681 マリエ監修、エルフの芸!
午前。
迎えの船に乗って、私たちはエルフの住む島へと向かった。
今日のメンバーは全員。
ヒオリさんたちもゴーレムの研究を中断して、マリエが監修したというエルフたちの芸を見に行く。
リザードマンのタムも一緒だ。
いいのかなぁ……。
とは思ったけど、1人だけ残していくわけにもいかない。
ゼノが問題ないと言うので、連れていくことにした。
迎えに来たエルフやリリシーダさんは、一瞬だけ困った顔をしたけど、文句は何も言わなかった。
というか、ゼノと視線が合うと、あわてて大歓迎の意思を示した。
ふむ。
どうもゼノが何かしたみたいだね。
私は気にしないけど。
砂浜に着くと、300名くらいのエルフが整列していた。
「「「ようこそおいでくださいました! 精霊様!」」」
うお。
大声で歓迎されて、正直、びっくりした。
島に住むエルフの、ほぼ全員らしい。
リザードマンと比べると、人口は10分の1だね。
ただエルフには、生まれついての魔力特性がある。
争いになったとしても、簡単に不覚を取ることはないだろうけど。
まあ、うん。
そんなことにならないように、頑張っているんだけどねっ!
このまま砂浜でやるのかと思ったけど、そうではなく、族長さんの案内で私たちはエルフの都に向かった。
エルフの人たちは、私たちの後から付いてきた。
エルフの都は、森の奥に広がる、森と調和した自然の都だった。
地上だけではなくて、木々を繋いだ通路やツリーハウスもある、立体的に構成された見事な都だった。
家先や広場には、彫刻や花壇がバランスよく配置されていた。
菜園もしているようだ。
外灯も設置されていた。
綺麗な水の流れる水路も伸びていた。
孤立した島で生きているのに、けっこう文化的な生活をしているようだ。
「クウちゃん、最終確認もあるので、私、エルフさんたちの方に行くね」
「うん。頑張ってー」
マリエが別れて、残った私たちは噴水のある広場に連れて行かれた。
広場にはテーブルと椅子があった。
促されて着席する。
椅子の数には余裕があって、タムもちゃんと座ることができた。
座るとすぐに、飲み物を持ってきてくれた。
レモンの入った炭酸水だった。
湧き出る泉があるのだという。
実に素晴らしい、すっきり爽やかな味わいだった。
さあ。
そして。
私たちの前に、再び、エルフの人たちがずらりと整列した。
どうやら全員で芸をするようだ。
一体、どうするのだろうか。
300人での芸……。
しかも、練習期間は、たったの1日。
想像がつかない。
指揮は、リリシーダさんが取るようだ。
最後にマリエと少し話し合って、エルフたちの前に1人で出てきた。
「見せてもらいましょうか。マリエさんの指導の実力とやらを」
セラが柄にもなく斜に構えた不敵な態度で炭酸水を飲みつつ、宇宙世紀の赤い人みたいなことを言っている。
うん。
まあ、いいんだけどね、べつに。
私は気にしない。
「これより、我らサンドコーラル・エルフ一同による、精霊様へと捧げる奉納の芸を披露させていただきます。どうぞ、ご覧ください」
リリシーダさんが一礼する。
いよいよだ。
美しい広場の空気が一気に張り詰める。
とても楽しいことをする雰囲気ではなかったけど、それだけエルフの人たちは容赦なく真剣なのだろう。
来い……っ!
私は全力で受け止め、そして、楽しもう!
む!?
エルフたちの予期しない動きに、私は我が目を疑った。
何故ならば。
芸を始めるかと思いきや!
全員、うつ伏せになって寝転んだ!
な、なんだ。
これは……。
私が混乱に落ちようとした、まさに、その時だった。
風の魔力を感じた。
エルフたちの緑色をした長い髪が、一斉に、ふわり、と、浮き上がった。
「大草原」
リリシーダさんが言う。
おおっ!
たしかに!
浮き上がってなびく300人のエルフたちの緑色を帯びた銀髪は、まさに、大草原の1場面を切り取ったかのようだ!
私は拍手した。
みんなも、拍手していた。
脇を見れば、腕組みした監修のマリエが、うんうん、と、とてもとても満足げにうなずいていた。
魔力を収めて、エルフたちが身を起こす。
まだ芸は続くようだ。
いや――。
マリエが私の方を見て、不敵な微笑みを浮かべた。
どうやら――。
今のは、ただの前座らしい。
次が本番のようだ。




