのはよくわかったけど。
でもさ……。
エルフの人たち……。
絶対に、聖なる山ティル・デナ、知らないよね!
知らないのにやっちゃってるよね、これ!
いいのかそれはぁぁぁぁぁ!
まあ、いいか。
気にしないでおこう。
聖なる山ティル・デナとは、ザニデア山脈の最奥にそびえる高い尖山であり、その形状から私的にとんがり山とも呼んでいる。
大陸の人たちには、近づけば生きては帰れない、竜が守り住まう、神の領域に近い山として知られている。
実際、ティル・デナは、中がダンジョンになっていて、フラウたち古代竜が昔から暮らしている。
そして今、エルフの人たちが披露した「聖なる山ティル・デナ」。
これは、アンジェのおじいさん、帝国のフォーン大司教が生み出した芸の頂とも呼べる一発芸だ。
ゆっくりと、余裕を持たせた体勢から――。
合わせた手を一気に突き上げ、高い尖山を自らの全身で表現する。
簡単なように見えて、難しい。
非常に高度な表現力を必要とする芸だ。
まさか……。
それを持ってくるとは……。
本当に予想外だった。
見れば、アンジェやエミリーちゃんが満面の笑顔で拍手をしている。
ウケたようだ。
いや、うん。
私だって、すごいとは思った。
拍手しよう!
ぱちぱちぱちぱちぱち。
拍手の後、再びリリシーダさんが一礼する。
「次が最後となります。最後の芸もまた、マリエ様のご温情により、特別に教えていただきました。クウ様の特技。やらせていただきます」
私の特技とな。
はて。
なんだろうか。
私が首をひねっていると――。
始まった。
エルフの全員が両腕を横に広げて、その腕を静かに揺らし始める。
私は、それがなんなのか一目で理解した。
まさに、私の特技。
にくきゅうにゃーんに続く、我が第二の太刀――。
なみ、ざばざば、だぁぁぁぁぁ!
しかも、それは――。
ただの、なみざばざばではなかった。
300人がひとつとなって、ゆらりゆらりと上下するその光景は――。
もはや、ただの波ではない。
もはや、ただのざばざばでもない。
それは、そう――。
たとえることもなく、この島の周囲に広がる――。
「大海原」
リリシーダさんが、まさに、私の抱いた感想をタイトルとして口に出した。
私は滂沱した。
なんという……。
なんというものを見せてくれたのだ……。
見える。
私にも海が見える……。
やがて、芸がおわった。
エルフたちが一礼する。
拍手の後――。
会場は沈黙に包まれた。
「……クウちゃん、きっとエルフの人たちは、みんな、クウちゃんの言葉を待っているんだと思います」
セラに促されて、私は立ち上がった。
私は素直に語った。
「皆さん、素晴らしかったです。皆さんに祝福を」
次の瞬間――。
エルフたちから歓声が起こった。
抱き合って泣く者までいる。
「許された!」
「我々は許された!」
「世界の敵にならずに済んだのだ!」
「あああああ! 世界の敵にならなくてよかったぁぁぁ!」
ふむ。
世界の敵ってなんだろう。
私はふと、振り返ってゼノのことを見つめた。
すると、ゼノがにっこりと笑う。
「ねえ、ゼノ。なにかやったの?」
「あいつら、全然わかってなかったから、ちょっとだけ夜に脅したのさ。効果絶大でボクも嬉しいね」
「世界の敵とか?」
「そうだねー。適当だけど、そんなことも言ったかなー」
「まあ、いいけど」
よくわからないけど、結果としては良い方向に働いたんだよね。
なので気にしないでおこう。
そう。
私は細かいことは気にしない子なのだ。
この後、エルフたちに回復魔法と祝福をかけてあげた。
そして、昼食をごちそうになった。
みんなで一緒に食べた。
みんな元気で。
みんな幸福。
つまりは、ハッピーエンドだよね。
世界の敵ではないことは明言してあげた。
その証として装飾品を贈った。
泣いて喜ばれた。
もともとエルフにあげるつもりで、残り少ない素材を使って昨日の夜に作っておいたものなんだけどね。
さすがにリザードマンだけに装飾品をあげてしまっては、両者のバランスが悪くなるだろう。
食事を楽しみつつ、マリエともおしゃべりした。
「ふふー。クウちゃんどうだった? みんな、頑張ってたよね」
「うん。まさか、ああくるとは思わなかった」
「へへー。でしょー」
マリエは芸が成功して上機嫌だ。
頑張って指導したらしい。
エルフからは、すっかり信頼されている様子だ。
「マリエさん」
盛り上がっていると、それまで静かに食事していたセラが、食事の手を止めてマリエに話しかけた。
「見事な芸でした。わたくしも感服しました。今回も引き分けですね」
「セラちゃん、ありがとうっ!」
マリエとセラは、ガッチリと熱い握手を交わした。
私は拍手した。
すると、旅の仲間たちも拍手した。
拍手はやがてエルフたちに、広場全体に広がった。
友情に乾杯っ!
参考
■なみざはざば
50 炸裂! にくきゅうにゃ~ん そして波ざばへ…
■聖なる山ティル・デナ
99 これが芸というものよっ!
475 芸の頂




